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(旧版)神社の娘  作者: 坂東さしま
妨害と桜
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喧嘩上等、I hate you

 遡る事ひと月ほど前の話。


 野生動物対策課に一人、有術者が着任することになった。強力になり始めた妖物対策としての、増員である。

 しかし誰が来るのか。課長ですら知らなかった。


「今日の午後から出勤なんだけどさ、誰かまで教えてもらえなかったんだよね~。使える子だと定時に帰れるなあ。伊吹君、しばらく面倒みてあげてね」

「分かりました。一体誰が来るんでしょうね。男子か女子か?強いのか?」


 そして午後の勤務が始まる少し前。


 やって来たのは、ぱっつりと切りそろえられた艶やかなおかっぱ黒髪と、ふわりとした薄灰色の瞳が印象的な一宮あさひだった。

 グレーのジャケットに同色のスキニーパンツ、ノーネクタイの白シャツという出で立ち。

 見た目だけで言えば、男子でも女子でもなかった。


「おお、あさひ君!でも君は神社の人じゃあないか」

「だからですよ。お伝え様の周りの妖物だけは、私たち神職が駆除していますから、即戦力になるだろうと。これからよろしくお願いします」


 役場で対処する妖物はあくまで村人の生活圏であり、お伝え様の周辺だけは、神職らが自前で駆除を行っている。そういう事情もあり、有術の基本レベルが高い人間が神社には集められていた。


 あさひもその一人。課長を定時で帰らせてくれる、研修なしで即「使える」職員として最適だった。


 席はここだ、作業服のサイズは、蓮君あとで役場内の案内を、などと伊吹が世話を焼いていると、葵と樹が駆除から帰って来た。


「ただいま~あらあ!あさひちゃん!何どしたの!?」

「今日から増員される職員Aこと一宮あさひです。よろしくお願いします、樹ちゃん」


 樹の後ろにいた葵は、あさひに気付いた瞬間に猟銃ケースを落としてしまった。


「アオイくん、また一緒だね。嬉しいな。よろしくね」


 あさひは手を差し出すも、葵は無視し、ケースを拾ってさっさと席に着いた。


「冷たいなアオイくん。一緒に都会のキャンパスで机を並べた仲じゃないか」


 彼らは同じ大学出身で、あさひが一つ上の学年である。

 広いはずのキャンパス内でしょっちゅう遭遇するし、遠くからでも見つければよく通る声で呼びかけてくるし、授業はよくかぶるし、図書室や自習室、学食で隣に座ってくるしで、葵はあさひに付きまとわれていた。逃げてもいつの間にかいた。


「監視だろバカ」

「口が悪いぞ。すぐ喧嘩腰なんだから。同じ学科なんだから仕方ないでしょ」


 アパートも一緒だった。

 いきなり部屋に突撃してきてご飯を作り始めたり(もったいないので食べたし、わりと美味しかった)、葵の部屋に先輩たちを呼び込んで夜通しで賭けマージャンを始めたり、いつの間にか合鍵を作って勝手に葵のベッドで寝ていたりと、心休まる暇がなかった。


 被らなかった4年次だけが、安心して大学にもアパートにも居られたという。

 昔から葵によくちょっかいを出していたが、学生時代は「ふざけんな、消えろ」ものだった。


 元々あさひが苦手だった葵だが、大学生になってからは大嫌いになった。


「ああ、そうか。君たちは大学も一緒だったな!仲良しだなあ!あさひ君、わからないことは僕だけじゃなく、葵君にも聞くといいよ」

「はい」


 あさひは主に剣術の稽古に参加する有術者であるが、稽古中はそこまで話す時間もないし、葵は終わればさっさと帰るので接触は最低限で済んでいた。


 けれど、職場となると難しい。席が隣じゃなかっただけましだと思うが、同じ空間にいることも避けたい。


 無理な話だが。


 救いは、彼が「攻む」であり、仕事で組む確率が低いことであった。

 あくまでも、低い、だけ。である。


それではよい一日をお過ごしください!

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