アオちゃんは1割になりたい
「ここで仕事?」
「そーでーす。気分転換に借りちゃった」
ふーんお邪魔します、と桔梗は会議室に入り、早速世間話を始めた。
「向日葵からさ、初めて恋バナ聞いちゃったわよ。あんまりにも面白くって、私の主義に反するけど、すっごく普通の返答しちゃったわ」
「ヴええ!?こ、」
「声でかい!」
ごめんなさい、と樹は音量を落とし、ひそひそ声で続けた。
「マジマジ!?どんな!?」
「相手は高校生よ」
「きっぺー?」
「ユウマ君、だったかな。本気アプローチされてるらしくて、どう断っていいか悩んでるんだって。見ものだわ。私としては、いい子なら高校生でもなんでもとりあえず付き合っちゃえばいいのに、と思っている。そんなに年も離れてないし、すぐ成人するし」
向日葵が話のネタにされているのも、その内容も面白くない葵だが、変な発言はできない。しかも、兄相手にこの話題を提供する桔梗の神経が理解できない。
うるせーババア相手に黙っているのもこの気分の発散にならず、最低限できる話題をふってみた。
「この世の男は9割クソなのにいいんですか、とりあえずって」
「だからよ。1割を探す作業。私はもう疲れたからできないけど、向日葵はとっても優しくてかわいい子だから、幸せになってほしいの。あの子ってああ見えて、誰にでも規制線を張ってるじゃない。Keep Out、踏み込ませないところがあるから…破ってくれる人がいないかなって。そのユウマ君が、破ってくれる1割かもしれないじゃない」
その言葉に面白がっている様子はなく、真剣に彼女を思っての言葉だった。
樹にもそれは伝わったらしく、ぽろりと涙がこぼれていた。
「ありがとう、きー姐さん…僕、姐さんにも幸せになってほしいな。バツ7だっけ?」
「1だよ!7は婚約破棄の回数!ひどいわ、樹ちゃんもクソなの?10割になるじゃない!」
この人のアドバイスは全くあてにならないんだろうな。
と横目で眺めつつも、葵は桔梗の言う「規制線」について考えていた。
確かに向日葵は昔から、特に桜が跡取りになってからは余計に、人と心理的な距離を取るようになっている。
向日葵の「規制線」を破れない俺は、9割のクソなのかな。
視線はパソコンのキーボードに向けつつも、1割になるにはどうすればいいのだろうという、難題に取り組んでいた。
その後も優真への返信に悩んでいた向日葵に、躰道の稽古後、橘平が「内緒話」を持ちかけてきた。
「もしかして優真、向日葵さんのこと困らせてませんか?」
渡りに船とはこういうことだ、と向日葵は希望を見出した。おそらく、学校で橘平に相談しているのかもしれない。
向日葵は事の次第を説明した。橘平は「二人の事をサポートしてあげたいんだけど」と言う。
「明日の夜に葵の家で作戦会議しよか」
「いいんすか、葵さんちって。あおいさ…今日いないや」
彼は思うように上達しない御朱印練習の追い込みで、今週はこちらも剣術も休むという。今頃、桔梗にしごかれているころだ。
「いいよ別に!そもそもアイツの家じゃないね。一宮の家。ってか明日、金曜だけどさ…」
「そっすね、直前ですけど、なんとか」
「うん。優真君傷つけたくない、なんておこがましいけど、橘平ちゃんの友達は大切にしたいから。夕飯、リクエストある?」
「うーん、コクのあるものが食べたいです」
コク、コク、カレー、シチュー、味噌、マヨ…と向日葵は呟きながら帰っていった。




