インスタントラーメンに憧れて
「あはははは、それで野宿う!?ウケる!!」
古民家に向日葵の高い笑い声が響いていた。話題の中心の橘平はうううう、という苦い顔だ。
「いや、テント借りるからキャンプっす、キャンプ!」
「私はどっちでもいいけど、楽しそうだからぜひ参加したくって。それで、お父さんたちになんて言おうかなあって。ひま姉さんのところに泊まる、でいいかな」
「えー、一人で野宿したいんだー、とか?」
それは流石にダメだろ、と新聞を読みながらも話を聞いている葵がつっこむ。
「そうだね、私がお母さんでもそれはちょっとな。うん、私と遊ぶことにしな。わー、でもキャンプいいねえ。私も友達とキャンプしたことある」
「夕飯を悩んでるんすよ。無難に家で食べようと思ってたけど、優真がそれじゃあ野宿じゃないって」
「お家にカセットコンロある?あれと鍋があればさ、即席ラーメンできるじゃん。簡単じゃない?」
「わあ!お外でラーメン!?」
桜がなぜか異様な食いつきをみせた。
「それ、韓国ドラマで見た!というか、韓国ドラマのラーメンシーンってとっても美味しそうで、憧れてたの。インスタントラーメン食べたことないから!」
箱入り娘はアニメと韓国ドラマは見ているらしい、でも即席ラーメンは経験なし。
橘平の心のメモが増えていく。これもまた意外ではあった。アニメもそうだが、桜がテレビを見る様子が想像できないのだ。
「じゃあそれにしよ。簡単そうだし。優真に聞いてみる」
「やだもー。超楽しそう。私も参加したーい」
「え、それは」
彼女のファン、優真がどんな反応をするだろうか。長年の友人は想像する。
その一。固まって挨拶すらまともにできない。おそらく固まったまま。みな優真に気を使い、そのままキャンプは盛り上がらないで終わる。
その二。挙動不審。二人とも気持ち悪がるかもしれない。野宿台無し。
その三。興奮してべらべら喋りまくる。これも気持ち悪がられそう。うざいかもしれない。つまり楽しい野宿にならない。
その四…五…六…
結論として、向日葵の参加は楽しい野宿にはならない。と、橘平は結論付けた。
「ああ、そうそう、見てこれ」
と、桜が手提げからプラモデルを取り出した。先日、寛平とともに作成したロボット、クラシカだ。
「クラシカ・ハルモニ!おじい様と作ったの」
「わー、よくできてるじゃなーい。しかもヨハネスの機体じゃん」
向日葵はプラモデルを手に取り、しげしげながめる。お気に入りの場面や泣けるシーンが次々と浮かんでくる。「うわーもう泣けてきた」と半泣きだ。
「あ、そういえば車に乗ってた猫のぬいぐるみ!そうかあれ」
「そうだよ~ヨハネスのお友達、レオポルトよん」
「俺こないだ、友達んちでクラシカ第1期鑑賞会して。今度、ファイナルシーズンの第2期鑑賞会もするんす」
「えーいいなあ!それも楽しそう!行きたいな!オタクさんの解説付きなんでしょ?」
もう、橘平がすることなんでも「いいな」と言い始めてきた桜。
橘平としては「じゃあ来なよ!」と言いたいところだが、同年代男子3人と会うのはいいのかどうか。判断がつきかねる。
「ちょ、それ私も行きたいわあ…オタクの解説って何よ、ちょそれ行きたいんだけどマジ。いついつ?土日?いや有休とろか?いや取れない…」
向日葵まで食いつく。
そちらにもいるのだ、優真が。
橘平は「友達の優真がですね…」と、喉から絞り出すような声で「向日葵さんが好みのタイプ?っていうか憧れてて、ファンといいますか、間近であえたらちょっと挙動がおかしくなりそうというか…だから気持ち悪くなるかなあというか…失礼を働きそうっていうか」と話した。
対象となった女性は口角がゆるゆるになる。
「うっそ、優真君、超絶センスいい。私が好みのタイプとかめっちゃいいじゃん。だったらむしろ行くよ、うん、握手でもハグでもするよお!やだあ、モテキやっときたじゃん!!来ないと思ってた~!」
未成年だけどな、とまたも葵が新聞をめくりながらちゃちゃを入れる。何歳でも好かれるのは嬉しいの!と彼女はぴしゃりと返す。
「私と違って万年モテキの三宮さんにはわからないでしょーけどね。そりゃあ、優真君と付き合うとかはないよ。会ってもないのに失礼だけど。でもさあ、男女関係なく、誰かに憧れてもらえる、好きになってもらえるって嬉しいし、ちょっと自分に自信持てるじゃん。ああ、私少しは人間として魅力あるのねーって」
「向日葵さんモテそうですけど。かっこいいし。俺、向日葵さんのこと超好きですよ。怪力だから付き合うとかはないけど」
「うん、私もひま姉さんだーい好き!付き合いたい!」
「ありがとうさっちゃ~ん、付き合おう!そう、私、女子にもてるのお。強いからさ、ストーカー野郎追い払ったりね。女子からはいつでもモテキ!橘平のは何それ、何目線だよ。私も橘平超好きだけど、一言余計だからこっちこそお付き合いは永遠にないわ」
おっと、そうそう、そうよ、忘れちゃうところだった!と桜が今日の本題に入る。八神家で見つけた神社の写真を葵と向日葵にタブレットで見せた。
「本当にそっくりだな。むしろあれのまんま。森と鳥居まであるのか」
「ここ見て、狛犬みたいなものもあるのよ。やっぱりね、八神家も封印に関係してるんじゃないか、って睨んでるのよ。その解明はこれからだけれど」
「それと、これ。描いてみたんだけど」
そういって橘平がリュックから取り出したのはスケッチブック。開くと、あのミニチュア神社のデッサンが現れた。
全体図のほか、後ろから見た図、屋根、森、などさまざまな各部が写真のように描かれている。3人はその腕前にぽかんとするしかなかった。
「描くことというより、観察を目的に描いてみたんすけど」
「うっま…」という向日葵の「それ以外何が言えます?」な感想に、他二人も激しく同意する。
「へへ、そうですかねえ。まあ特に何も分かんなかったんですけど、森のバケモノって狛犬だったのかなって。ほらあいつら、口開いてるヤツと閉じてるヤツでしたよね」
そう言われて、桜たちはあのバケモノの様子を思い出す。
多分そうだったかも~と向日葵が記憶に自信がなさそうに小さな声で発言する。葵は必至でそこまで覚えていなかった。
「ああ、そうね、確かそうだった!森の中に狛犬。じゃあこの鳥居もどこかにあるのかなあ」
「この模型通りだとすると、森の近くに鳥居のミニチュアがあるってこと~?」
「うーん、そうなのかなあ。じゃあ、犬の散歩ついでにちょっと探してみます」
また桜は寛平から聞いた情報をもとに、一宮家でまもりに関する物を探していることも報告した。今のところは特にめぼしいものは見つかっていないという。
お家広いから、一人で探すの大変でしょ、私もやるよ。じゃあ俺もと、向日葵、葵が言う。じゃあ、今度来てもらおう、と桜は返した。
ここで橘平は戸惑う。
自分も行っていいものなのか。
正月や親戚の慶事くらいでしかいかないお伝え様。友達の家のお伝え様。3人が一緒に探すなら、俺もと思うが。
橘平の表情から何か察した向日葵は、何か助け船が出せないかと悩んだ。しかし、早々と桜が解決した。
「橘平さんも一緒に来て!友達の家なんだし!」
喜びを深く感じる前に橘平は声を発していた。
「いいの!?」
「うん!」
そういうわけで、彼も一宮家に行けることにはなったが「でも、男の子のお友達ができたなんて正直には言えないからどうしよう」問題が発生した。向日葵がフレッシュ入りのコーヒーを飲みながらさらっと提案する。
「んなのさあ、私の友達にしちゃって、自由研究でお伝え様見学に来たとかいえばいいのさ。ほら、きー坊は役場の職員の子よ?私が面倒見てるって感じで通るじゃん。その時は、さっちゃんは奥に引っ込んで、こそこそと」
「おお、じゃあそれでおねしゃす!!」
「いえーい、解決!」
と、橘平と向日葵はハイタッチしてきゃいきゃいとじゃれあう。
しかしお伝え様大捜索については、結局、社会人のことを考えると土日しかできない。
「有休か」
「でもさ、いま有休取りにくいっていうか却下されるらしいじゃん。伊吹さんさ、お子さんの用事で有休申請して感知器にねちねち言われてた。そして取らず…ぶらっく」
有休って難しいんすね、と橘平がこぼすと、去年まではヒマで取りやすかったの、と向日葵が解説を付け加えた。
「ねえ、みんなで探すならさ、お伝え様の桜まつりの期間はどう?学校始まっちゃってるけど、この時期は神社が忙しくて、家の方はがら空きだから。その土日で。これなら有休取らなくていいよ」
住人である桜の意見がもっとも、とこの件は解決した。気がしたが。
「ああ、そうだ、きゅーじつしゅっきん!ちょっと待って」
そう、社会人組は地獄の休日出勤があり、土日だからと言っていられない現状があった。
向日葵と葵はさっと課内のスケジュールを確認する。まだ、その日の出勤者は確定していなかった。
「すまん、決まったら連絡する」
「ああそうか、未成年とか他のオトナが使えるようなら、土日に入れてくんだっけ。まあ、スケ確定は来週以降か~」
頬杖をついてままならぬ休日に悲しみを感じていた向日葵だが、ふと視線をテーブルに移すと、それぞれのカップが空になっていた。
だいぶ長々と話していたし、みな喉が渇いたころだろうと「あら、もうみんなドリンクないね~。日本茶でいいかな。入れてくるね」と呼び掛け、台所へ向かった。
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