友達の桜②
橘平の家の裏に周ると、すぐ本家が見えた。話通りにちょっとした植木や花があり、そしてすんなり敷地内に入れた。
「八神本家は一宮とか他の本家みたいに立派じゃないんで、敷地って言っても狭いです。探すところもそんなにないと思うんすけど。家になければ…山…?」
山はごめんだよ、と向日葵の言うように、この敷地内で早々になにか手掛かりがみつかれば、と思いを一つにするのだった。
橘平の家側の本家の敷地には、木造の古い物置小屋があった。桜はその壁を眺めていると、あの模様を見つけた。
「物置小屋の壁にお守りのマークがある」
「うん、建物には基本的に彫ってある。うちも基礎と、壁のどっかに彫ってあったな」
「橘平少年の持ち物にも書いてあったな」
「え、見たんですか!?」
「見えたんだよ、失礼だな」
「あ、すんません。はい、前も言ったと思うんですけど、いろんな物に書いてます。なんか落ち着くんで」
「八神家で大切に受け継がれてきたものなのね。じゃあ、この小屋入ってみていいかしら?」
「どーぞどーぞ。大したものないし、めちゃくちゃちらかってるけど…」
それなりの広さを持つ物置小屋の中は、工具類や農作業用の道具が置かれていた。そのほか、使わなくなったと思われる家具や置物、コマや凧などの玩具、多種多様、雑多に物が置かれていた。
予想以上に埃や土なども付いており、橘平は軍手と、女性陣には「俺ので申し訳ない」と自身のジャージを羽織ってもらった。桜は袖をまくるほどであったが、向日葵はそこそこといったサイズ感だった。
何がヒントになるかわからない。その姿勢で、4人は道具、小屋の床や壁など、隅々まで丁寧に観察したが、これといったものは見つからなかった。
良い時間だったので昼休憩をとることとした。家に戻ると、母が焼きそばを作ってくれた。ばっちりメイクで。
「母さん、化粧してどこかいくの?」
「行きませんよ、橘平さん。家の中で化粧しちゃいけないのかしら」
「ああ、いや、いいと思う…」
母のメイクも言葉遣いもなんだがおかしいし、目が怖すぎると思ったが、深くは追及せず焼きそばを食べ、また物置小屋探索を再開した。やはり何もありそうになかった。
物置小屋の探索は終了し、次は蔵に移動した。小屋の方は古いという形容だったが、こちらはこじんまりはしているものの、歴史がありそうな作りだった。
「一宮の蔵と同じくらい古そう」
「おー、ここならなんか手掛かりありそーじゃん!」
蔵の和錠にも、鍵穴を中心にお守りの模様が入っていた。橘平は鍵を差し込むことなく、解錠する。
「え、鍵は?開いちゃうの?」
「さっき言ったように、他の本家みたいに立派じゃないから。盗むものなんてないんで、鍵は飾り。蔵っていうか物置っす。こっちも散らかってるんですけど…すぐ詰め込むから…」
入口から見える範囲には、段ボールや茶箱のような木箱、葛籠など、さまざまな年代の入れ物が積まれていた。ほこりがうっすら舞っている。
「気を付けてくださいね、段ボール落ちてきてじいちゃんが下敷きになったことあるんで」
「うへえ、これ一個一個開けて…絶対今日じゃ終わんないじゃん」
「八神さんちに悪いから、夕方には退散しないといけないしな」
「とにかく、できる範囲で探しましょう!うん!」
なぜかやる気満々な桜が早速、奥の方から箱を開け始めた。「アルバムだわ。ご両親の若いころかしら」「小学校の教科書か」「子供服じゃん。きーちゃんの?」など、手前にある段ボール類には最近のものが次々とでてきた。
「木箱とか葛籠開けたほうが何か見つかりそうっすよね?段ボールどけられないかな…」
「そうだな…段ボールは開けないで降ろしていって、あー、どこかスペース作って…」
そんなことをしていたら、この日は段ボールの位置替えで終わってしまったのだった。次の土日にも八神家集合を約束し、この日の探索は終了とした。
帰り際3人は「ご両親に挨拶」をと居間に寄っていった。主に向日葵が騒がしくしゃべっただけであったが。
「おお、もう帰るの?これからも橘平と仲良くしてやってくれな~」
「もちですよ!きっぺー君、私の舎弟なんで~また来ますねっ!」
「え、舎弟!?」
「違うの?」
「ち…がわないかも」
「良かったな、きれいなお姉さんができて」
「はは…」
「ああお母さまあ!今日は何も持ってこなくてほんとすいません!こんどお、超おいしいもん持ってきますね!」
「あらお構いなく。また来てね、また」
帰りも葵は「あー、帰りも乗るのか」などピンク軽を前に少し抵抗していた。
「橘平さん、今日は本当にお世話になりました。また来週もお邪魔することになって、ご迷惑かけてしまうけど」
「迷惑なんて全然!いつでも気軽に来てよ!だって、友達んちなんだから」
今、橘平の前にいる桜は、葵にも向日葵にも見せたことがない表情をしていた。
これまで付き合ったことのない人たちが家に来て、一緒にお昼を食べて、蔵を漁って。
文字にすれば大したことはしていないのに、3人が帰った後、ぽっかりとさみしくなっていた。
彼らとの入れ違いのように、弟が自転車に乗って現れた。「タカんちで遊んでた」という。
桜さんも自転車で、バイクで、徒歩で。自由に友達の家に遊びに行けるようになったらいいな。と、夜に近い夕陽を見ながら願ったのであった。
橘平が部屋に戻ると、怒るのかという勢いで母親が扉を開けて入ってきた。その勢いで、橘平に早口でまくし立てる。
「橘平、いつの間に葵クンと友達だったの?いつから?なんで教えてくれなかったの?言わなきゃダメじゃない。また来る?来るの?来るんだね?来るときは絶対教えてね、今日ノーメイクだったでしょ私。あのね、あおい、いやね、お客さん来るときはお化粧しないといけないのよ。子供だからわかんないと思うけどつまりね…」
お客さんが突然来たからといって、化粧なんかしたことないじゃないか。なにが葵クンだよ、変なの。と心の中で悪態をついたが、あれ?と心に引っかかった。
向日葵のことを応援すると決めた橘平だったが、ライバルという存在を考えていなかった。
ライバルがうじゃうじゃいる…かもしれない…俺はどう応援していけばいいのだろう。と、また別のことで悩む少年であった。




