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4:道化師の隠し事

時刻は既に深夜。おそらく皆さん、お休み中でしょう。


ですが先程のジュピターさんとのお話で、私は酷く目が冴えていました。ベッドで横になっても、一向に眠れません。


これはダメですね、明日も練習があるのに。心を落ち着けるため、外の空気を吸いに行きましょう。


ーーーバシャッ


あら、外の流し台から物音が。そういえばジュピターさん、よく敷地内に野良猫が侵入して、イタズラされると困ってましたね。そうでしたら、早くお外に出してあげないと。



「・・・久しぶりだな、メイクを落とすのは」



そこにいたのは、野良猫ではありません。ヨレヨレの衣服に身を包み、顔を洗い終わった1人の男性。短い赤髪に金の瞳・・・最初見た時は、どなたか分かりませんでした。


ですが、その優しい声で分かります。


「プルート、さん?」


「!?」


こんな夜更けに声をかけて、流石に驚かせてしまいました。お顔を濡らしたまま、ガタッと尻もちを・・・!あぁっ、最初に出会った時と、同じ過ちをしているではありませんか!


「も、申し訳ありません!眠れないので少し外に出たら、どなたかのお姿があったので・・・」


「あ、いや、うん」


プルートさんはお顔を拭きながら、ハハッと笑っています。いつものように明るく陽気ではなく、どこか悲しげな様子で。やはり、お顔を見てしまったから、でしょうか。


ですが、プルートさんの素顔・・・どこかおどけていて、それでも優しそうで。今まで見たどの殿方よりも、ずっと素敵で。


「格好いいです」


気付いた時には、つい口に出していました。それでも今は、自分の思いを打ち明けたい。


そうすれば、プルートさんも・・・無理に仮面をかぶらず、道化を名乗らず、向き合ってくださると思ったから。


「あんなに素敵な手品が出来て、お顔も格好良くて、性格もお優しくて・・・本当に素敵な方です」


「ま、顔だけは良いってよく言われてたからな」


ハハッと乾いた笑いが、プルートさんの口から漏れ続けます。もう少し会話をしたら、踏み込んだ方が宜しいでしょうか。


「顔だけなんて、ご謙遜なさらないでください。私は、プルートさんに救われたのです。ボロボロで行く宛も無く、独りぼっちだった私を・・・」


「おいおい、そんな遠回しに煽てなくても良いって。


分かってる、マチルダの目的は。悪いけど、俺、地獄耳でさ。さっき姉貴と色々話してたろ」


えぇっ、既にご存じでしたか!下心を持って振る舞っていたことに、恥ずかしくなってしまいます。


一方のプルートさんは、少しご不満そうなお顔です。やはり、踏み込みすぎてしまいましたか。あぁ、今後どのようにお話しすれば・・・。


「・・・ま、マチルダになら話せるのは、事実だけどな」


腕組みをされたと思えば、近くの木にもたれかかったプルートさん。


教えてくださるのですか。貴方の、本当の心を。


「最初は興味本位だったよ、変わった髪の女の子だなーくらいで。魔法も使えて面白かったから、つい誘ったんだよ。


そんで【怠惰聖女】って呼ばれたお前を見て・・・放っておけなくなった。


【色欲王子】だか何だか言われて追い出された、数年前の俺に似ていたから」



ここから少し離れた王国にいた、ブルーティア第二王子。顔は良くても知能が足りず、悪い手癖から手品がいつしか得意だった。


そんな王子に寄ってくる、王族との繋がりを持ちたい数多の令嬢。王子の手品に目を輝かせて近付く、沢山の可愛い女の子達。


馬鹿な第二王子は、すぐに調子に乗った。多くの令嬢を惹きつけるべく手品を練習しては、お披露目して褒め言葉を貰い、優越感に浸る日々。彼女たちの言葉が社交辞令だとも、顔と権力欲しさに近付かれているのだとも、全く知らずに。


例えそこに恋愛関係は無くても、逢瀬を重ねている訳では無くても。その様子は、決して良いものでは無かった。やるべきことを放置して、自分勝手に過ごす姿は、どんな理由があっても悪評を生む。


気付いた時には、評判は大きく歪められて広まっていた。「執務を放置して、多くの令嬢に手を出す王子」という6割が事実、4割が誤解の人物が出来上がっていた。



ーーーブルーティア。貴様の度重なる不貞を、これ以上見逃せん。


ーーー貴様のような【色欲王子】など、統治者の器に相応しくない。これ以上の改善も見込めないと踏んだ。


ーーーお前には本日をもって、王家から外れて貰う。



その後、王子は母方の実家に引き取られた。でも数ヶ月で、行方を眩ませた。


家出したのか、女と駆け落ちしたのか、真意は不明だけど・・・誰1人として、特に探していないらしい。


あんな汚名付きの王子なんか、何の足しにもならないからな。



「悪いな、変な話に付き合わせて。でも本当、嗤えるだろ?自分の非で廃嫡された王子が、嫌になって全部捨てて逃げた先が、自分を偽れるサーカスなんて。色んなモノから逃げた、なれの果てがコレさ」


アハハと乾いた笑いが、プルートさんの口から漏れます。その目からは、小さく涙が・・・。


「だけど結局、俺は何1つ変われなかった。過去の自分を捨てたくせに、時々こうして、昔の自分に戻りたくなっちまうんだ。


ゴメンな、本当の俺はこんなろくでなしなんだ。お前みたいに、ちゃんと真っ当に頑張ってる奴の隣には、いちゃいけない奴なんだよ。だから・・・」



「そんなこと、ありません!!」



気付けば夜中だというのに、私は叫んでいました。プルートさんのお顔を、ムギュッと両手で包みながら。

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