魔道師は言った『立派な聖騎士』と。
准教授の立て札を添えられた机でなにやら大量の記録やメモでかえって内容がわかりにくくなった紙束を文書に清書するペン先のインクが乾いたところで、彼は一つため息を付いて正面のソファで受け取った封筒へ、かすかに一喜一憂するように頬を緩ませる生徒へ声をかける。
「手紙にはなんと?」
気になったから聞いただけなのだが、生徒はうなずいで教授へ返事する。
「えぇ、近況と、先生への感謝のお手紙です」
「おぉ! メディテュラニス最強の聖騎士様から直接感謝の手紙がくるとはね!」
生徒は白々しさを感じていた。外国人に国内向けの権威的な称号になんの価値を感じるんだ。と、その程度にしか感じなかった。
「君のお父様の武勇伝は私の旧プロギュス帝国領域にも伝わっているからな」
「それは、どのように?」
「平民だった時からたった一人で襲来するマシンの軍勢を殲滅したとか、当時の堕落しきった聖騎士隊の再編を加入の条件に要求して枢機卿に改革を推進させたとか、開拓地に行って治安維持に貢献してたとか、……あと、開拓地で式をあげた辺りの話」
「どれも、私が生まれる前のことですね。詳しいことはわかりませんよ」
「そうか? ならこっちにどう伝わっているか教えてやろうか?」
「いや、いいですよ。それより、プロギュス攻略に関わった話とかじゃないんですか?」
「あぁ、そんなのは、知ってて当たり前のことだから、別に、いいんじゃない?」
「知ってて当たり前って……」
「あぁ――――」
「お父さんの武勇伝、なんでこんなにあるの?」
「さぁ? それはよく知らないけど、前に僕が言ったように、君のお父さんには随分世話になったり、お母さんには随分迷惑をかけた者も多いんだろう。そういうのは、適当に調子の良いことを言って、機嫌を取りたくなるものだよ。実際、僕が君の目の症状を抑えたそれ、その程度の研究成果で感謝してもらえるなら、僕は差しで引き得しかしていないのさ。そういうものが積もり積もってゆけば伝説は勝手に生まれてくるのさ」
「そうなんですかねぇ?」
「どっかの陰謀論では開拓地には何かしらの大物を討伐するために行っただのなんだの、嘘と断定できないような本当とは思えない陰謀論だって湧き立つくらいだ。そんな事実があるなら、殺した相手の話だって今に伝わっているだろうに、話は誰かが尾ひれ背びれに胸ビレもつけて派手派手に脚色されるものさ」
「その『誰か』はなんだって、そんなことをするんでしょうね」
「そんなの分かりきったことだろう? 君のお父さんは――――ーー……、ルイス・クロヴィス・カンビオン・ディープシーが立派な聖騎士だからだよ」




