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3年目、2

「シグフレドでいい。貴方には、ずいぶん、お世話になった」

「俺がお前になにかしたか?」

「私は預言者だぞ。未来では世話になる予定だし……間接的には、もう既にいろいろしたさ」

「間接的……? あぁ、そういうことか? そういえばアンタがなにかしたのかと思って聞きたいことがあったんだけどさ」

「何でしょうかな?」

 重要なことじゃないので別に聞かなくてもいいけど、できるタイミングもできたし一回聞いてみたくなった。

 窓が空いてる。風は吹いているがこの廊下の高さの割に吹き込んでこないうるさくも優しい風だ。

「ひさしぶりに会った魔導師のおじさん、あぁ、僕にこの熱を放つ鋼の魔術、名前は……クローズくら――まぁ、いい。この棒を作って飛ばすやつを教えてくれたオッサンだ。あの人、アンタのところの研究会に所属してたけど、もしかして予言とやらでなにかしたのか?」

「……さぁ? どうだろうな」

「心当たりが無いのか?」

「どうだろうか。上手くいけば良いだろうという仕込みはたくさんしたが、私は未来を見ただけでは過去を見るとはできないから、どれがどこまで上手くいったかは判別がつかなくてね」

「そうか、それは、つまり、知らなかったということでいいのか?」

「いいや、知っているかもしれないし、覚えはあるがどれのことを言っているか分からないし、私が関係のある内容か検討もつかず分からないと言っている。予言を利用するとはそういう面倒な下準備をし続けることだ」

「へぇ」

 だとしたら、明日になったら作戦開始だというからに、即席で建てられたこの城もそういう根回しをして都合をつけさせたりしているのか?

「普段から、そういう調整はしていのか?」

 微妙に笑って、預言者は首をかしげる。

「歴史に大きく関わることになる人物についてはね。それでも知らない人物は次々と出てくるし、歴史に関わらなくても重要な人間だっていくらでもいる。マシンの同時多発的大量移動(スタンピード)のタイミングを後にズラしたり少し前倒しにさせたりする作業ほど、法則性のある予定ではないのだ、上手くいかないことばかりさ」

「……そうか、この災害をズラす。そういうことはできるのかぁ……うぅん? だとしたら、前に僕が出たマシン討伐遠征もズラせたりしたのか!?」

「あぁ、そうだ。だからお前が歴史の表舞台に出てくるタイミングまであとにずらした。だが、勘違いするなよ? 事件自体をなかったことにするのは極めて高いリスクがある。私が予言者を名乗る限り私の予言から未来は結果は大きく変わらない。変えるつもりがないからだ。変わってしまったら私の見た未来はほぼ全て当てにならないことになること既にを学んだからね」

「それは……つまり? 見殺しにしたのか」

「否定はできない」

 ……そういうことを言われると、つらそうな顔にはなるのか。隠しているようだが、なんとなく表情が固くなりすぎてる。

「んん……? もしかしたら、あんたの予言は時間が経つほど不正確になるってことか?」

「そうだ。だが、安心しろ。当てにできる優秀な修正手段はある」

「つまり…………、あぁ、保険はあるんだな?」

 頷くのか。

 今更になって、周囲にほとんど気配がないとはいえ、廊下でする話だろうか? って気持ちになってきた。これ重要な秘密じゃないのか? いや、あんまり秘密にしていないのか? ……わからん。

「大丈夫だよ。この作戦が終わって私の見た未来から完全にかけ離れてしまっても、私の予言の全てが失われるということはない」

「…………?」

「およそ、これか二十年だ」

「どういう意味だ」

「私の予言が機能を失う未来がくる予定だ」

 周囲を見渡す。誰か、いるのか!? いないよな!? 気配はしないが隠れてるやつだって、

「は!? そんな最重要情報を……それの、いや、違うな……本当のことを言うわけ無いだろ。ブラフ、いや、おおかたそれが真実だとしても無くなっても問題の無い仕掛けを作るんだろう? あぶねぇ、騙されるところだったよ」

「まぁ、それは否定しないが、嘘をついたつもりもないね」

「『だろうね』としか俺には言えないだろうな」

 なんか、案内されてすぐそこの部屋に通される。

 書きかけの水彩画、なんというか粘土みたいな匂い? 油じゃないとおもうけど、画材のしっとりとしたよくわからない植物とか、動物とかの顔料の臭い。

 絵を書いているんだな。趣味か?

「それと、さっき話したひさしぶりに会ったオッサンに確認したら俺が使ってた術は構成式が間違ってたらしい」

「……そうなのか? あの完成度で」

「感覚で別の術を作ってるとか言われたよ。本来は炎の魔力より雷の魔力を大量に消費して飛び道具として使わない近接技だったらしい」

「近接? あれでか?」

「本来は、ほら、今回のために用意させた新兵器のクローズドクランベリーカーテンで使える効果を部屋の中で使う暗殺術だったらしいが、それを使える鋼属性魔力の持ち主は僕の知っている限りジャレッドだけだった。だから、その魔術を分析して新たに作った技を僕に教えて、なんか行き違いがあって俺が間違って使ってたというオチだ」

「そうか、ジャレッドを気にかけていたのはそういう理由だったのか?」

 手慣れたような指先でポットをつまみ、魔術で大気中から集めた水でつくったお湯を用意してポットの中の茶葉からハーブティーを用意して、テーブルの上のコースターに設置してどこからかいつの間にか出したドライフルーツを皿に盛り合わせて並べる。

「いや、別に、腹違いの兄だから」

「なにっ!?」

「ごめん、違うんだった。そうだ。違う、少し前まで腹違いの兄だと思って仲良くしたくて突っかかってた。色々あって、実際は枢機卿の乳兄弟の息子だったと判明した」

「なんだその情報量は、知らないぞ」

「……地元の城下町では有名な話なんですが」

 男は眼の前の椅子にすわって、ドライフルーツをつまんで眉間のシワを指で伸ばそうとする。

「じゃあ、なんだ? 例の魔術の本来の使用法だとジャレッドの適性が高いのは、偶然だったのか? 結果的に強いならどっちでもいいが……」

「他人からしてみたらそれもそうだろうな。まぁ、とりあえず、魔導師のオッサンには必要なんでジャレッドの教師をやらせたけど、情報行ってないの? アンタは教導会のボスなんでしょ?」

「新兵器の要か」

「そういうこと。まぁ、機会があって今回はあの魔術装置を使ってその魔術を使わせますよ」

「ふむ、お互い、使える手札が多いのはいいことだ。個人的な意見になるが、それが、敵でも味方でもな」

「ま、そだな。私としては敵になる者の手札は勘弁願うばかりだが」


 ◆


 預言者の近くにいたら面倒な顔合わせをいくらか省略させてもらえ、別働隊になる予定だからサリヤがくるまでこっちの作戦の摺り合わせは必要最低限の情報共有だけで済ませてもらっているが、

 今日眠って明日朝になってサリヤが合流したら作戦の確認して、昼になると始まるマシンの大移動の国を超えた総力防衛戦で、僕らは手薄になったマシンの女王個体を全滅させるために行動に入る。

 驚くことに、気分は高揚していない。だけど、まだ、眠れない。僕の判断の甘さのせいで、お母さんとヴァルトが死んだあの日からずっと、僕は上手く眠れなくなってしまっている。

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