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(旧版)神社の娘  作者: 坂東さしま
妨害と桜
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大人気ロボットアニメ鑑賞会ファイナルシーズン①

 八神の山で見つけた鳥居のこと。

 桜は橘平、優真と解散してからすぐ、向日葵と葵にメッセージを送った。

 二人にも、今すぐ見てもらいたいけれど、土曜は向日葵が出勤、日曜は葵が出勤。なかなか二人がそろわない。


 加えて次の土日は桜まつりである。

 来週は桜も葵も練習で忙しい、学校は新学期が始まってしまうしで、「とにかく、桜まつりが終わってから」ということになった。



 そうした中やってきた、春休み最後の日曜日。

 よっしーの解説付きアニメ鑑賞会の日がやって来た。会場は優真の家で、桜は向日葵とピンク軽に乗って大四家にやってきた。


 桜はいつも通りのナチュラル系の可愛らしい装い。パフスリーブのオフホワイトのジャガードブラウス、薄ピンクのチュールスカート。向日葵は蛍光黄緑のパンツに襟が特徴的な真っ白シャツ、じゃらじゃらと着けたゴールドアクセサリーと、反射がまぶしいファッションだった。


 憧れの人が来ることを知らされていなかった優真は「向日葵さんがうちに来た!?夢か幻!?え、僕の部屋に入る、ってコト!?」と、衝撃のあまりに声が出なかった。手が震えている。目がかぴかぴになるほど、まばたきを忘れている。


 向日葵は「ゆーま君、今日はありがとねっ」と彼の手を取った。彼は呼吸を忘れた。彼女の手が離れ呼吸を思い出した優真は、橘平に耳打ちした。


「ありがとう橘平くん。君と友達になれて初めて良かったと思ってるよ」

「どういたし、初めて?へー…」


 最後に優真宅にやってきたよっしーも、ゲストのことは聞いていなかったので多少は驚いていた。彼も桜のことは知らなかったが、向日葵には「おお、二宮のミスブロンドがなぜこちらに」と反応していた。


 が、こちらは衝撃を受けることなく、「こんな麗しい参加者たちもいたとは。解説にも力が入りますな。今日はよろしくお願いいたします」と、気さくにゲストと握手を交わしていた。


 よっしーが自然に憧れの人と握手するのを見た優真は、羨ましく妬ましく、かぴかぴの目をバリバリに開いてその様子を見ていた。橘平は友人がほどほどに面倒な奴だとは知っていたが、女子二人を呼んでよかったのか不安になってきた。



 早速、優真の部屋で鑑賞会が始まる。優真は向日葵が座った場所を、のちほどテープで囲おうと決めた。


「さて、第2期はなにもかもが上手く行ったと思われたヨハネスたちが、どん底に突き落され、叩きのめされるところから始まるわけですが」

「前回かなり注意したけど、軽くネタバレしないでくれると助かるな」

「おっと、失敬。あ、このオープニング映像は…」


 アニメ開始とともに、よっしーの流暢な解説が随時加えられていく。向日葵はその解説に聞き入り、桜もなるほど~と興味深そうだった。

 友人たちよりもしっかり聞くオーディエンスを獲得したよっしーはより饒舌になり、「活弁か。っていうかネタバレやめて」と優真から強めに突っ込まれていた。


 5話視聴したところで小休憩をとることとした。お供は、向日葵が焼いて来たドライフルーツ入りパウンドケーキ。鑑賞会メンバー分だけでなく、大四家分ももちろん焼いてきている。


「はー!美味しいです美味しいです!向日葵さん、めちゃくちゃ美味しいです!こんなに美味しいケーキは初めてです!!素晴らしい!!」


 優真は涙を流しながらパウンドケーキをほおばり、よっしーに白い目で見られている。


「やっだー、もう、お世辞がうまいのねっ!もっとたべなさーい!」


 お世辞なわけない、うう、と優真はじっくりねっとり味わいながら食べていた。


「いやあ、お世辞なしに美味ですよ、向日葵殿。うん、美味」


 橘平と桜も「美味しい!」と食む。向日葵は四人の頭を、二人ずつ良い子良い子していく。優真は今日、髪を洗わないと決めた。


 視聴が再開されると、「ここからがまた悲劇の連続であり」「いやネタバレをな?」の言葉通りの辛い戦いや裏切り、友情の崩壊、結ばれそうで結ばれないのオンパレードだった。

 みなハラハラドキドキ、そして軽く涙が…の中、向日葵は一人大号泣していた。


「絶対なぐっでえ、わがでっだぁがらぁ」と持参の箱ティッシュを手に、涙をぬぐい、鼻をかみまくり。よっしーの深読み解説も効いているらしい。


 メイクも崩れ始め「おーだーぷるーぶう、効かないじゃん、うぞじゃん」という有様。よっしーも負けないほどの号泣ぶりで、「物語の本質をわがっでまずな!」「よっじーもな!」と二人は抱き合って、お互いをほめたたえあった。


 握手もハグも自然な流れでするよっしーが、優真は羨ましいより腹立たしくなってきた。


 号泣によって妖怪になった向日葵は優真に「ママさ、メイク落とし持ってるかな?」「お化粧するから多分…」ということで、優真は母にその所在を確認しに行った。あるということで、向日葵は洗面所にメイクを落としに行った。


「メイク落ちると…あの…悲惨…だね…」


 バツバツのマスカラとアイシャドウとファンデーションの混じり合った悲惨さを目にした橘平は、彼女が退室してから「控えめに」正直な感想を漏らした。


「そうだねえ。私はまだ全然メイクしないからわからないけど」


 真っ赤に目をはらし、涙をバスタオル(号泣必死だったので持参)で拭くよっしーが「向日葵殿は特に濃い目であられるし、仕方なしかと」と言うと、優真が「あ、なんだ、よっしーは向日葵さんのメイクにケチつけてるのか!?」とケンカ腰でやってきた。


 友人の豹変ぶりに、よっしーは驚愕した。普段はほのぼの穏やかな海外作品好きの彼が、知らない顔をしている。誰だ彼は。


 「正直に言っただけで」「なんだと」「深い意味は」「浅い意味はあるのか」「何もない」「なんで何もないんだ!」と、何を返しても理不尽に厳しく返される。

 優真にこんな激しい一面があるとは。友人たちは初めて目にし、これからの友人関係を憂う。


 ほどなくして、メイクを落とした向日葵が戻ってきた。手で顔をほんの少し隠している。


「すっぴんごめんね~。お見苦しいかもしれないけどカンベンね~」


 例えるなら、彼女のメイク顔は色鮮やかなポップアート、すっぴんはにじみの味わいある水彩画の世界観。化粧で顔を作っていたことがよくわかる。

 すっぴんを見たことがある橘平は、久しぶりに見たな、くらいの感想だったが、優真は素顔に何かを感じていた。


「やっぱりだ…向日葵さん…みゆりんと似てる…」

「みゆりん?」


 優真は机の上からクリアファイルを持ってきた。そのファイルに印刷されている写真の主が「みゆりん」、彼の好きなアイドルである。


「あーほんとだあ!この子は黒髪だけど」


 桜が即座にそれを認めた。


「ええ、こんなカワイイかあ??いや可愛くないっしょ、どっちかいうと、桜っちじゃね??」

「か、かかかカワイイです!!やっぱり僕の目に狂いはなかったんだ!!あ、もちろん桜さんも可愛らしいですからね、特にお声が」


 ふーん、と向日葵はクリアファイルの写真を撮った。

 よっしーはクリアファイルのアイドルと向日葵、一時停止されているテレビ画面を見比べ、「クララにも似てますな。金髪だし」と発言する。

 言われてみればと、橘平はテレビ画面に目を向けた。


 鑑賞会はその後も夕方まで続き、最終回はみなで涙を流していた。向日葵とよっしーは最終回前の回から、「このシーンだよね!」「このセリフですよね!」と名シーンでお互いにそのポイントを押さえ合い、そして抱き合って泣き合い、を繰り返し、これを機に「超友達」になっていた。

 優真は感動と嫉妬の涙でぐっしゃぐしゃだった。


 しかし、桜の涙は他4人とは質が異なっているように橘平には見えた。作品に感動した涙には思えなかったのだ。とはいえ、桜はとても楽しかったようで、二人と作品の解釈について熱く語り合っていた。


「そういえば、来週から桜まつりですな。桜さんはお家のお手伝いをされるのですか?」

「まあ今年からちょっと手伝いを…」

「じゃあ、神社でまた会えるかもしれないですね」

「そうですね、でもその…私に会っても知らんふりしてくれませんか?今日会ったことも、誰にも言わないでくれますか?不躾なお願いとは存じますが、何卒、ご協力のほどよろしくお願いいたします」


 小さな女の子が必死に訴える姿に、「何で?」とは優真もよっしーも言えなかった。お伝え様が村の中で特殊な存在だということは、彼らも高校生ながらに知っているし、大人たちの雰囲気から察するものがあった。


 そういうこともあり、何も聞かず二人は「了解です」と答えた。ありがとうございます、という桜の笑顔に優真はまた拝んでいた。よっしーは拝むまではいかずとも、最近観たアニメに出てきた天照大御神をモデルにしたキャラに似てるな、とは思っていた。


「てかさ、村人ほぼみんな来るじゃん?もち私も行くけどさ、私には声かけて全然OKだからねっ!むしろ知らんふりしたら怒るからね~!あ、さっちゃんのことは『しーっ』でねっ」

「いいいいいいいいいんですか?!お声がけして!?」

「うん、もちのろーん」

「ふふ。皆様、お花見楽しんでくださいね。私は遠くから見守っていますので」


 帰り際、向日葵は「今日は楽しかったよ~」と言いながら優真を軽く抱きしめ、桜とともに去っていった。


「良かったね優真、抱きしめてもらえて」


 目の前が真っ白になった優真だった。



 山で一般有術者の駆除監督をしていた葵は、感知担当の課長の父親と電話をしていた。通話を終えると、向日葵からメッセージが届く。


〈すっぴんがこの子に似てるって言われた。そう?〉


 一緒に届いた画像には、丸襟の淡い紫色のワンピースを着た黒髪のアイドル。しばらく考え、〈わからん〉と返した。


 この返信に、「やっぱつまんねー奴だ!」と向日葵は口を尖らせた。カワイイアイドルに似ていると、ちょっと言われたい気持ちがあった。


 実を言うと葵にはこれが精いっぱいだった。そのアイドルは黒髪時代の向日葵に見た目の雰囲気がそっくりで、何と返すのが正解なのか分からなかった。昔を知る自分が、似てると言っていいのかどうか。


 さらに言うと、葵はみゆりんを知っていた。学生時代にテレビで見かけ、即座に「向日葵に似てる」と何度見したことか。

 同じように一瞬で認めた優真は、葵と同類なのかもしれない。


〈こっちも似てるって言われた、そう?〉


 次に送られてきたのはクララのイラストだった。これに関しては、仕事が終わった後に丁寧に返信した。


〈これは似ていないだろう。そもそもこのキャラクターは…だから…というわけで…似ているというなら、どちらかと言えば桜さんだ〉


 見た目の話のはずが、内面からいかに似てないかを長々と指摘してきた。向日葵は「マジで興ざめ」してしまった。


〈ケーキ焼いたから帰りに持っていこうと思ったけどやめたわ。ばいばい〉


 葵は電話をするも、ちょうどクラシカの物語は佳境を迎え、そっちに集中していて気づかない向日葵だった。

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