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・サイボーグ魔王、赤の英雄を骨にする 2/2

「よう、やってくれるじゃねぇの……」


「折れ……た……?」


「そりゃよぅ、そうだろうよ。てめぇら原始人が鍛えた棒きれなんぞで、俺っちの強化外骨格を斬れるわけねーだろ、タコ。サイボーグおじさん舐めんなよ」


 俺が前に出ると、やつは武器を予備のグラディウスに持ち替えた。


「ヒ、ヒヒヒ……貴様、新しい魔王だよなぁ……?」


「おう、魔王にされちまったが何か?」


 赤の英雄ドキルマはどこかの世界から転移してきた快楽殺人者だ。肌は浅黒く、戦士とは思えないほどに痩せていて、顔は魚に似ている。

 装備はローブと鎖かたびら。今さらだが奇襲戦法を好む。


「テメェよぉ……俺たち七色の英雄がテメェの天敵って聞いてねぇのかぁぁ……? ヒャハハハハッ、人望ねぇなぁ、おっさんよぉ……っ!!」


 性格はこれ以上説明するまでもないな。見ての通りのクズの中のクズだ。狡猾だが思慮ってやつがない。


「知ってっけどきちゃ悪ぃのか?」


「バァァァーーッカッッ!! 自分から殺されにきたようなもんだぜっ!!」


 冷静に赤の英雄ドキルマの言うことを受け止めてみたが、聖剣を失ったのはやつの方だ。わかっていないのはヤツの方だった。


「もう一度言うぜ、原始人ごときが鍛えた棒きれで、俺っちを殺す? ハハハッ、ちゃんちゃらおかしいぜ!!」


「なら死ねよ、クソ魔王がッッ!!」


 グラディウスが魔王の胸を薙ぎ払おうとした。そいつを俺は震動ナイフで――受け止めなかった。


「おっと……。物騒ななまくらを振り回さないでくれるかね?」


「なまくらだぁ? こいつは折れた英雄の剣をSS級鍛冶師に修復させた魔王殺しの――は、はれぇ……刃がねぇぇぇぇ……っっ!?」


 レーザーブレードとも渡り合える俺の震動ナイフが原始人が作った武器ごときに負けるわけがない。俺はヤツ言う魔王殺しとやらから刃を斬り取ってやった。


「おい、そこの石器時代の猿にも劣る原始人」


「うっ、あっ……!? ま、まずい……っ、まずい……まずい……まずい……っ!? な、なんなんだこの妙な魔王は……っっ?!!」


 聖剣がなければ魔王は斬れない。それがこの世界のルールだ。ドルキマはさっきまでの威勢が嘘のように萎縮していった。


「よくも俺っちの民に手ぇ出しやがったな。落とし前、付けさせてもらおうか……!」


「お、覚えていろぉぉぉーっっ!!」


「アホか、児童向け番組じゃあるめぇし、逃がすわけがねぇだろ」


「次は絶対殺す!! 覚えてい――フッ、フギャァァッッ!?」


 逃げようとするやつの首を背後から掴み、吊し上げた。このまま魔王の破壊衝動に身を任せてひねり潰すのも悪かねぇ。

 だがこの光景を本国の連中に後で見られるかと思うと、もうちっとスマートにいきたくなった。


「お、折れるぅっ、首っ、首がっ、息がっ、ヒュ、ヒュッ、ヒュゥゥゥーッッ!!」


「ドキルマ、お前さんはゲームオーバーだ。骨になりな」


「た、たしゅけて……っ、僕、ただこの世界でっ、ゴミを殺して遊んでただけ――カ、カヒッッ?!!」


 傲慢に染まれば明日は我が身かね。俺は赤の英雄ドキルマの処置をした。


「すげぇ……さすが、バーニィの兄貴だべ……」


「おお、生きてたかっ、タンッ!」


「おう、ふがいねぇがなんとかな……。瓦礫、どかしてくれ……。ぁぁ……死ぬかと思ったべよ、兄貴……」


 タンは生きていた。ドキルマが破壊した家屋の下敷きになっていた。タンの胸ではスライム族がつぶれていた。


「コイツがかばってくれたんだ……俺なんて、戦って飲むしか脳のねぇクソ野郎だってのに……ちくしょう……」


「だったら生き返らせりゃいい。リザレクション……!」


「なっ、なんだってぇぇ……っっ?!」


 魔王クルトベレェが使っていた復活の魔法を献身的なスライム族使った。結果は失敗、そのスライム族は生き返らなかった。残念だ……。


「お、おお、生きている……俺、生きているぞぉ……っ! ぁ…………?」


 タンの腕を引いて上体を起こしてやると、背中側からドキルマの声がした。


「ほ……ね……?」


「おい、兄貴……! あのゲス野郎を殺さなかったのかよ、おめぇ……っ!?」


「おう、骨になれと言ったが、殺すとは言ってねぇな」


「しゅ……しゅけるとんに、なっているぅぅぅーーっっ?!!」


 ネクロマンサーと名高き魔王ネビュロスの力を模倣して、ヤツを骨の怪物に変えた。これでやつは人間の世界には帰れない、って寸法よ。


「おい、ゲス野郎……立場、わかってんべなぁっ、おめぇ……っっ!!」


 当然だがタンは虐殺者ドルキマにキレた。


「ヒ、ヒィィッッ?!!」


「いいぜっ、永久に奴隷としてこき使ってやんべよっ!! ソイツが落とし前だ、コラァァッッ!!」


 俺は契約の印を両者に刻んで、タンをドキルマの主人とした。それから俺はタンに肩を貸したかったんだが、タンはさすがにデカすぎた。


「ちょっ、アンタ血塗れ……っ! だ、大丈夫……っ!?」


「お、お兄ちゃん……っ!」


 遅れてステラとパイアが駆けて付けてきた。後ろ頸部から血を流す俺に青ざめていた。


「あ? ああ気にすんな、ちょっと斬られただけだって。俺ぁ大丈夫だからよ、タンをどうにかしてくれ、コイツ、でかすぎる……」


「面目ねぇ……おおっ!?」


 辛そうなタンにハイヒールの魔法をかけてやった。すると傷だらけのミノタウロスの全身が癒えてゆき、活力がタンを立ち上がらせた。


 復活したタンはスケルトンとなったドギルマの首を掴み、自分の前に吊し上げた。


「こき使ってやんべよ、英雄さんよ」


「ヒィィィーッッ、お、お許しをぉぉタン様ァァーッッ!!」


 パイアとステラは俺の首ばかり心配していた。魔王は英雄の剣に斬られるとしばらく傷が癒えない。それがこの世界の決まり事だ。


「ア、アンタ……何者……っっ!? 首の中に、なんか入ってるんですけどぉー……っ!?」


「言ってなかったな。俺ぁ改造人間なんだ」


「意味わかんないからーっっ!!」


「酷い傷……。私が強かったら、お兄ちゃんを守れたのに……」


 片手に美少女、もう片手にJカップの美少女を抱えて俺は寺院に帰った。やたらに心配してくれる二人の想いをよそに、だいぶ深い物思いに浸りながら。


 今、俺の胸にある感情を表現するならそれは【勝算】だ。いつの日か俺は、祖国コモンウェルス星団の鎮圧部隊と戦うことになる。その時、俺は敗れることになるはずだった。


 だがどうだろう、さっきの圧倒的な力は。さっきの力があれば、俺は鎮圧部隊を返り討ちにできる。


 ドルキマのように敵を骨に変えてやってもいいし、歴代の魔王がそうしたように敵をマジックブラストで分子レベルまで分解してもいい。


 手から巡洋艦クラスのX線レーザーを撃てるようなもんだ、宇宙船相手でも結構いけるはずだ。


 となれば、俺が祖国コモンウェルス星団に、現段階でするべき対処は――


「ねぇ、本当に大丈夫……? それ、痛くないの……? ぅぅ……見てらんないよー……っ、そんな怪我勝手に負わないでよぉ……っ」


「戻ったら縫いますっ、縫わせて下さい……っ、縫うの、得意ですから……っ!」


「あ? ああありがとよ、全然大丈夫だ。俺っち改造人間だからな、痛覚は遮断できる」


 魔王が捕獲されたらこいつらは全滅だ。次の魔王がもし生まれなかった魔族は絶滅か、奴隷種として永久の服従を強いられる。

 本国には悪いが、俺はおとなしく捕獲されるわけにはいかねぇ。だったらやるしかねぇだろ。


 地球を含む7つの地球型惑星と、13の軌道上コロニー、600あまりの資源惑星を持つ銀河5番手の大勢力、コモンウェルス星団相手の独立戦争を。


「あ、後で……あたし、なんでもさせてあげる……。その傷、あたしらのために負ってくれたやつだから……ちゃんと恩返ししたい……」


「うん、それに先代の魔王様なら私たちを盾にして逃げてた……。でも、ヨアヒムお兄ちゃんは逃げなかった……。ありがとう、私たち、お兄ちゃんに感謝しています……」


 俺はこいつらのためなら、神になろうとした愚か者と本国の同胞にあざ笑われても別にいい。

 助ける手段が手元にあったので助けた。ただそれだけのことだった。


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