連絡受領
ノックに対して返事があるので、扉を開けたら会釈を済ませて名のりを済ませて総督府の一番偉い人の外向きの執務室になっている二階の広い部屋のどでかい扉を横に引く。
「クロヴィス・カンビオン、参らせてもらった」
「ようこそお越しくださいました。町を占拠した盗賊団殲滅の戦いは苦労をかけたな」
「苦労だと? あんな狩りを戦いと言うほど気取るつもりはない」
「狩り……それは、少し、表現としては、いささか不適切では」
「ぁん?」
早記の勉強してこの色についたであろう文官の指が止まっているのが視界の端に捉えられたのだから、あぁ、気分が悪くなられるだろうけど、
「そこの筆記係、今の失言と一緒にいまから言うことをよく記録とけよ? これは、聖騎士、クロヴィス・カンビオンの言葉だ」
「え! あ?」
「筆記官にそうそう話しかけるものではない」
「そうか、だが言わせてもらう。自分より圧倒的に弱い相手への一方的な殺戮を狩りって言わないのは、必死に戦う者に対して失礼だってことだけは確実にな。少なくとも戦士にも侮辱にあたるもんだ、戦いを生業にしているんだから、そういう奴らには特にな、無論、騎士の有るべき姿が戦士ではなく狩人であるという持論をもっている私の発言でしかないのだから、個人思想と思ってくれても構わない」
「聖騎士の言葉なんだろう?」
「猊下や枢機卿にも認めていただいたありがたい言葉だとしても?」
「……あぁ、そういうこと? 聖騎士個人の意見だけど、規範として肯定的な言葉としろっていことかい?」
もういいだろうと、後ろにあった横向きの皮造りのソファに腰掛けてため息を吐く。
「まぁ、そうだな。だがこれは理想の話だ。現実的な話をしているわけじゃない。だからこそ、騎士は狩人であるより戦士である場合が多いのも現実だ」
「えーっとそれで、狩りに向かわせた……何に不満がある?」
手を顎にあてて、感情の爆発を表情で過剰に表さないように注意する。僕はそういう外向きの仕事は講習を受けたが、『あんまり、しない方がいいんじゃないかな?』と同僚に言われてしまうほど向いていないのだ。下顎だけでも表情は隠しておく。
「あぁ、そうだな。不満は当たり前だろう? 海を渡って開拓地まで来て現地民との折衝や、移民に対して聖騎士の威光を見せるとか、目的からはずれた仕事ばかりさせて、たまに呼ばれた情報収集目的のついででマフィア狩りをしていたら、現地民の聖域と近いから帰ってこいとか振り回されているんだぞ?」
「しかし、それが聖騎士の職務だろう」
「俺がまだ聖騎士を名乗っているのが、契約に基づく交渉の末の行為だって忘れてくれるなよ。現在の交渉担当者が」
「大丈夫だ! 安心してくれ」
今の言い方には危機感を感じてくれたのか、紐で括られた書類束をあわてて机から引き出す。
「今回はカヴァデイルの出没情報がまとまった。その報告書が完成したから、君を呼び出したんだ」
机に寄ると押し付けられるような強引な態度で書類を受けて、ソファに座り直して時間をかけて読み進める。
どうせまた適当な目撃情報の一覧だろうとたかを括って、資料に目を通しはじめつつ、断るつもりの無い自分のことも分かっているから漬け込まれないように不満を表しながら、順番に読み進める。
しまったな、これじゃどっちでもない。
「……っ! すまない。見くびっていた。てっきり、適当に言いくるめて契約を果たしてないものだとばかり……」
「私からっ」
「ありがと」
顔を見て総督に向けるには珍しい本心からの笑顔で感謝を告げてしまう。
ペラペラと、何十枚にもわたる補足情報と、数枚の結論を述べた方法を確認して結論だけ読んで目的地を確認した。
そして、補足情報と副次目標に微妙な感情を抱かざるを得ない。
「川の民の集落近くの、開拓地の紛争に関わっている……か、特殊な焼死体と爆散死体の分析から……なるほど、総督殿も良い部下を持ったな!」
「今回もヴィンセントさんを借りていく。いいかな?」
「えぇ、もちろん」
「感謝する。私が川沿いの開拓地にむかった情報は秘匿してもらう。今度こそカヴァデイルにトドメを刺す! 邪魔してくれるなよ」
「……隠すのは良いが、いくつか当該の紛争に関して、聖騎士様に優先していただきたい頼みもあるのですが……」
「確認させてもらう。どれだ?」
書類の補足項目に指を差し込んでどの話が始まるか用意する。
「その案件というのも、書類に一緒に書いてある……怪盗エドワードの捕縛をそのお力で」
「あん? この案件に関わることはできないぞ」
「できない。ですか」
「人を殺してなさすぎる。こういうのは懸賞金目当ての賞金稼ぎがやるべき仕事だ。人を二人しか殺したことのない小物に聖騎士が出ていくのは完全なる越権行為だ」
「越権って……その権利を管理する私からお願いしているのですが」
「ダメだ。聖騎士として活動できるのは十人殺してまだ殺すだろうって外道だけだ。聖騎士を名乗った以上、連続強盗傷害で被害額がどんなに大きくでも大して人の殺してないやつを殺しに行くわけには行かない。そういうのは、現場の警邏役人の警察や騎士がすることで、聖騎士は人でなしでないと殺さない」
「えっと」
「経済や政治に関わる行為が……あぁ、俺の独断では無理だと言っている。……つまり、総督からの命令ではなく自治政府の議会からの命令なら……少し考えると思うが、やはりそれでも難しいと思うな。俺の権限で人らしい人は殺すことを拒むことができるからだ」
「はぁ……」
露骨に態度にでるがまぁ、本当に頭が痛い問題なんだろう。お金周りで苦労する仕事を手伝ったこともあっるのだから、その気持が無いわけでもないんだ。
「そうがっかりするな。言ってしまえば、人らしい感情を残して人を殺す人間が数人怨恨や物取りで聖騎士がでていく時は本当に緊急事態ですねって話になるだけだ。やるとしても、聖騎士の権限でなく、賞金稼ぎのルイスとかなのるただの男になるということだ」
「それは、やってくれると!?」
「いや、すまないな。『積極的にはやらない』という意味だ」
「そうですか、残念です」