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(旧版)神社の娘  作者: 坂東さしま
冷然な桜
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スーパーから始まる唐揚げ教室①-爆発

 日曜日は八神家で段ボール開封の儀、の予定であったが、古い本が出てきたことから予定変更。古民家で内容発表と相成った。


 せっかくなら、ついでに料理教室やっちゃお!という向日葵の提案により、橘平と桜は向日葵に連れられ、現在、村のスーパーに来ている。村とはいえ、人口が減りも増えもしないおかげで、意外と人口の多いこの村には一応、小さいながらスーパーがあるのだ。


 お団子ヘアーで蛍光オレンジのニットに細身のパンツ、ロングブーツの向日葵が、淡いピンクのシャツに白のジャンパースカートの桜、いつも通り可もなく不可もなくな服装の橘平に問いかける。


「さて、一般的な鳥の唐揚げのメイン材料はなんですか。はい、きっぺーちゃん」

「鶏肉」

「んなの当たり前でしょよ。部位だよ部位」

「ええ?ぶ、ぶい?」

「そう。足とか胸とか内臓とかあるでしょ~?」


 知らないんだきっぺーさん、と桜は得意そうに手をあげ、答えた。


「モモ、もしくはムネ!」

「そうそう!きー君が真っ先に思い浮かぶいわゆる一般的な唐揚げは、モモ肉ね。さっぱり食べたいときはムネ。手羽からもおいしいね。ま、今日はふつーにモモ肉の唐揚げ作りま~す」


 こーいうお肉がおいしいのよ、食べ盛りが2匹いるから大目に買おうね、味付けはこれね、など向日葵による食材や量のレクチャーを受けながら買い物を進める。


 橘平は母親と買い物に来たことはあるのだが、ただついて来ただけで、自分の食べたいお菓子を買ってもらってそれ以外は興味なし。「早く終わらないかなー退屈」だった。


 こうして、「何かを作る」という目的があると、料理について考えるし周りの食材にも興味がでてくるし、退屈を感じる暇がなかった。


 橘平以上に退屈を感じずワクワクしているのが桜だ。まるで初めて来たように。


「初めて来たわ!」


 まさかだった。


「料理のお手伝いはたまにするけど、買い出しまでは。ああ、バレンタインの時もひま姉さんが用意してくれるから、あとは一緒につくるだけっていうか」

「甘やかしすぎちゃったかもね」


 思っている以上に、一宮家は箱入りらしく、わりと適当に育てられた橘平には信じられなかった。


 これってもしかして、コンビニも未経験か?あれもこれも?と疑問が湧いてくる。離れた学校に通っていることもあり、平日はほぼ遊ぶ時間はないだろうし、お伝え様の跡取りとして、ほかに覚えることも多いのだろうと橘平は推測した。


 買い出しが終わり古民家に向到着すると、桜がカギを取り出し、玄関を開ける。


「なんで桜さんが?」

「午前中、用事があるんですって。ほら、ここってうちの物だから。合鍵持ってるのよ」


 ワケは理解できるけど、男の人が住んでる家の…合鍵か…と少年は邪推してしまった。が、それ以上の意味はないのだし、と頭から変な考えが起こりそうな種を頑張って消していく。あれ、昨日は二人きりで?そういう妄想も頑張って消していく。


 台所に入ると、「ひまわり料理教室」が始まった。先生が大まかな工程を説明。生徒たちはまず、味付けのショウガとニンニクをすりおろすようにと指示された。


「すりおろすのって…疲れるっす」

「ニンニクをぎりぎりまですりおろすのって、難しい…」

「さっちゃん、ケガしないように気を付けて。ねー、料理ってなかなか地味で根気がいるのよね~よく食べる2匹がいるから、たくさんすりおろせ~」


 鶏肉の切り方も教わる。


「余分なところ切ってって。うんそうそう。食べやすい大きさに」


そして、それを調味液に漬ける。


「漬ける時間はぱぱっと5分の人もいればさ、一晩って人もいるんだけど、今日はお昼ご飯までってことで!あとは揚げるだけ~」


 びっくりするほど美味しい神唐揚げ、何か秘密があると思っていた橘平だったが、ここまで、普通の唐揚げと何ら変わりはなく拍子抜けした。


「隠し味とか、美味しく作るコツとかは」

「まあ、揚げ加減はあるけどお、なんも特別なことはいらない!一番大事なのはキモチ。ゲストのことを思い浮かべて、美味しく食べてもらいたいって、楽しい食卓にしたいってね。嫌いな兄貴にふるまう時でもね、私は料理だけはそーいうキモチでやんの」


 桜が付け合わせのサラダを、橘平は味噌汁を作る。向日葵は監督しつつ、米を研ぎ炊飯器のスイッチを押す。

 あとは葵が帰ってくるのを待つだけだ。


「そうそう、八神家のことで他に分かったことあったんだ。説明しておくね」



 彼らが料理教室を楽しんでいる間、三宮葵は隣町の駅に来ていた。都会の大学病院で働いていた兄の青葉(あおば)を迎えに来たのである。青葉は村の診療所に勤務するため、このたび帰郷することになったのだ。


 葵が車の中で本をよんでいると、窓ガラスをこんこん、と叩く音がした。中肉中背の男性が手を振っている。弟は兄の姿を認めるや扉を開け、「おい、危ないな」という兄の言葉は無視して車を降り、トランクに荷物を詰め込む。


「葵!お迎えありがとう。いやあ、今年は正月に帰れなかったからなあ。1年ぶりくらい?」

「早く乗って」と、さっさと車を出す。


 車内で「久しぶりだね」とぺらぺら話す兄と、正反対にあーうーしか答えない無味乾燥な弟。


 彼らは性格も容姿も実に正反対だった。青葉は背は高くないし、顔は凡庸でこれといった特徴はない。しかし口達者で人当たりが良く、勤務先では可愛がられていたそうだ。その人が欲しいコメントを適格にするし、冗談も面白いと、女性陣からの受けもよかったという。話術で人を誑し込む技術に長けており、どんな美人でも上司でも騙されてしまう。


「相変わらず喋んないな。何か変わったことないの?」

「なし」

「妖物のことは」

「聞いてるだろお父さんから」


「そうなんだけどさ。だから帰って来て、結婚もさせられるわけだしなあ。直前に彼女5人いたんだけど、別れるの大変だったよ。いやあ僕が生きてる間にこんな状況になるなんて思いもよらなかったよ。結構、シャレになんないくらい強いんでしょ。治療要員が必要なんだってねえ。もう少し都会に居たかったけど、どうせ帰ってくるから、それがちょっと早くなっただけか。医者修業は終わりと。ああそうそう、体なまってるだろう、鍛練しろってお父さんに言われてさ、まあその通りだよ。筋肉ゼロ。ほら腹がヒレ。治療要員で鍛練必要?葵はさすがに締まってるね。いいねうん」


 うるせーだまれ。と言いたいが、言っても効果なし、しゃべり続けるのがこの兄である。向日葵のように露骨に嫌うことはしないが、積極的に関わりもしない。さっきからのペラペラどうでもいい話を、葵は窓の外へ捨てている。


「向日葵ちゃんは相変わらず金髪?」

「ああ」

「そっかー。彼女その2も金髪ギャルだったけどさあ、あ、その子10歳年下でさあ。かわいいけどスタイルあんまりよくなかったね。そこが欠点。あと箸が持てない」


 こんな腐った奴と付き合う女も腐ってるんだろうな、と毎度毎度呆れてしまう。10歳年下の子はきっと騙されたんだ、かわいそうに、と葵は同情した。


「向日葵ちゃんはさ、ほんとスタイル良いよね。ああ、顔は全然好みじゃないけど。スタイルが素晴らしい。帰ったら早速拝もう」


 そして、子供のころから知っている向日葵を、昔からそういう目でしか見ない事には心底腹が立っている。桜のことも子猫みたいな妹系だよね、など、気持ち悪いやつなのだ。


 家までまだ時間がかかる。地獄のドライブだ。


「結婚しても遊びはいいわけじゃない。一度くらい向日葵ちゃんともお付き合いしたいよね。遊びでね」


 車から蹴り落すか、それとも助手席側だけ事故を起こしてやろうか。


 何をしようと、村にとってコイツが必要であれば助かってしまうのだが。

本日もお読みいただきありがとうございました。

感想、評価、ブックマーク等いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。

それではよい一日をお過ごしください。ごきげんよう。

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