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番外編:ジェラシー



「アデル特級隊員、この前話していた見習いの指導についてだが、上からの回答が——」

「——なるほど、訓練内容の見直しには数名の承認が必要……と」


煙に遮られ灰色の淡い陽光が差し込む中庭の一角。訓練の合間にアデルは隊員の一人と真剣な面持ちで言葉を交わしていた。

特級隊員としての昇進、そして新人教育という新たな責任——アデルの姿には以前にも増して凛とした気迫が宿っている。

そんな彼女の様子を少し離れた場所から伺う者がいた——ユリウスだ。

腕を組み柱に寄りかかり、興味なさげに視線を流しながらも、その目だけはアデルをとらえて離さない。


「……ああも真剣に話し込むもんかねぇ」


二人の様子を眺めながら、心の中で唇を噛んだ。

普段は無愛想なくせに、こういう時はしっかり場をまとめている。隊員も、どことなくアデルを頼りにしている様子だった。


(なんか気に食わないな……)


別に、あの隊員がなにか悪いことをしているわけじゃない。

目の前で行われているのはただの報告であり、仕事の一貫である。

アデルの隣で資料を広げる男性隊員の距離が近くなるのも仕方がないことだ。

そう頭では分かっていながらも、胸の奥に押し寄せる焦燥感は消えてくれない。

当たり前のようにアデルの隣に立ち、真剣に会話を交わしている姿が、どうしても目障りだった。

(ま、一番信頼されているのは俺だし?)


そう言い聞かせるが、心の靄は晴れない。自信があるからこそ、他の隊員たちと話しているくらいで気を揉む必要はないはずだった。なのに、なぜか心の奥でざわつくものがある。

そのときだった——


「じゃあ、また後で書類の確認を頼む」

「ああ任せろ、アデル」


ほんの些細な動作だった。

会話の締めに、隊員の男がアデルの肩を気安く叩いた。


(……は?)


バシ、と乾いた音が聞こえた瞬間、ユリウスのこめかみにぴくりと筋が走る。

アデル本人は全く気にしていないのか軽く笑っているように見えるが、ユリウスにとっては些細ではなかった。

思考よりも先に足が動いた。


「しーしょっ、引き継ぎが終わったら二人で飲みに行きましょ」


ユリウスは何食わぬ顔で二人の間に割り込む。そして、さりげなくアデルを背後から抱き寄せた。

アデルは驚き目を丸くするが、ユリウスはまるで気にした様子もなく、むしろ隊員に向かって牽制の視線を送った。

隊員の方も、突然現れたユリウスに目を瞬かせて戸惑っているようだ。しかし、次の瞬間。


「引っ付きすぎ」

「ぐっ」


アデルの容赦ない肘鉄がユリウスの脇腹にめり込んだ。

あっさりと突き飛ばされ、ユリウスは小さく呻く。アデルは眉をひそめ、うんざりとした顔で彼を睨みつけた。


「お前なぁ、そういうのやめろっていつも言ってるだろ」

「いやいや、師弟間のスキンシップって大事じゃないですか」

「後生大事にしてるのはお前だけだ!」


鋭いツッコミと共にアデルの怒気混じりの声が響く。

その様子を見た隊員は気まずそうに苦笑しながら「じゃあ、あとは頼んだ」と言ってそそくさとその場を去っていった。


(ふん、俺の師匠に触れるなんて百万年早い)


ユリウスは密かに鼻を鳴らすが、アデルにはそんな思惑など知る由もなく、ただただ、深いため息をつくのだった。




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