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5:過去も今も、涙も笑顔も

人のお顔がこんなに柔らかいなんて、初めて知りました。プルートさんのお肌の手入れが良いのでしょうか。触るのが楽しくなってしまいそうですが、やり過ぎないよう、上手く加減しなければ。


「ま、まひるふぁ(マチルダ)?」


突然他人のお顔に勝手に触れるなんて、端から見たら御法度でしょう。


ですがこうでもしないと、プルートさんはずっと、後ろ向きな言葉を漏らし続けてしまう。それがとても心苦しいのです。


もっと近付きたい、もう後ろ向きになって欲しくない。そんな思いから、今度はガバッと抱きつきました。


「やめてください!例えプルートさんにどんな過去があろうと、私が貴方に救われたのに変わりありません!居場所の無い私を心配し、汚名の付いた存在でも受け入れてくださった優しさは、今でも覚えております。


このサーカス団に入って・・・いえ、プルートさんと出会えて、私は本当に嬉しかった」


もう、遠慮する必要はありません。このまま、精一杯の想いを伝えしましょう。逃げないよう、しっかり、彼の目を見て。


「私だって辛い過去を抱えていますが、このサーカス団では魔法使いとして、私は変わることが出来ました。それにその過去ですら、今の私になる上では欠かせなかった。だからプルートさんも、無理に過去に囚われないでください!変わることも、変われないことも、人間として普通です!」


混乱して、上手く言葉がまとまりません。先程から、思ったことをズバズバ言ってしまいます。それでも黙ってしまうより、ハッキリ伝えた方が幾分も楽なのです。


あまり自分を卑下しないで、自分を嫌いになりすぎないで。人生はいくらでもやり直せる、私達は前へ進むしかない。


そして、1番伝えたいのは・・・。



「貴方がとても素敵な方なのに、変わりありません。プルートさんと出会えて、とても幸せなのです!


私は・・・道化師としての貴方も、今の貴方も、どちらも好きです」



好きと伝えるのがこんなにも辛くて、こんなにも幸せなんて、初めて知りました。


心臓の鼓動が激しくて、呼吸も落ち着かなくて。私も、涙が出てしまいそうです。


怖さはまだありますが、ちゃんと伝えられました。これからどんなことが起ころうと、後悔はありません。この先、この関係に亀裂が入っても・・・。


「・・・ありがとうな、マチルダ」


気付けばプルートさんは、私を抱き返してくださりました。頬を撫でたその手は、とても優しくて暖かくて。


「俺も同じ気持ちだ、お前に出会えて良かった。マチルダとなら、本当の自分でも、新しい自分でもやっていける気がするんだ。


こんな俺だけど・・・精一杯やってやるから。どうかこれからも、隣にいさせてほしい」


涙に濡れた彼の笑顔に、不思議と私も微笑みます。泣き笑いながら抱き合う、不思議で、幸せな時間でした。



「くぅ~、良かった良かった。久々に良いモノ見せて貰ったよ」


物影でジュピターさんをはじめ、団員の皆様が静かに見守り、祝福していたのを知ったのは・・・もう少し後のことです。





とある小さなサーカス団で行われる、道化師と魔法使いによるパフォーマンス。いつしか国内外で有名になり、多くの人々が見に来るようになっていました。


「今回の新技、上手くいって良かったな。ジュピターの姉貴曰く、お客さんからも好評だったそうだぜ」


「そうでしたか!それは嬉しいです」


パフォーマンスを終えて、会場の後片付けをしていると・・・ふと、まだ残っていたお客様から声が掛かります。



「突然失礼する、道化師プルートという奴はいるか?」



この方・・・赤髪に金の瞳と、どこかプルートさんと似ています。綺麗な衣服で、とても威厳がある方です。


「・・・・・・」


名前を呼ばれたプルートさんが、何も言わずに立ち尽くしています。そっと、私の前に立つように移動しました。


「これはこれは、隣国の第一王子であるサタディア殿下。こんな辺鄙なサーカスに、何の用でしょう」


「そう警戒するな、ブルーティア。巷で有名なサーカスを、お忍びで見に来ただけだ」


どうやらお相手は、隣国の第一王子・・・つまり、血の繋がったお兄様のようです。プルートさんは強く警戒しているようですが、一方の殿下は自然体です。ニコニコしていて、それが逆に怖くもありますが。


しばらくお互いジッと動かず、相手の様子を伺っておりましたが・・・ふとサタディア殿下が「はぁ~」と大きく安堵の息をもらします。


「な、なんだよ。出来損ないの弟を嗤いに来たのか?」


「バカ!お前はそうやっていつもいつも、自分を卑下するのが悪い癖だよな。


いくら悪評が出回っていたとはいえ、廃嫡された直後に行方を眩ませた挙げ句、何年間も音信不通になっていた弟を探して何が悪い」


ワイワイ、ギャアギャアと、ご兄弟の他愛ないお話が続きました。しばらくして「顔が見られて良かった、そろそろ失礼する」と話を切り上げようとします。ですがふと、殿下がパチッと私をご覧になりました。


「貴女は・・・先程のパフォーマンス、素晴らしい魔法でしたよ」


「え、あ、ありがとうございます」



「ブルーティア・・・いや、プルートを頼みますよ。魔法使いマーズさん」



そうおっしゃって、殿下はサーカスを後にしていきました。


「悪いなマチルダ、兄貴は昔からあぁいう奴で。俺よりずっと出来が良いくせに、こうして俺に構ってきやがって・・・」


プルートさんのお言葉の返事が遅れるほど、私は舞い上がっていました。


あぁ、私はやっと、魔法使いと認められた。怠惰聖女という昔の自分を乗り越えて、新しい自分になれたのです。


「嬉しいです、お褒めの言葉を頂けるなんて。ご期待に応えるべく、もっと精進しなければですね!」


「・・・そうだな。そんな感じで、前向きに捉えることにするか。こういう性格も、ちょっとずつ変えてくか」


そうですね、でも忘れないでください。変わろうとする貴方も、今の貴方も、素敵なところは沢山ございますが。どうか、私と共にパフォーマンスする、その楽しさだけは変わらないでください。


これまでも、これからも、ずっと。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

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