3年目、1
数回、等間隔で同じ音を奏でるメトロノームから一度だけ数段高い音を響かせてまた等間隔の音に戻り、高い音奏でる仕掛けがされた民芸品のメトロノームをフェルメイアに預けさせてもらった。
僕は数十メートル離れた二本の粉で作った白線を往復しながら、メトロノームの高い音と音の間に両端の内側を往復してゴール地点の線を飛び越える前に巨岩に突き立てられた的の中心を射抜く。魔剣仕掛けの弩の引き金を弾き、弩を通じて補充した僕の魔術を発射して、ゴールラインの白を超えたら発射するした魔術と同じものを発動前の半端な状態の魔力とまりょ配置を決まった式の通りに補充する。
それをひたすら繰り返す。聖騎士をどうせ辞めるつもりで訓練を受けていた時期にもこんなに訓練したことはない。それもそうか、もうアピールじゃなくて本気で自分を鍛えているのだから当然だ! もう10日もこの繰り返しをやっているが命中精度が最初の3日以降、まるで上達しなくて嫌になる。
「まただ。また、下がる」
撃った魔術の弓は決まって下にブレる。金属の矢はすぐに魔力に戻り自然に霧散して消える。
ひたすら繰り返して下に間延びした空間が的の中にボツボツと空けられて行く。
「はい、一旦ストップ」
「っ……? まだ休憩まで時間はあるだろ。なにか」
「うん、時間はいいわ。だけど、的の後ろ、盛り土が崩れてきたぞ」
フェルメイアに指さされ、粉で引いた線の両端より大きく自分の足の位置を動かし、後ろの粘土質の壁の様子を確認した。
「……そうか、確かに、そうだな」
「ちょっと直そうにもここまで大きいと時間がかかるから続きはお昼休みの後」
そう言って、なにか読んでいた本を置いた彼女は作業補助用のハンマー状の魔術装置を握る。
「……助かる」
「それが今日の私の仕事だからねぇ」
これほどしっかり訓練できたのはここ数日が生まれて始めてだ。今までは代換の弓やボウガンで実際に使うものとは全く異なる装備で訓練していたから、全くとは決して言わないが、あまり意味がなかったと感じて身も入っていなかったのかもしれない。
ダウンタウンでごろつきをつついていたころもずっと、クソ野郎を殺す時でさえ常に手加減をしていたから、疲れるようなことが今まであまりなかった。
「疲れ、か」
感じたことが無いわけじゃないが、それが耐え難く感じるのは本当にこの魔剣の訓練をしている時以外はなかった。
「ん? なに、私は疲れどころからくさせて」
「いや、感じているんだ。生まれて疲れを」
「流石に疲れたのか!! そうか、そうか、良かった!」
「あぁ、良かったってなんだよ。僕にも限度はある」
「いやー、人並みにそういう感覚はあるんだなって安心したのさ」
「……僕だって人間なんだぞ?」
「あぁ、言い方が悪かったかな? それは、すまないと思う。だが、魔力の影響で感覚不全を起こしている可能背もあったから、そういうのが無いと知れて……それだけでもね」
「そんなのあるのか?」
「どうだろう……可能性は、……うーん? そういうのって魔力に対して身体が弱いほど起こりやすい病気だからルイスにそういう体質の可能性は低いとは思っていたけど、……うーん」
盛り土の壁の形成を終え、マトのために土の中に着色を浸透させながら彼女は一旦作業を止め、頭を下げた。
「ごめんなさい。嘘を言ったつもりは無いけど、どう取り繕っても、魔術のために魔力を10日も生成しで無尽蔵の魔力を持っている貴方にも、そういう『人間なんだな』と思える感覚があることに安心を覚えていないというのは嘘になるわ」
「いやいや、あぁ、……うん、えぇっと? 一応言っておくけど、疲れっていうかそういうのは初日からあるぞ? だけど、そうだな。……初日よりは感じる疲れもかなり、随分マシになっていると思うけど」
「まだ成長できるのか」
苦笑された。成長。そうか、そういうものこそが僕が狩人から変わるために必要だったなにか足りない部分だったのかもしれない。
「必要だろ」
…………。何も言ってもらえない。黙って、的になる盛り土の着色を終える。
「作戦では長時間の行動が想定されているんだ。前みたいに迫ってきたのを全部駆除するだけなら、一瞬だが。それこそ俺が一瞬でバテる。空間転移で省略するとはいえ移動を繰り返してマシンの製造プラントを全部破壊するにはこの魔剣を使いこなす必要がある。これで消費する魔力の量を抑えなきゃ、丸一日魔術を使用し続けるとか話にならん」
「剣? その魔弓のことか」
「ラルスの……ラルス叔父様の剛弓だ。弓っていうか弩だけど、魔弩って言えばいいか? 別にいいだろ。分類としては魔剣の技術を使っていれば槍でも魔剣なんだから」
「それもそうか」
何かがおかしかったのか、やや自嘲気味に苦笑を引き出せた。
――ねぇ、ミリア。僕は戦士になれるかな? 聖騎士にならなくていいから、僕は狩人から、戦士になりたいんだ。昔僕に君が教えてくれたように
◆ ◆
隣の王国の軍所属の兵士と一緒に部屋に入って誰も反応してなかった。気づかず作戦や物資の確認業務で出入りを繰り返している兵士になにか言ってみんなでガヤガヤしている。
一応これでも俺は、この場で一番危険な場所で命を張るし、偉い立場なんだけどな。それで(気配消してこっそり入ったな)って思われのがどうしても嫌なので挨拶代わりに目の合ったフェルメイアに向けて軽口を叩く。
「おニューの城を拠点にするってのはいいけど、他国の人間に普通に見せているのはどうなんだ?」
「あぁえぇっと、問題ないわ。国境から近いと言ってもここはそこまで悪い位置じゃない」
「ここは戦略的な重要度は低いってこと?」
静かになった。騒がしかった声が一斉に止まった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「…………え、なんでみんなっ」
フェルメイアが僕の口に手を当ててまくしたてる言葉で発言を封じる。
「あくまでマシンという災害対策用の拠点のための城よ。こんな危険な場所に善意で提供しているのだから作りの粗さには目をつぶってもらうわ。ええ、そうでしょう? 貴方がよくわからないことでも他の誰かが一応知っているから安心して『弓』としてマシンを討伐してくれるといいわ!」
耳打ちするような浅い呼吸で僕の耳元でフェルメイアが囁く。
(ちょっと! そいうのは裏で質問しなさいよ)
「す、すまん。もう変なことは言わない。僕は僕の仕事にだけ徹するよ」
「こんなガキが今の連邦の聖騎士なのか?」
「おま……えっ!」
気まずそうにする文官、眉を潜め殺気立つ騎士官、曖昧な笑みを浮かべる神官。
立場で微妙に違う反応が見られるが教会寄りの立場で僕の実情を知っている神殿騎士たちは概ね無反応だ。
あぁ、フェルメイアとアラウントさんとか、一応僕の補佐のために用意されたメンバーが揃っているだけわかっているみたいだ。俺のためのチームで一番階級が高いのはアスヒエルか、てっきりルッツスター領所属の騎士だと思ってたが遠征にきているということは、議会か軍下の騎士団所属なのだろう。
「はい! 現在、席に座ることを許された者の中で唯一の正当なる聖騎士ですよ?」
「こんなのがか?」
「貴様、血を見たいか……?」
不甲斐ない。なぜ、初対面の騎士官がいきり立つのだよ。
「無論、こんなものでも、実力があるのは私だけですからね」
まだ、勝手にいきり立って怒りが収まらない騎士の怒りを保つ姿に吐き気がする。
「君、なんで怒っているの? それは、だめだよ?」
「え……っ! 俺ですか!?」
「僕はねぇ……。いいか? ここで説教をすることは、恥なんだよ? 謝れよ。タニス王国の外交官殿に謝れよッ!!」
「……ッ!」
だんまりか……。頭を下げるしかないな。
「申し訳ありません。タニス国の御方、メディテュラニス連邦のこの場での騎士の非礼を聖騎士としてお詫びします」
「なぜです! こいつは貴方を侮辱したのですよ!? なんでそんな、頭を下げたり」
「うーん……僕はね。貧民街から拾ってきた僕を無理やり最高戦力として扱わないといけないほど実力不足の連邦騎士達にも、そんな私をむりやり擁立した教会にもいい気分は持ってないのですよ? それを忘れでなぜ僕のためみたいな顔をして怒りを込める? 不快だ。ちょっと作戦会議が始まる前までは下がっていてくれ、仕事以外で君のようなものの顔をみたくねぇ」
「……下がって、くれるな……?」
足がたじろいで、なにか言おうと口を開くのか喉の筋が動く、
「下がれって言ってんだよ!」
「チ……ッ、聖騎士だからってそんなに偉いのかよ?」
フェルメイアが彼の膝に鞘に収めたままの槍で足を叩き、周囲の教会騎士達がフェルメイアに追随して軽く彼を素手で殴打して取り囲んでぐるぐるに縛る。
「手が出るのは……流石に、見苦しいよ」
流石に外国の方が目の前にいるのに実力行使は不味いと思ったので必死に察してもらおうとしていたのに、
「申し訳ありません。この者の振る舞いは、風紀と契約に違反しすぎています」
「いや、君は悪くない。彼を口で言って諌められなかった私の失点だ」
「……ルイス、いままでしてなかった分、そういう体を装いたいのはわかるけど、それを貴方がするべき苦労ではないわ。顔が、怒っているわよ?」
頬を触れ、引っ張られて硬くなっているのが指先の触覚でやっと気付かされる。頬の触覚はどうして仕事をさぼっているんだろう?
「一応、君たちも俺の態度には文句があるだろう。なにか、私への批判は当然のこととして拒むことはありません。受け止めるつもりですので、えぇ、タニス王国の外交官どのの批判は喜んで受け止めます。だが、なんだそこの騎士は……そいつの処分は内規で判断してくれ、お前の怒りは私を不快にさせるだけで価値の無いものと心得させろ」
「ずいぶん、へそ曲がりになったわね」
「えぇ……、初対面のときにはあの神殿の司祭に同じような振る舞いをしたような、いや、そもそもロセウスが更迭されたのだって、……記憶がありますが」
「そうだったかしら? そう言われてみると普段からへそ曲がりな対応だったような気もするけど、全員内規か契約を違反しているじゃないですか」
「そうだったね。ありがとう。俺はそういえば僕は、へそ曲がりなんだって思い出せたよ」
フェルメイアになんか、ひさしぶりに悪くない感情を動かされたことを感じて頬が緩んだような気がして、また視界に入ったうなだれた騎士をわかりやすく睨んで嫌味を言ってみると外国人からもドン引きされた目を向けられて少し笑いそうになった頬を噛み殺して抑えた。
「お見るぐしいところを申し訳ありませんでした。しかし、こんなものでも、俺が聖騎士なのは教会所属の神殿騎士が不甲斐ないからというものは私が貫くべき主張です。批判の受け付けは枢機卿と教皇猊下が受け持っていますので、言いたければ……、外交官殿も、どうぞ。一応、受け付けています」
「いや、そこまで荒波をたてようとは思わないが、そんなことが重要なことなのか?」
「うん!」
「……………………そうなんですね。…………………………」
黙られた。やはり、俺なんかが聖騎士なんていうの不甲斐ないことこの上ない。僕はこういう場所では感情を押し殺すべきだったというのに、まるで、
「すまみません。くだらない主張である自覚はあるんです……」
僕のこの一言は、誰に対して言っているんだ? だれも、頷きも反応もしない。
◆ ◆
しばらく予定と作戦概要の説明を飽き飽きするほど聞いていたら、大きな気配が移動したのがわかった。気配というか、空気の流れと魔力が多いから空間転移だと思う。
サリヤか! サリヤだな!
一番最初に会いたくなって会釈して一旦扉を出ると、気配を感じた廊下の開けたあたりには壮年と言うには少し若い、おっさんいや、お兄さんか? いや……って年齢の男がいた。
「あ、ひさしぶりだな。預言者シグフレド……? ん? 『預言者』という冠言葉、これは敬称になるから立場上使わない方がいい表現なのかな? なんて呼ぶべきだ?」




