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3年目、3

「眠らなきゃ、明日は作戦だっていうのに」

「あら、まだ眠ってなかったの?」

「サリヤ!?」

 布団を投げるように飛び起きて声のする方へ身を構えると薄く、見えるのは明かりの漏れた扉だった。

「本当にまだ眠ってなかったの?」

「そうだな。……もう、ずいぶんと眠れてないんだ」

「そういうつもりで言ったわけじゃないんだけども、部屋に入ってもいいかしら?」

「いいぞ。今鍵を開ける」

 そのまま会話すればいいものを、扉越しだとすぐに話しが終わって僕らの縁も切れてしまいそうな気がして、どうしてか部屋に招き入れていた。前に会ったときは気まずいまま別れてしまっていたから、どうしても怖くなったんだ。

「そんなんで明日の作戦までに疲れが引いたりしないのね?」

「眠ったふりをしても、疲れはとれないこともない」

「そうね。これ、焚いていい?」

そう言って、確認を取る前に器の中の香を焚くための種火を起こす。

「いいよ。そのお香は?」

 ずいぶん、強い臭いだな。

「気休めよ……大したものじゃないわ」

「なんだか、懐かしい匂いがする。あぁ、ずいぶん、昔、いや、最近までどこかで覚えのある香りだ」

「そう、そうだったわね。アタナの」

 身を寄せて、持たれるように腕を回した彼女がベッドに座るから、僕も布団の上に座った。

「ねぇ、私を愛して……」

 その両腕、待ち構えた唇に! 俺は

「……いや、やめよう」

 指を添えて、押し止まる。

「あら、貴方にこういうことをするのにはお金が必要だったかしら?」

「それは、そうだが、今はもらわない。営業していないから」

「なら」

 子どもを? サリヤと、僕の、家庭は……? 僕が? ルイスが!?

「嫌だ」

「なんで!? 貴方だってまだ私が好きなんじゃない! その視線、声も、まるで隠しきれていないいやらしい目線を私がわからないわけないじゃないのよ」

「それは、そうだが……」

「だったら!」

「俺は、…………僕はっ、――――――!」

 口づけ

「ねぇ、もう一回、しよう?」

「ごめん、俺は、僕じゃサリヤを幸せにできる自信がない。俺じゃ、また……」

「だったら、今だけは不幸にしてもいいわ」

 もっと、後にしてくれ、こんなんじゃ、気持ちもつけられないよ……!

「もう嫌だ。無理なんだ。誰かを不幸にしてしまう自分の本質的な、嫌な部分から目をそらして愛する人の幸せを願うのは、また失うんじゃないないかって……」

「そう。わかったわ」

 羽のように柔らかに触れるものから、情欲的に貪るように触れてくる。

「私は貴方といるだけで幸せよ」

 眠い。なんだ、ぐわんぐわんする。

「だけど、そうね。私じゃルイスを――――――」

 いつの間にか、眠って僕は朝になって目を覚まして、久しぶりに眠れたことを自覚した。

 一人で起きて、ひさしぶりに気分が良いが機嫌は微妙な頭で会議に出ると、もう既にサリヤは出席していて、何事もなかったものとして作戦直前の摺り合わせの確認を終わらせる。

 恋なんて、するもんじゃないな。そう思う。


 ◆


 赤く極太の加熱された赤く光る一線が、空中から降り立った多脚の金属でかたどられた魔法生物の上半分をかすっただけで蒸発させる。

 俺がこの魔剣から放ったその射撃を見て、コエルレミアは怒鳴り声をあげる。

「そんな人より何倍もデカいだけの大型は狙わなくていい! そいつらを格納する超大型と飛行型だけ狙え! まだ、超弩(恐れ知らず)級は出てすらいないっ、へばるんじゃないよ!!」

「わかってる……だが、これでも結構全力なんだ」

 極太の一線が空の赤色を描いて飛行していた巨大な円盤をまとめて2つ消滅させる。

「だったら撃ち続けろ!」

「言われなくてもしてやるぞ!」

 予備の銃身はともかく、一発撃って再装填可能になるまで2秒、装填に掛かる時間は1秒以上3秒未満、この魔槍から魔術を発射する一発に掛かる時間は多くて5秒。

 これでも、初めて換えのきかないポジションを与えられて気合い入れて訓練したんだ。最初は俺の鋼の魔力で一発の魔力を装填するまで2分もかかっていた。個人的にはずいぶんな進歩なつもりだが、コエルレミアからしてみると妥協範囲だそうだ。厳しい。

 極太の線を描く電気加熱された金粒子のプラズマが撃つ毎に命中しているのに(まと)は絶えない。

 あんな巨大な奴らが一匹でも撃ち漏らしたらメディテュラニス連邦の周辺諸国どころか、ヨーロッパ、いや、ユーラシア大陸が全滅しかねない凶悪ゲロカス外来種だというのに、あまりに巨大すぎてまるで外す気がしない。

 不満があっても、飛来した|超弩弓円盤型飛行マシン《ドレッドノート》を一撃で破壊できる威力を5秒ごとに発射できるのは破格だ。

 一匹倒すのに国の全戦力を注ぎ込むようなバケモンが、どこにいたんだ? ってほどの数がきているのに、たった5秒で死んでいくのは気持ちがいい。

 それにまるで疲れない。

 俺が選ばれたのは、基本状態鋼魔術の性質が最弱の疑似黄金精製というクソ鋼属性だったからだ。それ以外はない。

「第二波! こんどは左右に広がって、皆! こっちを狙っている! ジャレッドを死ぬ気で守れ! 爆弾を一発もこっちへ近寄らせるな!」

 コエルレミアが指揮官でも無いくせによく通る声で兵士たちに激を飛ばす。それに呼応したように兵士たちは叫び声を上げて、飛来する飛び道具や爆弾は魔術で落とし、地を埋め尽くす金属の巨大虫たちには盾と槍で突き返す。

「「「「「うおおおおおおおおおおおぉぉ!!」」」」」

 俺はその献身に答えるべく、近寄るすべての巨大円盤を撃ち落とさねばならない。

 赤熱した魔力製の黄金は魔剣を通して効率化された雷と炎の魔力属性で加熱され、金属の塊を一瞬で溶かせる温度の一線を空に描き続ける。

 子供の頃から兵士になりたいと思ったのはなぜだったのか? 今は、もう、どうでもいいことだ。

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