友達の呼び名
慣れない場所。
その上、野外。
橘平は夜と朝の間の時間に目が覚めてしまった。頭も目も冴えて、もう眠れそうにない。隣の優真はスウスヤぐっすりしているというのに。
「…どんな神経してんの…人んちの山で」
朝までテント内を見つめ続けるのも辛いものがあり、そっと外へ出た。3月末のまだ寒さを感じる夜。懐中電灯を点け、少し離れた草むらで用を足した。
戻ると、桜が折り畳みチェアに座っていた。ランタンの灯りをぼーっと眺めている。
「起きちゃったんだ」
「うん。物音がしたから外を覗いたら橘平さんが見えて、ここで待ってた」
「あ、ちょっと厠へ…」
橘平も座り、やっぱ夜って寒いね、と声をかける。それからしばらく、無言でランタンを囲んでいた。
灯りをみつめるうちに、桜はあることを思いだした。
「南の山には危険なケモノが出ない、ってひま姉さん言ってたよね?」
「あー、確かに」
「山の中って歩きつくしてる?」
「うん、知らない場所はないってくら…あれ?」
頂上。
てっぺんまで登ったことあったか?
上の方は行くなって聞いている。
誰から聞いた?じいちゃん?父さん?
「どしたの?」
「頂上…上まで登ったことない。行っちゃいけないって聞いてて…」
いや、誰も言ってない。
「登るな、は、登れ、じゃない?」
山といってもそう高くない。まだ暗いので時間はかかるかもしれないし、足元も安全とはいえないだろう。
「行ってみない?山のてっぺん」
危険な動物が出るわけでもない南地域。橘平は山のてっぺんに上るのは「今」なのかもしれないと感じた。
「うん、行こう。頂上」
二人はすぐさま立ち上がり、懐中電灯を手に歩き始めた。頂上に行ったことはない橘平だが、子供のころから遊びまわっている山であり、なんとなくの土地勘はあった。
「暗い森とか草の中歩くってさ、橘平さんと出会った日みたいだね」
「確かに。雪は降ってないけどね。きっとバケモノも出ないよ」
足元を確かめながらのゆっくりした足取り。
「それに、知らない女の子じゃなくて、友達の桜さんと一緒」
「そうだね。友達と一緒。心強いな。あの時は一人で、しかも二人に迷惑かけたくなくて強がってて」
「やっぱりー?」
「わ、なにその言い方。まあ、実は辛くて怖くて泣きたかったんだけど、そんなときに橘平さんと出会えてさ。よかったな」
知らない同士から知り合いになって、いつの間にか友達になった。さらにあの時よりもお互いのことを知って、もっと友達になれた気がする。
橘平は今、その思いが強くなった。
「あのさ」
そして自然に聞いていた。
「さっちゃんとか、さくちゃんとか、あと何かな。向日葵さん何て呼んでたっけ。あの人いつも違うあだ名で呼ぶからなあ。ねえ、これからさ、そういう風に呼んでもいい?」
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