初めての人が家に遊びに来るってさ①-パジャマパーティー
古民家にたどり着いたころには、すでに日付は変わっていた。
橘平は玄関に入ったとたんに心身の疲れが吹き出し、このまま倒れてしまうそうだった。しかし、ここでばったりして3人に迷惑をかけるわけにはと、気力だけで風呂まで頑張った。
温かい湯船に入ると、気持ちが緩み、体も少し楽になる。「ほっとするって、こういう事だったんだ…」と、一つ知ったのであった。
さっきまでばっちり着込んでいた面々が部屋着でいる姿は、何が夢で現実か、橘平を混乱させた。向日葵は寝間着も派手で、疲れ目にはちかちかした。
「向日葵さんのパジャマ…に、虹っすかそれ」
「そーそー!レインボー!いい気分で眠れそうっしょ」
むしろ明るすぎて眠れない、という言葉は飲み込んだ橘平だった。向日葵は橘平の手のひらが半分隠れているスウェットの袖を掴み、
「お、きーちゃんオーバーサイズでかわいいじゃ~ん」
と言いながら、その両袖をまくった。泊まるつもりで来ていなかったので、橘平は葵からスウェットを借りた。のだが、ちょっと大きい。
「もう身長伸びないよなあ。親もそんなに大きくないし」
「いやいや、高校生だからまだまだいけるっしょ。ってかそんなに大きくなんないでよね~いつまでも私の弟分でいてほしいわあ」
「せめて向日葵さんくらい身長ほしいっす」
葵はモスグリーンのスウェット、桜はシンプルなボタンタイプの綿パジャマだった。レインボーの後に二人の姿を見ると、妙に落ち着いた。
寝室は、先生の書斎の隣。普段、葵が寝起きしている部屋だという。生活必需品のみしかないような、本当に寝起きだけする、といった風の部屋だ。奥に先ほど桜が言っていた日本刀が、部屋の奥にちょこん、と置かれている。
押入れを開けると布団が三組でてきた。もともとあったものが2組、葵の物が1組だという。
これで4人、眠れるのだろうか?と橘平は疑問を持った。
桜と橘平のような小柄4人組ならば十分そうだが、向日葵はやせ型だが橘平より背は高いし、葵はもっと身長があって細身とはいえ結構がっしりしている。
これでどう寝るのか。女性二人に1組ずつで残りの1組を自分と葵、なのか、三組つなげてぎゅっとして眠るのか。
まだ三組つなげて、のほうが気まずくなさそうだ、と敷かれた布団を眺めていると
「狭くてすまんが、ここで寝てくれ」
と言って、葵は部屋を出ていこうとした。
「え、葵さんは?」
「ソファで寝るよ」
「え!?いや、俺があっち行きますよ!一番邪魔者、っつーか、本当はいないはずの人間なんで!」
「客をソファで寝かせられないだろう」
「あんな小さなソファ、葵さんじゃはみ出しますって。俺の方が小さいから」
「そ、それを言ったら私の方がもっと小さい!私があっちで」
「ここに住んでるのは俺だ。高校生はここで寝ろ!」
日本刀のように高校生二人の言い分をばっさり切り、葵は部屋を出て行った。
「まあ、お言葉に甘えて、私らはここでゆーっくり休もっか」
と、部屋内で唯一の大人が、高校生たちを寝床に誘う。
「私真ん中!こっちがさくちゃん、こっちがきーちゃんね!」
布団に入り、向日葵はにこにこした顔で桜の手を握る。
「わー、さっちゃんと寝るなんていつぶりかなあ~わくわくしちゃう!」
しゅんとしていた女子高生の表情が、昔を思い出して柔らかくなっていく。
「子供のころ、よく添い寝してくれたよね、懐かしいなあ。夏休みにひま姉さんとよくお昼寝したよね。私、あの時間大好きだったの」
うふふ、きゃきゃっと子供の頃を思い出し盛り上がる女子たち。その横で、橘平は横になったと同時に夢の世界へと旅立った。
「ねー、きっぺーちゃ…あら、寝てるわ。さっちゃん、きっぺー…こっちも寝たわ」
すーっと寝息をたて、安心そうに眠る桜。妹のような、守るべき子供のような。向日葵にとってそんな存在の女の子の髪の毛をいとおしそうに撫で、布団を抜け出した。
潔く3人に寝床を譲った青年は、ソファ、ではなく、椅子とテーブルを端に寄せ、カーペットの上に横になっていた。体より小さいブランケットをかけ、丸まっている。ソファでは収まりが悪かったのだろう。こちらも熟睡だ。
向日葵はしゃがんで、彼の寝顔を眺める。そっと頬に触れた。冷たい。
「…風邪ひかないでね」
だれも見ていない。そんな瞬間しか、彼女は幼馴染に近づけないのだった。




