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(旧版)神社の娘  作者: 坂東さしま
友達の桜
22/77

月曜日は友達が優しすぎて嘘ついちゃう

 ブルーマンデー。


 橘平は小さいころから、月曜日のことを「憂鬱」だと考えたことがなかった。


 友達とは毎日楽しく遊んでいる。

 教師との関係もまずまず。

 勉強も運動もほどほど。


 しかし今週の月曜日は様子が違う。


 少年は土曜日、友人にアリバイ作りに協力してもらった。なぜかという理由を説明せず。


 その必死さに押されたのか、友人は何も尋ねず、というよりも質問する隙も与えず、その日は事なきを得たのだった。


 そう、今日は月曜日。同じ学校、同じクラスのその友人に絶対会う日なのだ。


「そうだー!優真!絶対なんか聞かれる!」


 と、昨日の朝に引き続き、起床から頭はぐちゃぐちゃだった。


 いわゆる隠し事などなく生きてきた彼が、大きな秘密を抱えてしまった。親にも友人にも言えない類の。悪神だとか有術だとか。


 一生、隠し通さねばならないだろう事。


 あの3人と共同作業が明日終わるか一年後に終わるかわからないが、それまで言い訳を、時にはウソを、つき続けなければならない。


 何も悪いことはしていないのだけれど、うしろめたさ。


 電話は無理矢理にねじ伏せられたが、学校で顔を合わせたらどうだろう。両親はあまり子供に干渉しないタイプなので逃れられたが、友人はどうか。このようなことは初めてなので、読めないのであった。


 適当な理由を、考えねばならない。

 橘平は生まれて初めて、


「え、学校に行きたくない…ぞ…」


 という気持ちを味わっていた。


 今日休んでも、火曜日はくる。水曜日も来る。また月曜日は来る。時間は平等かつ残酷だ。このまま逃げ続けてもいつか優真と会う。田舎だ、その辺を歩いていて会う可能性もありすぎるほどに十二分にある。


 行きたくはないけれど。橘平はもそもそと起き上がり、もぞもぞと学ランに着替えた。


 自転車で学校に向かう途中、「今日も朝ご飯を楽しめなかったなあ」と無意識につぶやいていた。


 そして昨日の向日葵の朝食を思い出す。


 目玉焼き、ベーコン、レタスとミニトマト、ご飯。もったいないことしたな。美味しかったのに頭が家のことでいっぱいで。また食べられるかな。と、悔やんだのだった。


 豆腐とわかめの味噌汁もあった。それはサムライが作ったんだっけ、ということもついでに思い出した。そんなに美味しくなかったな、と。


 学校の駐輪場に自転車を止め、降りて教室へ向かおうとすると、友人の大四優真がやってきた。彼も自転車を止め、「おはよー」と声をかけてきた。いきなり悩みの種に出会ってしまった。


「お、おはよう!!」

「何、声大きいよ。距離感」

「え、いや、いつも通りだけど」

「そか?そういや土曜」

「や!」

「や?」

「いや、蚊が」

「まだ寒いのに?まあいいや。土曜大丈夫だった?なんかとても必死だったけど」


 来た。


 口裏合わせに関する疑問がやってきてしまった。橘平は朝からいろいろな言い訳を考えたが、どれもうまくない。はじめからボロをだすより、とりあえずは何も言わないパターンで進めて様子をみようと決めた。


「ああ、うん。大丈夫だった。本当にありがとうございました」

「そっか。でもよかったよ、今日橘平くんが学校にきて」

「え?」

「君があんな必死に電話してくるって、もしかしたら家出かなあ、なんて考えちゃったんだ。家族にも友達にも言えないような辛いことがあってさ。ほら、橘平くんって嫌なことあっても笑ってそうだから、僕も気づけなそうで」


 友人の予想外の気づかいに、言い訳することしか考えていなかった橘平は恥ずかしくなってしまった。あの電話で、そういう想像を、そして自分を心配してくれていたとは。家族にも友達にも言えないような、は正解であるが。


「た、大したことはなくて、あのほら、ちょっと冒険したくなっちゃって」

「冒険?」


 橘平は口にしてから「しまった」と思った。友人の心遣いが嬉しくて、つい適当なことが口から出てしまっていた。


「え、何々?冒険って!?」


 しかも予想外に、優真は食いついてきてしまった。そういえば彼は、オズのまほうつかいとかガリバー旅行記、子供の頃はそういう外国の冒険小説をよく読んでいたのであった。

中学時代は指輪物語にはまっていた。映画も優真の家で一緒に、いや強制的に見せられた。


「あ?あーいや、あの……野宿?」


 また上手くないことを言ってしまった。橘平は「雪遊びした」よりも大後悔した。雪も残る中で野宿するわけがないだろ、嘘すぎる、俺はアホか、と自身に戒めのつっこみを次々入れる。


「いいな…え、今度一緒に野宿しようよ!!」

「うん、は?」

「かっこいいよ野宿!わー、僕ちょっと憧れてるんだよね、そういうの。生まれた時から山は身近だけど、身近過ぎて逆にキャンプとかしないだろ?すごいなあ橘平くん、尊敬だよ」


 適当についた嘘で友人から尊敬されてしまい「嘘だよ」とはいえない雰囲気になってしまった。恥ずかしいし引くに引けない状況、自分で八方ふさがりを作ってしまった。


「で、野宿ってどうやるの?」

「あ、いや、山で一晩過ごしただけっつーか…あー!家族には内緒で!」

「分かってるよ!だから今度一緒に野宿しようね!」

「あー、うん…暖かくなったらね…今だと風邪ひくから」


 彼らについて漏らすことはなかったが、野宿について早急に調べなければならなくなった橘平だった。


「はあ、明日からテストかあ。土日、勉強進まなかったよ」

 


 優真との会話以降は特に何もない、普段の月曜日だった。テストはもうどうでもいい。もっと、大事なことがある。


 平和すぎて、バケモンなんて本当にいたの?いるの?と疑いたくなった日であった。


 夕飯も風呂も入り、あとは寝るだけ。ふと、橘平の頭に桜の顔が思い浮かんだ。といっても、あっちも寝る時間だろう。会いにも行けないし、電話も迷惑だろうし。じゃあメッセージアプリ、と思ったが友達登録をしていなかった。


 電話番号で検索もできるだろうし、友達予測一覧にもでているかもしれない。でも橘平は一方的に登録したくはなかった。


「…今度、登録させてもらおう…」


 そういえば葵の電話番号もメッセージアプリのアカウントも知らないが、「葵さんは別にどっちでもいいや」と思った橘平であった。

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