休日出勤、振替はなし①-おじいさんに会いに
八神家の蔵。残りの段ボール。出てきたのはケースに入ったプラモデルだった。
予想通りだった橘平と、がっかりした3人ではあったが、どれもが見事に美しく、みな見惚れていた。
「プラモデルってこんなに…美しいものなの…?」
「いや、別次元だろこれ。このロボアニメ子供のころ見てたけど、テレビから出てきたような、いやそれ以上」
「うわあ、今にも発進しそうな戦艦ねえ!マジ人が乗ってそう!」
なんだかんだと、祖父の作品を褒められて、孫としては悪い気はしなかった。当たり前に見ていたが、祖父の技術は素晴らしいものなのだ。
それと、父の模型折り紙、伯父の木工作品も出てきた。すべて、素晴らしい出来だ。
「え、これ売り物じゃね?これにご飯盛り付けたらオイシソ~」
「持っていっていいっすよ」
「いいの?!」
使わないからここにあるし、ということで、向日葵は気に入った木工食器をもらっていくことにした。葵に、どこで使うんだ?と聞かれた向日葵は、自分ち以外あるの?と答えた。夕飯作っていかないのかよ、と葵は聞こえないような小さな声で呟いていた。
橘平の部屋に戻り、桜は水曜の会合について橘平に話した。葵も、最近の仕事について語る。事態は少しずつ悪くなっているという。
「毎日毎日、妖物がわんさか出てくるわけじゃないんだ。ムラはある。けどまあ、毎日出るな」
「そうなんだよね~報告書めんどくさくて…ついに休日出勤シフト組まれてさ。いつヤツが出るか分かんないから職場待機。いちおー今週ないけど、来週土日あるんだわ~つら。それで振休なしとか感知器マジ最悪。いや、感知器の上か、決めてるの」
「全部は読んでないけど、やっぱりまもりさんに関する記述はなさそうだしなあ」
「むー、じいちゃんに聞くか!」
少年以外の3人はぴた、と静止した。
あ、そっか。
橘平が話を聞いたことがあるということは、より、まもりと年代の近い祖父のほうが、情報を持っているに違いないのだ。やはり、自分たちで調べる癖がついてしまっている3人は、誰かに尋ねることを忘れてしまっている。
「あ、でも今日明日は無理で。ばあちゃんの親戚の法事でいないから。今度…」
「じゃあプラモデル!プラモデル教えてもらいながら聞きましょうよ!」
「あ、そうだ、それがあった!いい口実!」
「うええ、いいな楽しそ…ライシュウ?わたしシゴト…」
「俺も来週の土日は来れないんだよな」
「え、じゃあ桜ちゃん、一人で八神家くるの!?」
あ。桜は「忘れてた」という言葉がぴったりな顔をしていた。
「そっか…え、どうしよう…」
「葵、何の用事あんのよう」
「シフト表見ろ」
向日葵が課内用のスケジュールアプリを開くと、土日のシフトに「葵(攻)・向日葵(支)」と割り振られていた。
向日葵はつい「おかしい」と口にしていた。この間確認した時は係長の名が書かれていたはずなのだ。
「交代してほしいって言われた」
ううう、と桜が小さく唸る。今だって、一人でバイクを駆ってきているはずだ。一人で来ることの何がまずいのか。橘平は理由を尋ねた。
「ええと、何が問題なの?一人で来ることの」
「…あのね、私、一人で男の人と会っちゃいけないの。葵兄さんは保護者みたいなものだから例外で」
ここでもまた、箱入り娘の断片が見られた。会う人間にも制限があるとは。
「だ、黙ってればバレないんじゃないの?」
「そうだとは思うけど、ほら、昼間って夜と違って結構人の目があるから…よく見てるんだよね、村の人って。前にお母さんが、疲れて道端に車を止めてそのまま寝ちゃって。それくらいでさ、うちに連絡くるんだ。奥さんこんなことしてたけど、一宮家として恥ずかしくないの、なんて」
お伝え様は村の中で一番エライ家、尊敬するべき対象。そう幼少から言われて育った橘平は、その裏側を垣間見て、言葉にはできない違和感を覚えた。
そうして縛られたうえで、尊敬されるお伝え様って何なんだろうと。
「ああ、そう、親戚のおじさんも例外…おじさん…そうだ!おじさんだ!橘平さんじゃなくて、おじさん、そう、おじい様に会いに来たことにすればいいんだわ!」
「どゆことよ?」
「うちの人が言ってるのってさ、若い人と1対1で会っちゃいけないってことでしょ。おじいさんならいいじゃない!手先が器用な八神のおじい様に工作を教えてもらう。これで解決したわ!美術の課題とかなんとか」
これでいいの?と橘平は目をぱちくりさせた。深刻そうなわりに、あっさり解決してしまった。
まあそれでいいのなら、いいか。来週、桜さんが来てくれるのなら。と、桜の解釈をかみ砕いた。
それとは別に、橘平はさきほどの「シフト」を聞いたときに、思うことがあった。葵と向日葵の休日出勤に付き合えないか、ということだ。
妖物を見たのは一度きり、あの巨大な怪物だけだ。普段、彼らが相手をする通常の妖物も見ておきたかった。平日に彼らの仕事を見学することは不可能だが、土日であれば可能かもしれない。
「あの、来週の土日、一日は桜さんとじいちゃんに会うとして、もう一日。お二人の仕事に同行させてもらえませんか?普段の妖物との闘いってどういうものか、知りたいんです。お願いします!」
向日葵は口をちょこんと突き出し、「どうする?」目線だけ葵に向ける。葵も視線を返す。
「危ないっちゃ危ないけど、アオがいりゃすぐ討伐できるから大丈夫じゃない?」
「…まあ、いいんじゃないか。あのデカブツと対峙して生きてたわけだし。必ず出るとは保証できないけど」
「ありがとうございます!!」
妖物。これから自分が出会うかもしれない、悪神の影響で出現しているらしいバケモノ。
彼らのことを知り、何もできない自分が何ができるか考えたい。
自分の身を守りながら、桜も守りたい。
家に伝わるお守りの秘密を解き明かさねばならない。
まもりのこともだ。
やるべきことが山積みで、これから訪れる春休みは忙しくなりそうだった。




