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(旧版)神社の娘  作者: 坂東さしま
冷然な桜
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スーパーから始まる唐揚げ教室②-ご飯が解決

 残りの古文書も、ほとんどは日記のようなものだったそうだ。


 解読を進めてわかったことは、まもりが無理矢理、一宮家に連れていかれたらしいということ。家系図には嫁いだとされているが、実際は強制連行。体裁が悪いからそう記しているのだろう。


 連行された理由は分からないが、この後村中からの借金は帳消しされ、さらに多額の金子までも得ている。この帳消しによって、今も八神家が存続できているらしい。


「うーん、なんでまもりさん、無理矢理つれてかれちゃったのかなあ。晩年はうちに帰ってきてたみたいだけど」

「気になるよね。これが分かったら、前にすすめそうな気がするんだけど」


 すると、引き戸のガラスが割れるほど、勢いよく玄関が開く音がした。葵が帰ってきたのだろう。


「え、家主よね?なんかあったの?」


 向日葵がなんだなんだ、と玄関に向かう。


 随分乱暴な開け方だったね、そうね、唐揚げどうかな、美味しいといいね、などと高校生たちが雑談していると、玄関の方から、バシン、と古民家中に響く音が聞こえてきた。まるで何かを叩いたような。


「え!?ちょ、どうした」


 驚いて橘平が玄関に声をかけ立ち上がると、「来るな!」と向日葵が怒声をあげた。永遠のような数分の、いや10分か20分かわからないが、そののち、向日葵がソファのある部屋に帰って来た。


「葵さんは…」

「顔洗ったら来るよ」


 あの音は何だったのかなあ、と気にはなるが、聞いてはいけない気がした橘平だった。しばらくして葵が部屋にやってきた。


 明らかに怒っている。葵は普段、感情をそこまで露にするほうではない。橘平も基本的には凪いだ雰囲気の人だと思っていた。今の顔からは、本当はいつも抑えているだけの人、という感じがした。気持ちを常に我慢しなければならない人。


 ここまで明らかに感情を発しているということは、何かあったに違いない。そして、左頬が若干赤い。


「葵兄さん、あの、大丈夫?何かあったの」

「別に」

「別にじゃない!ちゃんと説明しろ!顔に出すぎ!」


 向日葵に怒られ、彼はしぶしぶ、滔々と理由を語り始めた。


「久しぶりに会った腐った青葉が相変わらず腐ってて腐った話聞かされて耳が腐って心も腐って乗られた車もきっと腐ったなんっっであんなに腐ってんだマジで腐ってる義姉になる人が不憫すぎる可哀そうだ彼女も腐ってしまう」


 葵兄さんのお兄さんのことよ、と桜が橘平に耳打ちする。向日葵が兄を嫌いと聞いていたが、こちらもだったらしい。呪いの言葉を聞いているようだった。


「ええ…葵さんもお兄さんと仲悪いんすか…」

「悪くない。悪くなる仲がないからな」

「青葉さん、そういえば帰ってくるって聞いてた。うーん、私たちには良い人なんだけど、葵兄さんとは気が合わないのよね」


 葵は機嫌が悪い、向日葵は葵に怒っている様子、桜はさあどうしたものか、と考えている風。

 そして時間は昼。この状況を変えるにはこれしかない。

 橘平はすたっと立ち上がり、


「向日葵さん!唐揚げ作りましょう!!」


 と、できる限り元気に聞こえる声で発声した。ほらほら、と橘平は向日葵を台所へ促す。桜もそれに乗って、台所へ向かった。去り際、料理の先生はむかむかしている青年に「頭冷やしといてね。ご飯は美味しく食べたいんだから」と声をかけた。


 桜が冷蔵庫から、漬けていた鶏肉を取り出した。


「ここには揚げ物鍋がないので…フライパンで揚げちゃいます!」


 橘平はフライパンに油を入れ、菜箸を入れて気泡が浮いてくるか確認する。鶏肉に片栗粉をまぶし、向日葵先生の言うとおりに揚げていく。


「うんうん、良い感じだね。もう大丈夫かな。ちょっと出してさ、切って中身確認してみ」


 取り出した鶏肉を、桜があちちと包丁で切ってみる。肉汁があふれ、ショウガとニンニクの利いたいい匂いが広がる。


 じゃあ次は桜ちゃんが揚げて。あとは二人でやってみ、ちょっとあっちの様子見てくるわ。と、先生は生徒たちに揚げをまかせた。葵の機嫌が戻ってるといいなあと二人は願いつつも、口には出さず、目の前の唐揚げに心を向けた。


「そろそろひっくり返すね」

「うん…おお、いい色だ。これは絶対美味しいやつ」

「調理実習は好きじゃないけど、今はすっごく楽しいな」

「俺も。友達と料理すんのって楽しい」

「橘平さんに出会ってから、初めての事ばかりな気がする。そもそも友達ができたのも初めてだもん」


 これまで友達を作れなかった理由はいろいろあるのだろう。橘平はそれを想像してもいいものか迷った。いやそれよりも、今を考えよう、今俺が友達としてできることをしたいと、目の前の少女の過去は見ないことにした。


 そういえば。


 橘平には優真のほか、仲の良い友人は多くはないにしろほどほどにいる。そのおかげで学校も楽しく過ごせている。でも「友達としてできることをしたい」と、友人たちにそういった思いを抱いて、実際に動いたことはあっただろうか。楽しく過ごせる相手が友人なのか、助けてあげたいと思える相手が友人なのか。


 友達ってなんなんだろう。しゅわしゅわ揚がっていく唐揚げをみながら、自分なりの定義を見出そうとした。


 残りの肉も揚げきったところで、向日葵は戻って来た。ご飯や味噌汁も用意し、部屋へ運ぶ。葵は落ち着きを取り戻しており、無表情でもりもり肉を食べていた。相当腹も減っていたようで、ご飯をお代わりしていた。


 初めての橘平と桜の唐揚げは「特別に美味しかった!」と二人は自画自賛、満足げな表情だった。


「ねえ橘平さん、またひま姉さんに料理教わってさ、作って食べよ!次は何がいいかな」

「春っぽいやつ!」

本日もお読みいただきありがとうございます。

友達って何なんでしょうね。

ごきげんよう、よい一日をお過ごしください。

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