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2:楽しいサーカス

「ハイハイ、どうもどうも~!」


プルートさんは、一輪車に乗りながら登場しました。それだけで、お客様からは笑い声が起こります。私はお邪魔にならないように、ささっと後を追いましょう。


大丈夫、大丈夫。この仮面を付けている限り、私の顔や髪は誰にも見えません。誰も【怠惰聖女】だなんて、言わない。きっと、いえ、絶対。


「さぁさぁお待ちかね!道化師プルートと、可愛い魔法使いの登場だ!皆さん、拍手~」


一輪車から降りて一礼すると、周りからは拍手喝采です。プルートさん、とっても人気者なんですね。肩慣らしとして、一輪車に乗りながらお手玉をし始めました。


誰もが皆、プルートさんに釘付けです。凄いと笑っているみたいですが・・・バランスを崩して転んでしまわないか、そわそわしてしまいます。


というか今更ですが、可愛い魔法使いって・・・恥ずかしい。


「可愛い魔法使いちゃーん、ちょこっと火を点けてよ」


あっ、また!も、もう、恥ずかしい・・・。私に求められたのは、先程使った火の魔法。本来は団長さんが、火を噴くパフォーマンスをするはずだったらしいです。


「魔法の方が綺麗」と言われましたが、火を噴く方が凄いに決まってます。初級魔法に留まり、ろくに執務も出来ない私なんかより・・・。


い、いえ!そんなことを考える場合ではありません。プルートさんを困らせないように、火を起こしましょう。


ーーーボッ!


良かった、上手くいきましたね。皆さん「わぁ!」と歓声を上げてくれます。嬉しい反面、見られているのがちょっと緊張ですね。うぅ・・・皆さん、主役はプルートさんですよ。それにしても、何をされるのでしょう?


「おっ、サンキュー!そんじゃあ・・・火の玉でお手玉、いってみるか!」


え、火の付いたボールでお手玉!?そんな、下手したら大火傷ですよ!ですが聞けば、プルートさんのお得意芸の1つらしいです。


「今回は一輪車に加えて、目隠ししてやってみるか!」


な、なんて恐ろしいことを。それでもヒョイヒョイと簡単にこなす様子に、とにかく拍手が止みません。ゲラゲラと笑う声も聞こえますが・・・私はバクバクと、心臓の鼓動が止まりません。


こんなに現実離れしたことを、あたかも「何ともない」というお顔でやってのけるなんて。きっと誰も知らないところで、沢山練習したのでしょう。


血の滲むような努力を重ねて、素晴らしいパフォーマンスを・・・。


「おっ?おっ、お・・・アチャチャチャ!」


きゃっ、火の付いたお手玉がお召し物の内側に!?大変です!このままだと、プルートさんは全身を火傷してしまいます!


「プ、プルートさん!」


私は慌てて、水の魔法を使いました。火の付いたお手玉・・・どころか、プルートさんの全身に、勢いのままバシャッ!と。


鎮火は成功したものの、一輪車から転げ落ち、ずぶ濡れになってしまったプルートさん。お顔の白化粧が、少し剥がれています。周囲では大笑いが起こりますが、当の本人は俯いているではありませんか。


そんな、貴方が苦しむことは無いのに。全部、私のせいですのに・・・。いえっ、お怪我が無いか確認しないと!


「あ、あの、プルートさ」


私が声をかけようとした途端、ピトッと唇を押さえる人差し指。プルートさんは、左手をチッチッチと揺らし、何故かとても笑顔です。


「火で燃えて、水に濡れたら・・・綺麗な花が咲くもんさ!」


ガバッと立ち上がった直後、鎮火したボールからポン!と、綺麗なお花が咲いたではありませんか!先程までの笑いが、拍手喝采に包まれます。


す、凄い・・・これが本当に、魔法では無いのですか?


「そんじゃ、今回のショーはコレにてお開き!皆、観てくれてありがとねー!あっ、感謝の気持ちはコッチに入れてってよ」



ショーも終わり、お客様もいなくなりました。安心してお面を外して、プルートさんとお話が出来ます。


火の付いたボールが衣服の中に入って、私の水魔法でずぶ濡れになって、一輪車から落ちて・・・普通の方なら、倒れてもおかしくありませんのに。


「ほ、本当にお怪我はありませんか?」


「あぁ、ちょこっと服がダメになったくらいだ。マチルダの水魔法のお陰で、火傷も殆どしなかったし。ありがとな」


火傷を防げたのは良いですが、お召し物がダメになってしまったのなら、弁償しなければいけません。ですが、今の私は無一文。どうすれば良いのでしょう。


「プルート!大丈夫だったかい?」


ふと、とある女性が寄ってきました。ピッチリした赤いお召し物と、綺麗な長髪が目に付きます。足を引きずっていますが、この方は・・・。


「おっ、ジュピターの姉貴。なんだ~、もう歩けるの?流石、団長は頑丈だなぁ」


「ははっ。2歳から鍛錬してる、チャイナ娘を舐めるんじゃないよ!」


どうやらプルートさんがおっしゃっていた、怪我をしたサーカスの団長さんのようです。凄く動きにくそうですが、先程のプルートさん以上に動き回るそう。まるで鳥のように宙を浮くようですが、想像が付きません。


ふとジュピターさんと、バチッと目が合いました。あ、私・・・仮面を、外して。


「ん、見ない子だねぇ。新入りちゃん?って、焼け焦げたような髪・・・アンタ、【怠惰聖女】じゃないか!?」


指を差されて、ハッキリ言われてしまいました。プルートさんが「へ?」と声を漏らします。


「ちょいちょい、知らないの?聖女の力が目覚めたにも関わらず、ろくに執務もしないから追放された子だよ!焦げた髪をしてるって話だし、なによりあの服、聖職者しか着られないし」


あぁ、やはり私の汚名は、知られていたのですね。せっかく先入観なくお話しできていたのに、ここで終わってしまうなんて。


「驚かせてしまい、申し訳ありません。私はマチルダ、確かに【怠惰聖女】として追放された身です。


行く宛も無い中、プルートさんに誘われて、サーカス団のパフォーマンスに出ていました。・・・申し訳ありません」


ですが、ここで逃げる勇気もありません。隠し事をすれば、余計怪しまれてしまうでしょう。全てを覚悟して、私は身の上を明かしました。


私は、どこかに突き出されるのでしょうか。それとも、出て行けと追い出されるのでしょうか。


無論、嫌われるのは当然・・・。



「別にオレ、そんなの気にならねぇけど。ってか、追放されたのかよ。


マチルダ、このサーカス団に入らねぇか?」



えっ、と思わず声が出てしまいます。こんな私が、サーカス団に・・・?


「プルート、何を言ってるのさ?パフォーマンスじゃなくて、汚名付きの聖女目当てで人が来ちゃうよ。悪い意味で評判になる、やめた方が良い」


「でも今日のパフォーマンス、みーんなマチルダの魔法に見とれてたぜ?『魔法使いが凄かった』って、皆口々に言ってたし」


どうやら本物の魔法を見たことで、お客様からの評判が良かったようです。集金箱をジャラジャラと揺らし、いつもより多かったともお話ししています。


「それとも何だよ。優れた魔法を使えて、性格も素敵な可愛い子を、ちょっとした汚名だけで捨てようっての?


ここはサーカスだ。仮面をかぶって、新しい自分になれる場所だぜ?せっかく出会えたダイヤの原石を、あっさり捨てちまうのかよ」


新しい自分・・・プルートさんの言葉が、スッと胸に入ります。


孤児の平民で、みすぼらしい容姿だと、虐められていた私。執務を怠けていたと見なされ、追放された私。そんな自分から、変われる?


ジュピターさんはしばらく唸っていましたが、やがて「まぁ、その通りだね」と、プルートさんの意見を受け入れてくださりました。


「でも、それはアンタの一方的な願いだろ?この子はどう思ってるのさ。


マチルダだったっけ。アンタ、自分の魔法を見せたいって・・・このサーカスに出たいって思ってる?」


私は・・・私は、変わりたい。【怠惰聖女】という汚名を一方的に着せられ続けるなんて、絶対に嫌です!


それに居場所も先立つものも無い今、私が頼れるのはここしかありません。プルートさんは、やはり私を受け入れてくださる。


信じられる人を見つけた以上、私はこの方と一緒にいたい!



「私、新しい自分になります!どんな魔法も見せてみせます!だから・・・このサーカス団に入れてください!!」



「おっ、気合い充分ね。んじゃ明日から団長のアタシが、ビシバシやってくから。プルート、アンタもちゃんと面倒見るんだよ!」


「勿論。姉貴の腕力じゃ、マチルダの腕が折れちまうぜ」


人を何だと思ってるんだい!と、ジュピターさんの美しい蹴りが、プルートさんに炸裂します。それを見て、思わずウフフと笑ってしまいました。

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