初めてのバイクと神の唐揚げ
結論から言うと、夕飯は「めちゃくちゃおいしかった」。
橘平の母のご飯だってもちろん美味しい。母の味だ。が、向日葵の鳥の唐揚げは別次元のうまさだった。
「すげえうめえ…!」
「やーん、ほめて、ほめて!」
「神の唐揚げっす!毎日食いたい!」
「だっしょー!私とケッコンすればぁ毎日おいしもん食えるよ~?」
「おおう、怪力じゃなかったらケッコンしたかったっす」
「あー!?怪力差別かよてめー!こんな美人ふりやがって!折ってやろうか肋骨う!」
「え、び、びじん?」
「はあ?!」
終始こんな雰囲気の、主に向日葵と橘平がにぎやかにしているだけの食卓だった。
とは言え、桜はずっとくすくす笑っていて「こんなに楽しいご飯初めてかも」とのことだった。葵もたまに笑っていたので、つまらなくはなさそうだった。
腹ごしらえも済み、森に向かうこととした。
先日は、葵が桜を森の近くまで車で送ったそうだが、今回は4人で向かう。
橘平はてっきりピンク軽に乗ると思っていたが、今回はバイクで移動するという。乗り物は森の近くの茂みに隠しておき、明日取りに来るということだった。
「車より隠しやすいからな。それに森に近づく人はいないとはいえ、あんなキラキラした車、目立って仕方ない」
橘平は葵からヘルメットとグローブを借りた。バイクに乗ったことがない少年は、「これがバイクの…メット…」と若干感動していた。また先ほど日本刀を刀袋に入れる葵をみた橘平は、「サムライじゃん、かっけ…」とつぶやていた。なお、この独り言は本人に聞こえていた。
それぞれ装備が終わりとっぷりと暗くなった外へでると、葵と桜が駐車スペースに向かい、それぞれバイクを転がしてきた。葵が中型の真っ黒いバイク、桜がぽってりした白と青の小型バイクだった。
「え!?桜さんが運転すんの!?向日葵さんじゃなくて!?」
桜がバイクを運転する。全くのイメージ外であった。
「ええ。通学のために免許取ったの」
「へーかっけー。外の高校だもんな。俺もバイク取ろうかな」
「お、取ったら乗せて!海いこーぜ!じゃ、きーくんはアオの後ろ。私はさっちゅんの後ろね。体の大きさで言えば逆のほーがいいかもだけど、橘平くんが桜っちにセクハラしちゃうかもだからね~」
「桜さんにセクハラするのは向日葵の方だろ」
「はあ?おい、きっぺー、葵にセクハラしろ」
「え、し、しませんよ」
そんな調子で、乗り方などを教えてもらいながら出発した。
向日葵は桜の二人乗りの練習に何度も付き合ってるらしく、慣れた様子だった。葵のバイクには乗ったことがないらしい。「こいつの運転あぶねーから乗れねー」「安全運転だよ!初めて乗る人を不安にさせるな」ということらしい。
雪が降ってもおかしくないほど寒い夜、人っ子一人いない、雪が少し残る田舎道を2台のバイクが走っていく。
初めてのバイク。乗り始めは恐怖が勝ったが、慣れてくると体で感じる速度が心地よく、楽しくなってきた。いつもの通学用自転車では味わえないものだった。
これからあのバケモノにまた会うのかと考えると恐怖と心配はあるが、初めての経験は新鮮でわくわくした。
ちなみに、葵は安全運転だった。橘平の初バイクは安全安心のうちに終了した。




