休日出勤、振替はなし②-ステキアクセサリー
「あ、そうだ、最近父さん、なぜかアクセサリー作りにはまってて。細かい作業好きなんでしょうーね。もともと、母さんにプレゼントするために作り始めたからか、女性ものを作ってるんですよ。あげる人いなくてたまってるから、欲しければ帰りに持っていってください。結構キレイっすよ!」
女性陣の目がキラキラし始めた。アクセサリー!?見たい!!では待ってて、と橘平は父の部屋を訪ねて行った。
しばらくすると幸次が箱をもって橘平の部屋へやって来た。
箱の中には見事なハンドメイドアクセサリーが並んでいた。想像以上の出来ときらめきだ。興味のない葵ですら、これはすごい、と零す。
「ええええ!?これ、全部、八神課長が作ったんですかあ!?デパートに売ってるレベルじゃないですかこれ!!」
向日葵は雷でも落ちたのか、というほどの驚きの声をあげる。が、その驚きも納得のできなのだ。
「あ、実際に某高級ブランドのデザイン丸パクリしてるんだ。いわば海賊品だよねえ。これみて」
と、幸次はプリントアウトしたデザイン元の画像を見せる。
見分けがつかないほど酷似していた。出品したら捕まるかもしれない。
「あの、本当にこれ、いただいてもいいのでしょうか」
「どうぞどうぞ。作っても母や妻以外にプレゼントする人がいなくてさ。気に入ってもらえたならいくらでも」
「ええ、じゃあ…かちょー、このペンダントいいですかあ?」
向日葵が選んだのは、小粒のダイヤモンド風のペンダントトップがついたデザイン。シンプルで普段使いのしやすいものだ。
「いいよ。ちょっとかして」
と、幸次はペンダントにエンドパーツとして小さな丸いチャームのような物をとりつけた。
「何つけたんですか~?」
「一応、俺が作った印。ブランドロゴ」
そのロゴは八神家のお守り模様だった。
彼も八神家の人間であったのだ。橘平は思い切って、父に聞いてみた。
「父さんはさ、そのお守りについてなんて聞いてる?じいちゃんとかから」
「ん?事故が起きないとか、成績あがるとか、あと悪いお化けから身を守れるって聞いてるけど」
悪いお化け。それは悪霊「なゐ」や妖物のことではないだろうか。一同が同じことを考えていた。
「ほ、他には。あとその、まもりさん、とか」
「これ以上聞いたことないし、まもりさんねえ、かわいそうな人としか。すっごい手先が器用だったとか。そんなもんだよ。なんで?」
「あ、いや、じいちゃんがなんか話してたなあって。ちょっと気になっただけ」
「あ、そ」
桜もいくつかアクセサリーを選び、幸次ブランドのロゴを付けてもらった。
裸で持ってくのはな、と幸次は部屋から小さい紙袋を持ってきた。
「橘平、なんか絵でも描いてさ、ここにアクセサリーいれてあげて。あと、俺のブランドロゴも入れてね」
へいへい、と橘平はサインペンの細字の方で、小さな袋の表にそれぞれ「さくら」と「ひまわり」のイラストを描いていく。その鮮やかな手腕と迷いない筆運びに、3人はくぎ付けになった。まるで本物の花が、その袋に映されたようだった。
そして袋の裏面には、八神のお守りも添えて。桜さんは来週も学校がめっちゃ楽しいように、向日葵さんは安全に仕事ができますように、と唱えながら橘平は描いた。
桜は「こんなに素晴らしいものをいただけて、とても嬉しいです!」とあらん限りの感謝とアクセサリー以上のきらぴかオーラを幸次に送った。
この純粋な喜びは幸次の心に沁み込み、さらに涙腺も破壊させたようで、大粒の涙が流れだした。
「こ、こんなに喜んでもらえ、ぶえええ。良い娘さんだああああ」
周りがびっくりして、幸次の泣き止むのをしばらく待ったのであった。
父親の大泣き姿を初めて見た息子は3人よりももっと驚き、お茶を持って息子の部屋に現れたばっちりメイクの実花は「涙でメガネ溶けるんじゃないの!?」とより驚いていた。
帰るころになり、それぞれ玄関を出る。すると、幸次が向日葵だけを呼んだ。
「なんですか~」
手出して、と向日葵の手のひらに小さな紙袋を載せた。紙袋の表には「アオイ」のイラストが、裏面にはお守りが描かれている。さっき橘平がこそこそ何か描いていたのはこれだったのか、と向日葵は帰り際の光景を振り返る。
「これさ、葵君に。いらないかなあと思ったけど、せっかくだからお土産に。俺からもらっても嬉しくないと思うから、君からさ」
「嬉しいと思いますけど…分かりました。あとで渡しときます」
桜がバイクに乗り出発しようとしたところを、向日葵が引き留めた。
「さっちゃん、アクセサリーの入った袋さ、しばらくずっと持っててみて」
「え?なんで?」
「橘平ちゃんの描いたお守りは『よく効く』はずだから。あ、一回しか効かないっぽいけど」
桜は目をぱちぱちしていたが、わかったと頷き、葵とともに帰っていった。
古民家に帰って来た葵は、上着と靴下を脱ぎ、ソファで一休みしていた。八神家の手先の器用さを思い出し、あれが橘平の「使える」有術に関係しているのだろうか、そんな有術聞いたことがないしなあ、じゃあなんだ、と堂々巡りをしていた。
何もヒントが出てこない中、がら、っと玄関が開く音がした。鍵をかけ忘れたことに気付き、誰が来たのか注意しながら玄関に向かう。
そこに居たのは向日葵だった。左肩にトートバックを掛けている。
「あれ、桜さんもいるの?」
「ううん、私一人」
彼女は絶対一人でこの古民家に来ることはなかったので、ひどく珍しいことだった。
「これ渡しに来た。きっぺーパパがね、これ私から渡してって。お土産だって。この袋の裏にさ、ほら、きっちゃんが描いたお守りが書いてあるの。アオもこの袋、しばらく持っててみて。多分、いや必ず効果あると思うのよ」
葵は向日葵から小袋を受け取った。八神のお守りの図柄を見つめる。
これに一体どんな効果があるのか。確かこの間、トラが向日葵の頭上で一瞬止まってみえた。ということは、相手を静止させる力だろうか。仕事で試せる機会があったら、積極的に使ってみようと思った。
「そうか。わざわざありがとう」
それで彼女は帰るのだろうと思ったのだが、家に上がり、台所へ向かっていった。
夕飯を作ってから帰るという。トートバックにはスーパーで調達した食材が入っていた。
「え、何作ってくれるの」
「卵かけごはん」
「なんだよそれ、作ってないだろ」
「ご飯炊いてるじゃん!」
そういった彼女が作ったのは、具材たっぷりのナポリタン二人分だった。
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