私には友達がいる
桜の足が止まる。また変な発言をしたかと橘平は焦った。
「違うの」
暗い山の中、そこだけが輝いたような笑顔とともに、桜は橘平の手を握った。
「私もあだ名で呼ぶ!」
彼女には今まで、友達がいなかった。窓からの光が作る、人や動物に見える何かに名前を付けてみた、ひと時の友達だけ。
つまり、彼女をあだ名で呼ぶ人間はほとんどいない。逆に、彼女があだ名で呼ぶ人間もそう。どちらも向日葵くらい。
最近、朋子とは名前を呼び合う仲になった。多分、朋子とも友達だとは思うし、友達だからといってあだ名で呼び合うと決まっているわけではないけれど。
でも、桜にとって初めての友達、橘平。彼が「あだ名」で、友達同士の呼び方で、より友情を深めてくれようとしてくれている。
いつ死んでもいいと思ってたのに。友達が出来たら死にたくなくなった。
せっかくなら、誰かのために死ねるならいいな。自分が死んで、大好きな向日葵と葵が幸せになれたらもっと、さらに、いい、最高!なんて考えていた。
でもある時、自分が死んでも誰も、向日葵と葵も幸せにならないと気づいて。心だけ死んだ。お腹はすくから、体だけは生きたがるから、生きることにした。
けれど橘平と出会ってから、単純に「もっと生きてみたい」と思うようになった。今日のキャンプのような楽しいことが世の中にはあり、しかもそれが経験できたのは彼と出会ったからだ。大好きな向日葵と葵の自然な笑顔が見られるようになったことも、きっと彼のおかげ。
最近、生きててよかったな、と思う。
きっと、これからもっと「生きててよかった」と思える出来事が待ってるんじゃないかと、期待してしまう。「なゐ」について何も解決してないけど、きっと「ある」と希望をもってしまう。
まもりさんと仲が良かった一宮のお嬢さんは、どうだったんだろう。まもりさんとは友達だったのだろうか。まもりさんのおかげで、楽しい毎日だったのだろうか。
「桜さん、学校でなんて呼ばれてる?」
「一宮さん」
「え、名字呼び?」
学校全体同じような名字ばかりで、名前で呼ぶしかないという文化圏で育ってしまった橘平は「学校なのに名字で呼ぶの?」とついこぼす。
「友達いないし。街の学校だから、いろんな名字の人がいるんだよ。一宮は私だけ」
「そっか、文化が違う」
「あ、朋子ちゃんは桜って名前で呼んでくれるようになったんだ!そんな感じ。橘平さんは?」
「橘平か橘平君。よっしーだけ橘平殿」
「あだ名?」
「敬称違いか…。桜…チェリーブロッサム…さくら…」
「うーん、橘平…き、き、きーなんだろ?」
手を繋ぎお互いの呼び名を考えあいながら、二人は頂上を目指した。
空が白み始め、「さっちゃん」「きーくん」が「呼びやすくていいかな」に落ち着いたころ、もうすぐ頂上という場所までやってきた。
頂上に着くとともに、朝日が彼らにまぶしい光の矢を放つ。それとともに彼らの目に飛び込んできたのは、
「鳥居…?だよな?」
桜の背丈ほどの小さな鳥居だった。
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