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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

机上の霊想

作者: 緋西 皐

 鴇谷は平凡な男子高校生だった。特別運動神経がいいわけでもなく、かといって勉強に優れていたわけでもない、どこにでもいるどこか物足りない高校生だった。


 朧げな朝日が射す教室。鴇谷はいつものように教室の戸を開けた、その瞬間――――目を光らせた女子が群がって鴇谷を囲んだ。


 「鴇谷君、白石さんと付き合ったってホントなの!?」

 「……え? 全く身に覚えがないんだけど」

 「でもみんなそう噂してるよ? 隠さなくていいからさ、ホントのこと教えてよ」

 「だから俺は――――」

 「本当だけど、どうしたの? 皆さん?」


 噂を否定する鴇谷の前に現れたのは、学校のマドンナの白石さん。一言も話したこともないはずの白石さんはその真偽を明確に肯定した。

 鴇谷は奇妙な感情に襲われた。ただそれも――――彼女は彼の頬へキスをした――――転じて露わな恋心へ変貌した。


 「またあとでね、鴇谷君」


 鴇谷は自身の記憶を確かめることをしなかった。微笑んで手を振る白石さんがここにいたのだから。



 鴇谷は平凡な男子高校生だった。特別運動神経がいいわけでもなく、かといって勉強に優れていたわけでもない、しかし彼は学校一美人の白石さんと手を繋いで登校する。どこか満たされつつある高校生だった。

 だが彼には一つ心に吹く風穴があった。彼女と過ごす日々の中での自身への劣等感、彼女と並ぶことで色濃く自覚してしまう力の無さ――――それからくる、いつか彼女に逃げられてしまうかもしれない危機感。


 朧げな朝日の射す教室。鴇谷はおどおどしながら教室の戸を開けた、その瞬間――――興奮気味の男子らが鴇谷へ駆けよってきた。


 「おい、聞いたぞ! お前、水泳で全国優勝したんだろ!?」

 「……は?」

 「何しらばっくれてんだよ、ほら動画もあるぞ」

 「え、なんで?」


 男子のスマホの中、トップで泳ぎ切っていたのは鴇谷と瓜二つだった。細かいホクロの位置までも同じなところ、疑うにも疑いきれなかった。

 鴇谷は戸惑いを隠せなかった。何か大きな力が働いているのかと恐れ気が動転しそうだった。しかしながら――――全校生徒の前で自身の名の刻まれた賞状を渡された――――とりとめのなさも消し去る、雄大な優越感に満たされた。

 

 「さすが私の彼氏だわ」


 鴇谷は彼女に強く抱き着かれた。彼氏の喜びはまた、彼女の喜びでもあったのだろう。

 ただ鴇谷は抱き返さない。その先の景色をどこか見つめていた、不審ながらも確かな力を噛みしめて。



 鴇谷は優等生。彼女は学校一美人の白石さん、将来は日本代表の競泳選手を期待されている。誰もが憧れる高校生だった。

 そして彼の元には話が断たない。虐められている同級生を救ったり、強盗犯を捕まえたり、事故に巻き込まれそうだった子供を助けたりと。

 

 霞む朝日の射す教室。鴇谷は悠々とその戸を開けた。その瞬間――――不穏な空気が彼を包んだ。コソコソと女子が彼を見て噂している。


 「鴇谷ってそんな酷い人だったんだ」

 「そうそう、まさか白石さんがいながらさ、あり得ないよね」

 「私、他の女の人と歩いてる鴇谷、見たよ」


 今までの武勇も一つの噂でひっくり返ってしまったのだろうか。重い雰囲気のクラス、向けられる茨のような視線。とても居座れる場所ではない。


 これもただの噂、誰かの作り話だろう。そう信じる人もその中には居た――――が、ニヤリ。鴇谷は意味ありげな笑みをクラスに返す――――鴇谷はその夜、誰も知らない美女と街を歩いていた。



 鴇谷は優等生。五輪での優勝を期待されている、日本代表の競泳選手。彼に憧れる女子は少なくない。いつもどこか自信気な高校生だった。

 若くして五輪で結果を出した彼をマスメディアも取り上げ、最近はよくテレビに出ている。今までの武勇を語っては場を盛り上げていた。


 どんよりとした朝日の射す教室。鴇谷はその戸を開けた、その瞬間――――どこか心配したような視線が彼に浴びせられた。でも誰も声を掛けられず、コソコソと話すばかりであった。


 「鴇谷、アイツ大丈夫かな……」

 「昨日でしょ? 両親が、事故だってさ」

 「見る限り何ともない感じだけど、ホントは……」


 しばらく彼がマスメディアに出ることが無かったのは、葬式などで忙しかったからそうだ。

 また彼は次の大会で一回戦敗退、その次も。若くして力を持った彼もやはり人間、心の傷は深かっただろうか。



 鴇谷は平凡な男子高校生だった。特別運動神経がいいわけでもなく、かといって勉強に優れていたわけでもない、どこにでもいるどこか物足りない高校生だった。

 

 淡い朝日が射す教室。止まった時間がそこにはあった――――生徒たちは行き場のない感情に、そう噂するしかなかった。


 「あれって嘘だよな」

 「そうだ、ただの噂だよ」

 「遅刻だよな。まだ鴇谷が来ないのって」


 彼らは待った。一週間、二週間、そのどうしようもない空気が晴れるまで。少し忘れることが許されるまで。

 特別それは鴇谷がどんな人間であったかが、大きく関わるところではなかった。



 セミの鳴く通学路、近しい夏休みに踊る自転車、笑い合う女子高校生たち。

 街は変わらず時間に流され続ける。小さな出来事を特に気することもなく、ただ平凡に、ただ在るがままに。


 夏の眩しい朝日が射す教室。そこにはいつもの日常があった。男子生徒らは賑やかに適当な話をしている。


 「夜になると、この学校で亡くなった霊が出るんだってさ」

 「そんなわけないじゃん」

 「確か名前は”鴇谷” もう何年か前に屋上から飛び降りたって」


 よくある怪談話。特段怖いわけもない、ただの世間話程度の話題。彼らの認識はそんなものだった。しかしそこに一人の女子が一言。


 「私、昨日。見たんだ、その幽霊を」


 その噂はたちまち校内に広がり、真偽を明らかにしようと夏休み、彼らは肝試しをするようだ。

これはホラーらしいって噂してくれれば、きっとこれはホラーになると思います。ええ。


だいぶ抽象的なので適当に楽しんでください。個人的には仕込みはあるんですが、ある意味怖いって感じです。(/・ω・)/

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