密告到来
様子をどうしても見たくなってロビー全体が見える位置の階段を早足で駆け下りながら、それでも危機感を持っていない心に驚きの感想を持ちながらもその状況を見たら脚が止まりそうになるほど、僕でさえ呆れの比重が重くなる。
「なんだ? 子供一人にやられているようじゃ、騎士もかたなしだな。訓練つけてやろうか?」
「なんだお前! 偉そうなやつ、子供だからって舐めるな!」
悪い癖だ。候補生の時のように騎士を見ると過剰に不遜な態度をとってしまう。
「そうか、それは本当だな? 私の態度は最悪だし、君を見くびってはならないようだ」
数名の騎士が気絶して伸びており、二人がかりで取り押さえる兵士も顔面が赤く腫れて、少年に良い当たりの拳をくらってしまったようだ。
「もうしわけない。兵士の皆様と少年に謝罪する。私はここで君たちと敵対するべきではないと反省する」
と、ロビーのカーペットを踏むと同時に謝罪の礼を意味する跪く作法を見せて、少年に向き直る。
「それはさておき、君、歳の割によく鍛えているね。まぁ、兵隊を殴っちゃだめだよ。一旦、拘留して頭を冷やしてあげなさい」
「はっ!」
未熟ながら若い騎士が熟練の取り押さえている兵士から、その少年を拘束して連行していくようだから、この天才少年が暴れると怖いから連行する彼の後ろについていく。
意外なことに、従順だ。
暴力沙汰を起こしたとはいえ、この地域ではよくあることだし、彼が初犯なら半日も反省させたら追い返すし、兵士に後遺症が残るような怪我だったら身元引受け人を探すことになる。
それは僕の仕事ではないが、担当官は面倒であろうことが想像に易い。
「おい、アンタ、偉いのか?」
天才格闘少年が難しい質問をしてくれる。
「決裁権に関わる権限は多くは持たないけど、秩序に反しない範囲の好き勝手は許されている。……あぁ、つまり、そこまで偉くはないよ」
「だが偉そうだ」
地下階段を降り始めて話し始めたなにかに意を決した少年は地下に入り切るとまくし立て始める。
「村の男の、大人の人たちが列車に爆弾をしかけて倒そうとしている。何人も死ぬことに鳴るかもしれないけど、…………キッカーファミリーを守るためにって……おかしくなっている」
「本当かい? だとしたら場所はどこだ」
「西の、谷の辺りに、関係ない人も巻き込んで、協力させた。だから……俺は」
「君は、その場所まで僕を案内できるのかい?」
少年が頷くと、兵士に彼の拘束を解くように促したら若い兵士に悲鳴のような、困った声をあげられてしまった。
「クロヴィス様!? そんなのにいちいち聞いていたら」
それも、そうか、治安の悪いここらじゃキリのない話か、じゃあ。天才の少年の目に賭けるしかない。
「それもそうだな。なら、確認しよう」
懐にしのばせた探検を拘束されたままの少年の首の正面につきつけて、威圧するような真顔で問いただす。
「もう一度聞く、君の密告が嘘だったらお前が子供でも重すぎる責任を負うことになる……それで本当だと、言えるな?」
「あぁ!」
「そうか、理解した」
「クロヴィス様!?」
探検の魔剣としての機能を使用して、少年を拘束する金具を融かして裂き、自由にする。
「わかっている。子供に責任を負わせるほど私は傍若無人じゃない。彼の私が真偽を確認する。組織として所属している君たちはそれから動けばいいだろう? 大丈夫、私が個人の判断で確認するだけなら子供に罰を負わせる真似はさせない。ゴディオン外交官殿に僕の行動を法則しておいてくれ」
騎士に平謝りして、少年を背中に担ぐと怒声が耳元に届く。
「こ、子供あつかいするのか! 俺を! お前だってそんな年取ってないだろ!」
「いいえ、お前が大人でも同じだよ。それに私自身、成人しているとは言え、まだ若輩の身だ。君を信じたくなったがそれで組織を動かせないことも理解できるだけだ。あぁ、つまり、わからないか? 俺が言いたいことが」
駆け出して、背中から守衛の兵士から驚嘆の声をかけられたが無視して、西へ走り出す。
「……わからねぇよ。なにがだ!」
「素手で訓練した兵士を3人伏せさせた天才に、責任を確認した時点で私は貴様を子供扱いするつもりはない。お前が嘘をついていたらなんだかんだ理由をつけて罰を与える。そういう意味だ」
少年が緊張から唾を呑んだ気がするが、気持ちが伝わったならそれでいい。本当に与えるような罰は僕の方に流れ飛んでくるよ。
「私の立場では時間を取るのは本国の議員様でも金がかかるぞ。貴様にはその時間を払う価値があると言った。お前のいう現場まで案内しろ、このまま線路を登って谷に向かう。正確な場所は教えてくれ」
「あぁ、ぅ、……わかった。聖騎士さん」
僕の背中に顔を埋めながら、その勢いに呼吸が苦しくなっているようになんとか少年は声を絞り出す。
「私のことはルイージと呼べ」
「さっき……クロヴィスって……!」
「ならばルイスでいい。好きに呼べ」
「ぁ、……った! ……聖騎士の兄ちゃん」