騎士到来
軽食を終えるとアンビー・リンドレイクの奴が不用意なことを言い出す。
「そういえば、この地域のどっかに例のエドワード・キッカーが潜んでいるって話があるけど、もしかして仕事の途中で捕まえたら賞金とかもらえるのかな?」
周囲の、給仕係と用心棒に聞こえたのか、目の色が変わった感じがする。勘違いかもしれないが、態度は示したほうがいいかな。
「職務中に賞金首捕まえても報奨金は受け取ったらダメだぞ?」
「えっ!? そうなの!」
「あのなぁ、一応公金をもらって仕事している時間の内ではそういうのは法律で禁止されているというか、あぁ、でも、仕事前なら勝手に探して捕まえてもいいぞ。まぁ、そんな時間はないかもしれないけどな」
「それで稼ごうとするのは勝手だが、仕事に支障をきたすならダメだからな?」
「はーい」
アンビーが全くわかってなさそうだから往来でするような内容ではないが、なにか指せる前に釘を差しておく。
「本当に賞金首探しとかやるなよ? 無駄な軋轢を今市民と作るような真似はしない。あの強盗団は人を殺さないその一点だけで民衆から多く支持を得られているヒーローなんだ。仕事でないなら何もするべきではないぞ?」
「え、あぁ、うん……はい。わかりました」
「本当にわかっているのか? 今回の仕事でなぜ僕が呼ばれて……まぁ、良い、うん。市庁舎へ向かうぞ。はい! お姉さん。会計を頼みます」
懐から連邦領域内共通通貨を数枚取り出し、端数が出るように押し付ける。
「はい、こちらで余りはチップでいいよ」
やや割高と思いつつも、身なりは良いところの騎士のような風体をしているのだから、それくらいの相場がわかってたまるものかという常識も思いつつ、非常識なのは貧民の金銭感覚を持ちがら騎士服に袖を通している僕の方だと思いながら払う。
「美味しかったですよ」
「え?」
言えべきではなかったか? 少し恥ずかしくなってしまった。
「いえ、なんでもありません」
本当になんでもない感想だ。嘘なんて言っていない。
「ゴディオン殿、もう到着なされていたんですか?」
「それはどういう意味だい?」
「いえ、会合は十数日も先なので、外交官殿はもっと後に仕事するのかと」
僕が子供の頃に住んでいた辺りの全員より肌の暗い色の開拓地の現地人より暗い色で、真っ黒な肌色の外交官殿がメガネを外し、読んでいた市民向けの怪文書をゴミ箱に放り込んで、くつろいでいたソファ越しに半身になって斜め後ろの僕を見る。
「逆だよ逆、代表者が取り決めを確約する前にその内容を話し合い、両方の妥協点を探り代表者の可能な選択肢を用意するのが私の仕事ですよ。誰よりも先に現地で話し合いを始める事こそが外交官の本懐ですよ」
「そう、なんですか。いえ、専門でないことはあまり関わらないようにしていたので、驚いただけですよ」
「新参とは言え、ルイス君……いや、クロヴィス様と名乗っていたのかな? 君は聖騎士であり、単独で聖騎士隊の権限を移乗された唯一無二のアミニズム教会所属のなんですから、しっかり……しっかりちゃっきりして欲しいものですね」
一応彼と僕は政治的なスタンスはかなり即物的な思想だ。
政治的な後ろ盾を同じくする商工会の議員に気に入られている商工会派に混ぜられる立場、というか知らない関係じゃないから、他に数人しか居ないとは言え、人の出入りがある談話室でかしこまるべきか、気安くするべきか、立場が悩ませてくる。
「それは、耳が痛い。私はただ今到着したばかりとなりますし、総督府の兵士達の本隊も後で着くと聞いていましたが、ゴディオン外交官はいったいいつから」
「えぇ、そうですね。私は……だいたい、半月よりも前から、いいえ、もう一ヶ月も経ちましたかね? 前々から何度も往復してすり合わせていた土地の利用に関する交渉と、貸出に対する報酬を話し合って、ついに一ヶ月前に各地の川の民の族長達との交渉を任され、メディテュラニス連邦の外構代表者として血判状と彼らの流儀の通過儀礼を受けされてもらいまして、それから日々を忙しく過ごしていましたよ」
「そうだったのか、いや、いえ、安心しました。そうか、てっきり、私がここに来ないとならないほど物々しい現場なのかと想像していたが、勘違いだったみたいで」
「えぇ、会議場で連名の名を借りたいという連絡はしたはずですが?」
飲みかけのなにかが入ったティーカップを取り、ゴディオンさんはリラックスるしているのか、僕を見ずに軽く言う。
「それは……知っていましたけど。本当にそれだけだったのか、なぁ、私がここに来るのは、その行為が現地アミニズム宗派といらない軋轢を生むんじゃないか? やっぱり、気が引き締まるとは別に緊張してしまいます」
「そう? ……そうかな、いや? むしろ、君たちコーカソイドのアミニズム教会とこの地のモンゴロイドアミニズムのどちらの代表者も仲良くできるという演出をしてもらいたいのだから、名義上でも君たちの教会で一番えらい君がいなくては、なにもないという軋轢を生むのではないかね?」
「ごもっとも、です」
なにかの写本を取って外交官は振り向きもせずに、気安い世間話を続ける。
「あぁ、そうだ。君、酒は飲めるかい?」
「常在戦場の観点から、動きが悪くなるのは嫌なので飲みません」
「そうなのかい? 聞く限りだと女にはだらしがないのに」
「えぇ、と、否定はしませんが……、女がいなけりゃ男もいないでしょうから世間からあまり良く思われなくても、協議に反するようなことはしていませんよ」
「あぁ、君はそういう宗派かい。そういう思想も少数派というだけで確かに存在するからね。法皇猊下も認めてなさっている。思想は共感しなくても理解できなくもない」
「宗派っていうか、……あぁ、……なんていうか、隣に女性がいないと眠れないだけですよ」
「若いだけなのかい!?」
「はい。幼いだけですよ」
怒声が響く。
「なんだ今の声?」
「揉め事かい? ……いや、有事ではないみたいだ」
「なんで?」
「彼が総判断した」
「避難指示をしてませんから、それに、ここのロビーで誰かが暴れるのは珍しいことじゃありません」
野太い男たちの怒声の中に、子どもの『ぎゃああああ』とでもいうような叫びが混ざって、僕いても立ってもいられなくなる。
「すみません、私は様子を見てきます」
「ほどほどにするんだよ? 今の君はもう偉いんだから」
「聞いてないね」背中の方から呆れ超えが聞こえた。