連絡受取
男女の嬌声をと香り立つそういうアロマ。合法とは言え、こういう場所に聖騎士が通うのは良いこととは言えないが、僕の事情を知っている者には壁越しのこの節操ない音がないとならないということを理解できるため、世間体を犠牲にしてでも友人たちにだけは了承を得ていた。何だ。これ、本国の首都にいた頃の話だ。
あの頃は、そんな理由で僕が娼館で寝泊まりするなんてことをどうしても理解されなかったら、最終的に……今は不貞騎士ってことで話の辻褄を合わせている。
「おはよう。お姉ちゃん」
「おはようございます。よく眠れましたか? クロヴィス様」
「おかげさまで久しぶりに、一晩目を覚ますことなくベッドに眠れたよ」
一応は高級娼婦で夜をともにするのもオマケみたいな聡明な女性だというのに、知恵も体も求めないで面倒な注文と副業的な宿屋の業務ばかり求めるクソ客によく対応してくれるものだ。
いまだ若々しく親子ほど年が離れているはずの彼女から、異性的な魅力は理解できなくもないがそういう注文はしていない。目覚めにぬるい白湯を差し向けられ起き抜けの爽やかな快眠であったという印象をより強固なものとして担保してもらう。
聡明だからこそ、僕がこういうものを求めていると会話の中から見抜いて家庭的な優しさを演じることもできる。なるほど、そこまで見抜けるなら、会話するためだけに資産家が時間を抑えるのも頷けるものなのか、
「ありがと」
「朝食はいまから作らせていただきますわ。総督府からの書簡も預かっているので支配人に、確認してくださいな」
「うん、聞いておく」
だめだな。娼婦に女を求めない癖は、お姉ちゃんの退出を待たずに寝巻きから着替え始めて、だらだらと外出用のコート以外のそれなりの服装をして、バックヤードの女所帯のなかの強面の兄ちゃんたちの隣のテーブルに座る。
「おはようございます」
「おはようございます、聖騎士のアニキ」
「お兄ちゃんはむしろ君たちの年だろう?」
「お前がお兄ちゃんだってよ! ははは」
「そうか、聖騎士様から見たら兄ちゃんか!」
「えぇ、色街裏でお姉ちゃんを守って荒事任される人はだいたい僕のお兄ちゃんですよ」
「そうか、いういやそんなこと言っていたな!」
気のいい人たちだ。荒事の多い仕事、というより荒事のための仕事なのだからそれなりに鍛えているようで、引き締まった筋肉がやや整った部屋着の隙間からむさっ苦しく見せびらかす。
「最近は景気がよさそうだね」
「おかげさまで、この通りも本来の状態にもどったというものですか、人の出入りが最近の中では増えましたね」
「仕事の甲斐があるよ。と言っても、金を払って住ませてもらっているだけだが」
「聖騎士様が出入りしている街で不埒な行いをするものは、怖いものも何も知らないもの知らずだけですからね」
話しているうちに食べ終わったのか、食器を下げようとしている支配人をみつけたので声を投げる。
「あ、支配人さん! おはようございます」
「おや、クロヴィス様、おはようございます」
「支配人さん僕に書簡が届いているって……」
「えぇ、厳重にお預かりしています。朝食ののち事務所へお越しください」
「うん」
兄ちゃんたちも仕事時間外で、仕事じゃ微塵も見せもしないだろう気の良い面を見せてもらって兄ちゃんたちと楽しく食事を住ませて、びちゃびちゃの洗い物入れに食器を詰め込む。
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