表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧版)神社の娘  作者: 坂東さしま
豪雪の桜
13/77

初めて頼られた日

 森の南口、つまり森の入口付近に到着した。


 バイクを茂みに隠し、周りに人がいないことをよく確認してから徒歩で森へ向かう。葵は先頭にたって、さっさと前を進む。桜もそれに続く。


「ねえ、きー坊」


 向日葵は橘平の肩に手を載せ、顔を覗き込みながらこっそりと話しかけてきた。


「私らがバケモンなんとかしてる間さ、全力で桜を『守って』」

「は、はい」

「もしかしたら『なゐ』もでてくっかもしんない。どんな奴かわかんないけど、それでも全力で『守って』」


 あ、そうか、親玉がでてくる可能性があるのか。

 そのことを橘平は失念していた。それに気づき、バイクのウキウキ気分は一気に引いた。


「OK?」

「は、はい!」

「うっし、良い子良い子」


 橘平の背中をバン、と叩き「全力全力~」と言いながら、向日葵は橘平の前に立って歩き始めた。背中バン、はあまり痛くなかった。


 役立たずの俺ができることは、桜さんを全力で「守る」こと。心に深く刻み付け、前を向いた。


 もちろん森の中は真っ暗で、各自、懐中電灯を点けて歩き始めた。


「雪が残っているから、足元気を付けて」


 葵と向日葵が先頭に立ち、他二人はその後ろをついていく。前の二人は手元に何かを持ち、それを見ながら歩いていた。


「こないださ、桜さん、よく迷わず桜の木までたどり着いたよね。懐中電灯があってもわけわかんないのに」

「基本的には方位磁石の北に従えば着くの。そういう風にできている森なんですって。あの時も私、持ってたし」

「え、そうなんだ。追いかけるのに必死でそこまで見てなかった。ぶっつけで来たの?勇気あるなあ」

「私が来る前に二人がこの森に入ったから、だいたいのことは聞いてた。それに森に入れるようになったのは最近だから仕方ないというか…」

「え、最近?それに二人が」


「ちょっと静かにしろ高校生。緊張感持て、緊張感。もしかしたらバケモノがその辺から出てくるかもしれないだろう」

「しゃべって緊張ほぐしてんじゃんよー。ほんとマジメさんだな。リラックスしてるほーがパフォーマンス良くなんのよ?あ、こいつもきんちょーしてんのよ、大目に見て」

「向日葵もだろ」


 と、葵は向日葵の手首をつかむ。彼女の手は、小さく震えていた。


「きょわ!?」


 向日葵は超音波のような奇声を上げ、自身の腕がもげそうなほど、激しく葵の手を振りほどいた。


「桜さんと手繋いどけ」

「うっせーお前だって橘平に抱きついとけ、ばーか!」


 この人、葵さんとは近くて遠いな。と、橘平は感じた。


 今、手を振りほどいたのは、嫌だから、ではなく、照れ、もしくは驚きに見えた。


 桜と橘平にはべたべたしてくるし、服装も声も派手だし、軽いノリで男女関係なく人懐っこく甘えそうな向日葵だが、葵のことはかなり意識しているようだ。軽口を言い合える幼馴染なのは間違いないのだろうけど、恥ずかしさを隠すために、わざとそうしているように見えてきた。


 コートを借りるのはちょっとした悪戯、バイクの後ろに乗ったことがないのは恥ずかしいから。そういうことなのだろう。


 振り返って葵は、向日葵のことを意識しても、考えてもいなさそうだった。


 彼の好みのタイプは分からないが、向日葵ではなさそうだと思った橘平は、「中学生男子みたいだけど、唐揚げおいしいから俺は向日葵さんのコト、応援しよう」と決めた。


「頑張れ…」


 橘平がぼそっと呟く。


「何か言った?」

「あ、いや、何も言ってないよ、桜さん…」


 あの夜は見知らぬ少女を追いかけるのに必死だった。


 今日はその少女、桜が隣にいる。頼もしい年上たちもいる。きっと、あんなバケモノはさっさと倒して、目的を果たせるだろう。


 という希望をもって、黙々と歩いた。


 途中であの怪物に会うことはなく、桜の木の広場にたどり着いた。


 相変わらずの美しさを誇る桜の木。おお、っとまたも見惚れてしまう橘平だが、三人にとっては美しさの対象ではなかったようだ。


「あれ?あの鬼は?」


 広場には満開の桜があるばかりで、2匹の恐ろしいカオナシはいなかった。近くに潜んでこちらを伺っているのかもしれない、と用心しながら4人は桜の木に近づいていく。


「あ!神社がある!どうして?私が壊したはずなのに…」

「怪物を消滅させないと、これも完全には壊せないのかもしれないな」

「ふ~ん。もっかいこれ壊したらさ、バケモンでてくんのかな?」

「おそらく」


 葵が小さな神社を踏みつけるが、全く壊せない。メガネを頭の上にかけてから日本刀を抜き、神社に刺そうとするも刃が通らない。押し返されているようだ、とのことだった。


 向日葵も踏んだり投げたりするが、傷一つ付く様子がなかった。


「なんでなんで?桜さん、足一発で破壊してたじゃん」

「桜さんの有術でしか壊せないんだな、やっぱり。以前も俺らでは壊せなかったんだ」

「え?桜さん、こないだ超能力使ってたの?目なんてあるこれ?」

「屋根の模様です。これ、お伝え様の神紋、家紋みたいなものね、これ目を表すらしいのよ。だから私が壊せた。じゃあこれから壊すから、みんなは心構えを…」


 葵はメガネを外し日本刀を、向日葵は腕を構え、桜を守るようにそれぞれ左右斜め後ろに立った。橘平は向日葵の言葉を思い出し「何があっても桜さんを守る」気持ちだけを強く持ち、桜の隣で神社の破壊を見守る。


 神社と目を合わせ、桜はメガネをすっと外し、思い切り神社を踏みつけた。ぐしゃ、ぐしゃ、と何度も踏み、再生できないほどバラバラにした。


 すると、先日のように左右から巨体の目なし怪物が登場した。

 素早く桜の手を取り、橘平は広場の端まで走った。


 桜の木よりも太い腕や足が、葵と向日葵を襲う。二人はそれを交わしながら、近づける機会をうかがっていた。


 図体が大きい分なのか、動きはそう素早くはない。だが、腕や足を振り下ろした時に生ずる強風、拳が地面にあたったときの衝撃波のようなもので接近するのが難しかった。


「はあ、はあ、こんなとき、魔法使えたらな!!もう!!」

「んなもんない!」

「分かってる!!!!!!」


 一本角の方が、両手を頭上に振り上げ、拳を思い切り地面にのめりこませた。


 その時できた一瞬の隙に、葵は左に回り込んで飛び上がり、腕を袈裟懸けに切りつけた。雷のようなまぶしい光とともに、怪物の腕がぼとん、と落ちた。が、すぐに反対の拳が降り注ぎ、広場の外までぶっ飛ばされてしまった。


「葵!!」


 すぐにでも駆け付けたい向日葵だが、バケモノは向日葵を追いかけてくる。


「葵兄さん!」


 桜は腕をひねりながら橘平の手をはがすと、一目散で葵のもとへ走っていった。橘平は危ない、と声を張り上げながら、急いで彼女の後を追った。

本日もお読みいただきありがとうございます。

よい一日をお過ごしください。

ごきげんよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ