スキルシステム
朝、いつものように宿屋で朝食をとった後、俺はギルドへ向かった。
今日もアリシアと合流して、依頼をこなす予定だ。
昨日は鉱石採取だったが、今日は討伐系に挑戦してみるつもりだった。
「おはようございます、ユウトさん!」
ギルドの前でアリシアが手を振っている。
「おはよう。今日は調子良さそうだな」
「はい!お姉ちゃんも元気になってきて、もうすぐギルドに復帰できそうです」
「そっか、それは良かった」
アリシアの表情が明るくて、俺もなんだか気持ちが軽くなる。
「今日の依頼は、討伐でいいんですよね?」
「ああ。数も多くないやつにしとこう」
受付に行くと、森の周辺に出没する「フォレストスネーク」の討伐依頼が出ていた。
小型の蛇型モンスターで、攻撃力は低いが素早くて集団で動くため油断ならない。
「じゃあ、これにしようか」
「分かりましたっ!」
⸻
森の入口近くで、さっそく蛇型のモンスターに遭遇した。
3体が低い草むらを這うようにこちらに向かってくる。
「アリシア、後方からの援護頼む!」
「はい!回復はいつでもいけます!」
剣で1体の進路を遮り、踏み込むように斬る。
素早く動くが、1体ずつなら対処は難しくない。
だが、2体目、3体目が同時に飛びかかってきた。
「ちっ……!」
回避して体勢を立て直すが、動きが早い。
1体の動きを止めるために火魔法を発動。
「ファイアーボール!」
火球が命中し、1体は焼けて崩れた。
その隙にもう1体の胴体を斬り伏せる。
「ふぅ……なんとかなったな」
「ユウトさん、怪我は!?」
「大丈夫。少しかすった程度だ」
「念のため、ヒールをかけますね」
アリシアが杖を掲げると、淡い光が包み込んでくる。
回復魔法。彼女の持つ貴重なスキルだ。
⸻
その後も数体のフォレストスネークを討伐し、依頼数を無事達成。
休憩がてら、近くの木陰に座り込んだ。
「……ねえ、ユウトさん。スキルって、どう思いますか?」
唐突に、アリシアがそんなことを口にした。
「どうって?」
「……あ、すみません。変なこと聞いちゃって。でも、ずっと考えてたんです」
アリシアは自分の杖を見つめながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私の回復魔法は、先天スキルなんです。姉は“風魔法”を持っていて、冒険者としてもかなり期待されてた。でも、私は攻撃魔法を持っていなくて……ずっと、それが引け目で」
「なるほどな……」
「だから、ずっと努力して後天スキルを得ようとしてきたんです。でも、後天スキルってすごく難しくて……熟練度も何千時間って鍛錬が必要で……」
「そうなのか」
この世界の住人は、スキルを“与えられる”か“得る”かしかない。
俺みたいに“合成して進化させる”なんてのは存在しない。
「私、昨日の戦いで思ったんです。ユウトさんは、なんであんなに強いんだろうって。だって……回避も、剣も、魔法も全部できて……それって普通、無理ですよ?」
「……あー、まあな。ちょっとだけ、運が良かっただけかも」
俺は適当な言い訳を挟んで誤魔化した。
まさか“スキルを合成したら火魔法が手に入った”なんて言えるわけがない。
「ユウトさんは……スキル、努力で手に入れたんですか?」
「さあな。気づいたら使えるようになってた」
嘘は言ってない。
俺のスキルは、この世界のものとは別枠なんだから。
⸻
森の帰り道、アリシアはポツリと呟いた。
「私も、もっと強くなりたいです。姉に頼らず、自分の力で何かを守れるように……」
「……そっか」
「ユウトさんは、努力してる人……なんですよね」
その言葉に、俺は答えられなかった。
スキルを合成するだけで、手に入る力。
俺は、本当に“努力”してるんだろうか?
それでも、この力で誰かを助けることができるなら――
「……アリシア。お前がそう思うなら、俺も付き合うよ」
「え?」
「今度、一緒に後天スキルの習得練習、やってみるか?」
アリシアは驚いたように目を丸くし、それから微笑んだ。
「……はいっ!」
⸻
ギルドに戻ると、受付のお姉さんが声をかけてきた。
「ユウトさん、アリシアさん、おかえりなさい。ちょうどよかったです」
「なにかあったんですか?」
「ええ、目覚めのダンジョンに“異変”が発生したという報告があって……もし調査に興味があるなら、適正ランクの冒険者に声をかけるよう指示が出ていて」
「異変……?」
受付嬢が差し出したのは、ダンジョン調査の特別依頼だった。
「……面白そうだな」
新たな冒険の匂いが、俺の中のなにかを刺激してくる。