広島に旅行行った話
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※後々追加するかも知れません
・実話
・怪談
・心霊スポット
【文字数】
約6000字(後書き込み)
俺には仲の良い友人たちがいた。
小学二年生で転校してきてからの付き合いのK、中学からの同級生のI、それにKの高校の同級生だったH。
俺の名前は……そう、仮にNとしようか。
とにかくその四人で、20代前半の一時期によくつるんでいた事があった。
中心にいたのはKだ。彼は小学生の頃に俺Nと知り合い、中学に入ってからIと仲良くなり高校でHと出会った。
だから、何をするにもKが中心で、彼がリーダーだった。まあHはひとりだけ家も遠かったので、普段は三人でつるんでたまにHも加わる、といった感じだったが。
そのKが、ある日突然言ったのだ。
「広島に旅行行こうぜ」
唐突も唐突、今日決めて明日出発するぐらいの勢いである。彼はいつもそんな風で、周りの俺たちが合わせてやるしかない感じだった。
ちなみに俺たちは福岡県の、4つの地方に分類される県内のうちのいわゆる“福岡地方”で生まれ育ったので、広島ならまあそこまで遠くはない。
I「車どうする?」
K「ウチのバンでいいやん」
Kの家は花屋だ。だから配達とか苗の仕入れなどに備えて4ナンバーのライトバンがあり、Kはいつもそれを自分の車みたいに乗り回していた。
N「俺金ないけど。ホテルとか泊まれんばい?」
K「車で寝たらいいやん」
言っておくがマジである。Kと仲間たちと旅行に行ったことは何度もあるが、移動は全てKのライトバンで、宿泊は全部車中泊だった。夏の広島も、冬の出雲も、熊本も鹿児島も姫路も全部そうだった。
今考えると、若さとしか言いようがなかった。
まあそんなこんなで広島行きは確定した。Kは一度言い出したら聞かないので。
とある夏の日、朝8時、Kの家に俺とIが集合し出発する。まず最初に広島とは反対方向に約1時間ちょい走ってHを拾えば、あとは高速に乗って広島まで一直線だ。
行きは特に何事もなかったように思う。記憶に残っていないので。広島に着いてからも、路面電車の走る市街地に四苦八苦したり広島城を眺めたり、原爆資料館を見学したりと、まあ普通に観光しただけだ。
あらかじめ『る◯ぶ』などでプランを立てたわけでもなく、その時思いついた場所を気ままに回るだけの、ノープラン旅行はまあまあ楽しかった。
川を挟んで原爆ドームの対岸にある、平和記念公園に立ち寄った時のこと。
KとIがトイレだか売店だかに行っていて、その時はたまたま俺とHだけがベンチに座って待っていた。ドームの前を流れる川はキラキラと陽射しに煌めいて、屋形船なんかが優雅にたゆたっていて、とてものどかな昼下がり。
ふと気付けば、Hが青ざめて黙り込んでいた。
N「どうしたん?なんか具合悪なったん?」
H「いや……川が」
川がどうしたというのか。
H「人で溢れて、水面が見えんっちゃん」
N「…………は!?」
川で泳いでいる人など誰もいない。水は透き通っていて川底まで見えそうなほど。
改めて確認しようと立ち上がり川を覗き込もうとしたら、ものすごい勢いでHに腕を引っ張られた。
H「バカ見んなて!見つかったら川に引きずり込まれるばい!」
彼には、原爆の犠牲者たちが水を求めて川に押し寄せる姿が見えているのだという。皮膚の焼けただれた人たちが水を求めて次々に川に飛び込んで、川の水を飲んで、そして動かなくなっていくらしい。マジか。
ここで、霊感に関しての基礎知識。
Hは実家がお寺で、父親は住職ではないが本業のかたわらセミプロのお祓い師みたいな事をやっているのだそう。Hもその血を濃く引いていて、ごく簡単な除霊くらいならやれるらしい。つまり霊感が超強い。
Iはそれよりずっと弱くて普通に一般人レベル。だが割と霊的なものはよく見るし感じるほうだそうだ。
俺、Nは霊感はほとんど無い。ただし母親が割と強い方で(予知夢とかまれに見るレベル)、だから霊的なものは普通に信じているしそういうものを見たエピソードなんかもまあ多少はある。
そしてKだが、彼は霊感がまったく無い。Hいわく、だいぶヤバい悪霊なんかにも存在を認識されないほどに“無”なんだそうだ。
そんなわけで霊感が超強いHがそんな事を言うものだから、霊を信じる俺はそのあと川面を見ないようにしていた。そして残りのふたりが戻ってきて、その場を離れてからHは彼らにそのことを話した。
その時はそれで終わりで、特に霊たちに見つかることもなく事なきを得たのだった。
そのあとも広島観光は続いて、車中泊を挟みつつ二泊三日ぐらいは遊んだ気がする。そうして帰ることになったわけだが。
帰りにKがとんでもない爆弾を仕掛けていた。
帰路、九州に戻った割と早い段階で、何故かKは高速を降りた。まあ高速代を節約して下道で帰ると言われればそれ以上はツッコミづらい。行きも帰りも運転はKで、ガソリン代は割り勘だったが運転してもらってる引け目がこっちにはある。
いや最初は交代で運転する予定だったはずなんだけどね?でも結局毎回Kが全部ハンドル握っちゃうのよね。
北九州方面からHの家は、俺たちの住んでる町を通り越してまだずっと南にある。最初に迎えに行った都合上、彼を先に送らないといけないわけだが。
H「なんかこれ、絶対ヤバいとこ行きようやろ」
彼が言い出すまでもなかった。俺もIもとっくに気付いていた。
Kは、犬鳴峠を通ろうとしている。
今やすっかり全国的に有名になってしまった、福岡県の最恐心霊スポット、犬鳴峠。まあ地元県民の俺たちでもドン引きするエピソードに事欠かない、曰くの有り過ぎる場所である。
ただし峠そのものは主要県道のひとつで、福岡地方と筑豊地方を結ぶ大動脈だ。車通りも昼夜問わずかなり多いし、約1.5kmある新犬鳴トンネルは息こそ詰まりがちだがそこまで怖いこともない。そして俺たちが通り慣れていて、Hの家に向かうルート選択で一番に候補に上がるのがこの犬鳴峠ではある。
怖いのは、かつて使われていた旧道の峠道と、犬鳴山の頂上近くに位置する旧犬鳴隧道。地元ではヤンキー小僧どもの定番の肝試しスポットである。
だから、新道トンネルを通るだけなら……
K「旧道行くけん」
何でもないことのように彼は言った。この男、自分は霊感がゼロのくせに……いやゼロだからこそ、怪奇現象とか心霊スポットとかが大好物である。なんてはた迷惑な!
そして彼の言うことは決定事項だ。だって言い出したら聞かない俺様系リーダーで、何より運転しているのは彼なのだ。
Hはもちろん嫌がったが、彼だってKの性格は知り尽くしているので無駄な抵抗だと分かっている。そんなわけで俺たちはKが気分良く運転するライトバンで犬鳴峠までドナドナされていった。
普段は封鎖されていて林業関係者しか通れないはずの旧道入り口のゲートは、この時もバッチリ壊されていて、ライトバンは軽快に細く曲がりくねった旧道を進む。
時間はすでに夜8時を回っていたと思う。街灯もない旧道はすでに真っ暗だった。そして程なくして、旧道トンネルにたどり着いた。
現在は封鎖されて通れなくなっている旧道トンネルは、この時まだ封鎖されていなくて、通行可能な状態だった。だからこそKも通る気になったのだと思う。
トンネル入り口のところは少し広くなっていて、何やら巨大な石碑が建っていたが暗くて読めなかった。灯りはライトバンのヘッドライトのみで、消すと本当に、何も見えない真っ暗闇だ。
K「よし、写真撮ろうぜ。お前写れ」
N「あっうん、分かった」
返事してから、なんでOKしたのか我ながら謎でしかなかった。普通に霊を信じている俺は、下手にちょっかいかけて霊を怒らせるのが嫌で、こういう時絶対に空気読まずに嫌だ嫌だと言い続けて座を白けさせる人間だったのに。
でもOKしてしまったからには仕方ない。Kはすでに車を降りてしまったし、待たせると怒るから俺も車を降りた。ちなみにIは俺のそういう性格も知っていたから、俺が即答で同意してサッサと車を降りたことに衝撃を受けたそうだ。
旧道トンネルの中は真っ暗闇で、その闇を背にして立って、Kが何枚も写真を撮った。あの当時の旅行の定番アイテムだった使い捨てインスタントカメラだ。
フラッシュ焚きながら何枚も撮って、何枚撮るんだよと思いながら立っていると、後方から声が聞こえた。
「やろ?」
「うん」
みたいな、ごく短いやり取り。
そして同時にトンネル内に響く足音も。
後方はもちろん旧道トンネル。
つまりトンネルの中に誰か居て、歩いている。
あまりに明瞭に聞こえたから、俺はてっきり、反対側にも同じように肝試しに来たやつがいて、そいつらがこっちに歩いて来ているのだと思った。
「誰かこっちに歩いて来ようけん、もう帰ろうや」
俺はKに告げた。だというのに彼は。
「いや、誰も居らんぜ?」
怪訝な顔をしてそう言うのだ。
N「いや居るて。声がしたもん」
K「居らんて。フラッシュでトンネルの中全部見えたけん間違いないて」
「え」
「え」
「…………」
「…………」
俺とKは顔を見合わせて無言になった。そしてそそくさと車内に戻った。
すると車内の方も異様な雰囲気に包まれていた。
N「なん、どうしたん?」
絶対こいつら、なんか見たやろ。
H「いや……ね」
I「中に何人おるか、話しよった」
要するに霊感強めのふたりは、トンネル内に何人の霊がいるのか、答え合わせをしていたらしい。
I「性別は分からんけど、少なくとも4人はおる」
H「その4人は特に強いやつで、それを合わせて全部で15人。全員女ばっかり」
15人!?全員女!?
H「一番手前で壁にもたれ掛かってこっち睨んでる女がおるんやけど、あれが歩いてきたらマジでヤバいと思う」
N「いや……あのさ、写真撮られる瞬間に声がしたっちゃけど、男ふたりの声やったんよね……」
H「……は?」
待て待て待て!Hの霊感でも捕捉できない霊がおるって事やん!?
H「ちょ、引き返した方がいいばい」
K「いや通り抜けた方が早かろうもん」
お前なー!今の話聞いてたやろ!
そりゃ確かに犬鳴峠は北九州・筑豊方面から福岡地方に抜ける道で、俺らは北九州側から峠に来たから、目的地であるHの家に向かうためには通り抜けるべき。
だけどそこには大勢の霊と!正体不明の霊が!いるの!ヤバいの!
なんて、内心で悲鳴あげてる霊感あり三名のことなど全く気にするでもなく、Kはライトを点けてエンジンをかけて、普通に旧道トンネルを通り抜けた。
あっという間に約100mにも満たない旧道トンネルを通り抜けて、ライトバンは旧道を下ってゆく。
H「誰もついて来んやった……良かった……」
ホント!マジで!それな!
その後もKはウッキウキで、夜な夜な女の姿が浮き上がるという巨岩や、数年前に若い兄ちゃんが軽トラごと焼き殺された現場なんかの解説をしながら旧道を通り抜けて、新道との合流地点まで無事にたどり着いた。
ホントマジで、生きた心地しなかったよ。いやマジで!
だからK!焼殺現場でわざわざ止まんな!HもHで「ここじゃなくてもう少し下った先に強い霊の気配がある」とか言うなよ!怖ぇって!
ともあれ、無事に峠を越した俺たちはHを送り届けて、犬鳴峠ではなく国道3号線を北上して帰ったのだった。
その後しばらく……確か1年かそこらだったと思うけど、犬鳴峠の旧道トンネルは老朽化が激しくて崩落事故の危険があるという名目で、コンクリートブロックで封鎖されて通行禁止になった。
それとともに旧道入り口のゲートも超頑丈なやつに作り替えられて、それ以降一度も壊されているのを見たことはない。たまに日中に開いてるのを見る事があるが、そういう時には林業関係者が中にいるのだと思う。
つまり、俺らは旧道トンネルの通行経験がある、おそらくラストに近い貴重なメンツということになる。ああ、でも、歴史好きとしては日中に通り抜けて見たかったなあ。
そして現在、犬鳴峠の旧道はトンネルごと抹消されてグー◯ルマップに表示されなくなっている。航空写真に切り替えると、福岡側の新道トンネル入口付近からつづら折りに延びる旧道が少しだけ確認できるけれど、すぐに森に呑まれて見えなくなって終わる。あの時にトンネル脇に建っていた巨大な石碑も、もう全然見当たらないのだ。
ちなみに、この話には後日談がある。
例のトンネルをバックに撮った、俺の写真のことだ。
現像に出していたのが返ってきて、半月ぶりに四人で集まり全員で確認した。大半は普通の観光写真だ。
H「……写真で見たら何も写っとらん」
彼が見ていたのは原爆ドーム前の、あの川の写真だった。
写ってないなら、いいやん。
……と、次々に写真を確認しつつ思い出話にそれぞれ花を咲かせていると、Hが「うわ!」と叫んで1枚の写真を放り出した。
俺が見ると、それはあの時撮らされた旧道トンネルの写真。真ん中に俺が立っていて、それを囲むようにトンネルのアーチが写っていて、その中はひたすらに闇。それ以外に怪しいものも、怖いものも写ってはいなかった。
だけどHの、この反応。
H「お……お前、それ……」
N「……ヤバい?」
H「ヤバいもなにも、お前以外背景が全部真っ白っちゃけど!」
Hによれば、数も数え切れないほどの無数の霊が集まっていて、背景を覆い隠しているらしい。さすがの彼もこんなの初めて見たそうだ。
N「いや怖ぇな!」
K「じゃ、それお前のな」
N「持って帰れって!?」
持って帰らされましたわ。全部で6枚。
全部に霊が写ってるそうな。
H「それ……除霊するの無理かも……」
N「マジで!?」
その写真、今も我が家にあるんです。
下手に除霊とかかけて霊を怒らせるのが怖くて、何も触らないままずっと置いてある。
場所はだいたい把握してるから、少し探せば出てくるよ。
今度、見る……?