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2年目、10月 後

 僕の人生は幸運に満ちていた。

 娼婦の子どもだったけど堕胎されずにお母さんや周囲の大人に愛されて、体が強かったから取り立ての仕事がうまくできて、強かったから協会所属の騎士に取り立てられて、憎しみで頭がおかしくなっても共に戦ってくれる人に恵まれた。

 こうして今、壇上へ登る足も幸運に導かれてたどり着いた歩幅だ。


 きっと、誰もが思いつくそういう手段が『有る』と、言えるだけで力があれば何をやっても許されるわけではない。無分別な暴力で何かを実現した時、それは力を消費して目減りさせて力を使ったというだけに過ぎない。力をもって正しさを決めるなら、定めた正しさ以上の力がなくては、どれだけ強くでも(あく)となり、(わる)さは弱さとなる。だから消耗じゃなくて消費、正義を消費するんだ。

 正しさとは力だ。力の一種だ。

 正しい力に抗うには自分を悪に染め、力を目減りさ続けせなきゃならない。そして正しければ、たくさんの力を得られる。そうなんだ。これまでの僕に最も必要な力は正しさで集められる味方だった。

 その力の名は『権力』!

 それ以外、今の僕に必要なものはない。それだけがあれば、もっと悪人から弱者を守り、育むことができる。

 俺は、幸運だった。

 生まれつき、体が強くて、酒の場でおっさんに手慰みで魔術を学ばせてもらい、神官様も権力者もなんだかんだ情の通じる人ばかりで、だから、こんなにも自分の判断一つで防げた悲しみが胸を突き刺して苦しい。


 ―――おかしいと思っただろう?

 強い騎士ほど大きな火種になるなら、何故、ダウンタウンばかり被害が出る。強き者が弱気貧民を駆除しようとしたからだ。

 カヴァデイルが特例で処刑されだ。そんな話を信じたやつがいるのか?

 予想されることは簡単なことだった。確認できた事実はその通り過ぎて、想像以上に簡単でがっかりした。

 カヴァデイルに火を放つように命令して、それを命令した奴を拘束した。たった数時間で金で雇われてそいつを脱走させようとした離反者を何十名殺すことになっただろうか?

 金は力だ。金があれば多少の悪さも覆せる。否定ようとは思わない。社会というのはそういうものだ。

 全体のために指針が必要だ。多くを活かすためには強き者が全体を管理する。そうやって人類は都市を築き、国を作り、文明を纏めてきた。

 故に、何がダメだったというと、僕ごときに覆される弱者が人の命を奪おうとした間抜けさが弱さの原因なのだ。


 今の僕には力がある。圧倒的な、

 マシンを全て討ち滅ぼすことのできる武力のことではない。そんなものよりも便利な、

 俺のためではない、私が持つ武力のために与えられた鎖、国と僕の腕を同時に縛るために大切で、僕が使ってもいいものではない。私が使わなければならないもの……、

 権力!!!


 静かである。そう思っているのにうるさくてかなわないと思うのは、皆がヒソヒソと小声で好き勝手を言えるからだ。

 議長がいないせいで開始が少々遅れ、枢機卿が議長代理を務めることとなった議場はなにか、……ひどく、うるさく感じた。

 偉いだけで偉くもないくせに、俺が、滅多に袖を通さない。たぶん、新調したこれも次はないことだってありえる。この正装を通して、ここを歩いて、いま、登壇しているんだぞ!?

 僕のすぐとなりに、枢機卿がたったことでこそこそ耳打ちしあっていた議員たちが示し合わされたように押し黙った。

 押し黙ったの見て、枢機卿は随分と通る声を張り上げる。

「両院議会議員諸君へ問う、聖騎士とはなんだ?」

 一瞬時間が止まったような静けさが流れて、周囲の息遣いが聞こえてきた頃にエリュトロ枢機卿がまた声を張る、

「本来、聖なる騎士の称号とは、我らがメデテュラニス連邦という国家を代表しえる象徴になれる高潔な精神と力を持ち合わせた誇れる勇者へ我らが連名でつけたただの称号だったはずだ。それは、聖騎士になりえる人間に我々が聖騎士として認定することで聖騎士と呼ばれるようになる。聖騎士という個人に対する国家からの『お願い』であり、『命令』や『階級』ではなかった! 文字以上のなんでもない……! 元々聖騎士たりえる個人が国家から聖騎士になったと認められたところで、聖なる振る舞いを覚えるわけではなく、聖なるものとして相応しい何かを与えているわけでもない。聖なるものへ我々が勝手に受け取るように頼んだ勲章であった……。悲しいことにそれは、ここにいる彼が生まれるより前も前に、もしかしたら我々が生まれるよりも前から形骸化していった。そしていつしか、称号ではなく『階級』としての色を強めていった聖騎士に求められる条件が一つ、定義されることで正そうとした時代もあったのだがね。……その時代が願った『象徴』たり得る条件は、『マシンを討伐できる』と認められる者であることだ!」

 その意図を知っている僅かなものと、その意味を知らないほとんどの議員にとって エリュトロ・チョートル・ジ・ヤ゙・エクサル枢機卿が向けた手の先に居る僕の意味を違った困惑と驚きの目を一瞬で向け、また、向けることになる。


「皆に、改めて紹介しよう。彼は、この国において唯一の正当なる聖騎士、クロヴィス・カンビオン! この50年で唯一、中型以上の全てのマシンの討伐に成功したものにして、1500を超えるマシンの破壊に成功した聖者である!」

 どよめき、そうだ。公開された情報と事情が微妙に違う。

 嘘の中の話では、本当は聖剣があればマシンは僕以外でもなんとか倒せるという話になって伝わっているのだから、中型以上を僕以外誰も倒せていないというのは何もかも前提が狂ってくるだろう。

 うるさいなぁ。まぁ、いいだろう。この中なら、あまり、言葉尻も気に留めることも難しいかな? 多少は、

「それでは、議会の皆様、多くの皆様にとってはじめまして」

 私が喋りだした途端。僕の声以外の声が黙る。誰も彼もが死んでしまったように息遣いも浅くして清聴というように、耳を澄ませる。

「一部の皆様にとっておひさしぶりです。クロヴィス・カンビオンと申します」

 最終的に言いたいことは決まっているけど、その前に言いたいことができてしまった。

「かつて、私は弓でした」

 なんか、ポエミーなことを言ってしまった。

「自分より弱い(マト)に一本の矢をを突き立て、(ほふ)る。狩人に徹すればいいだけの弓でした。ですが、今はこの時をもって、私は市民を守る剣となりましょう」

 ここからだ。言いたいことを言って、吠え面かかせてもう黙らないと言って黙らせるんだ。

「なれど、私は国防の盾にも国政の槍になることも無いでしょう。私は国を生ける市民のための剣なのです」


「私を槍を求めるものは、剣の切っ先を受けることになることを、ゆめゆめ忘れることの無いように」

「剣とは剣と盾を兼ねる存在であると同時に、決して槍にも盾にもならないことを忘れないでください」

「そして、剣としての初仕事のご報告を議会の皆様にお知らせします」

「正当なる聖騎士の旗の下に教会と軍所属の有志連合により、ローランド・ハイグ議員とその一派に組みした5名議員を含む一派に対し、虐殺に関わった罪容疑と、王都への放火の罪により捕縛させていただきました。彼らが残した実行犯、カヴァデイルへ行って秘密裁判での犯人隠避の証拠は、その悪事の隠蔽の証拠とその被害者と共に我々で保護させてもらいましたので、証拠を基に……」

「反逆者へ厳正な処分を下していただきたい!」

 頭を下げた。まだ、うるさい。まだ、うるさい。自分の声も、息も、黙った議員たちのもう無いヒソヒソした声も、呼吸音も、なにもかも、消えてほしい。

「……ッ現在は! 現在の経過をこれより配る書面で確認してもらいます」

 なんで、僕は泣いている。

「現在、我々は放火の実行犯への指名手配とそらの案件に関わった容疑者を拘束しています。ずいぶん、人数がいました」

 そうだ。苦しいんだ。

「これより、ハイグ議員を含む6名の解任決議を求める! 議席全数の半数の賛成で解任、反対3分の1で否決! 私はこの提議に聖騎士の称号を賭け、否決された場合、どんな処分でも甘んじて受け入れます」

 なんだ。絶望していたのか、

「君たちは、馬鹿で無ければ!」

 こんな国とは思ってなかったのか、

「この意味が、わかるかい?」

 この国に、愛着があったから、こんなに、

「これイジョウ、ワタシを、ガッカリさせないでクレヨ?」

 虐殺が容認されるような国だったときのことを考えて、怖くて、苦しくて、哀しくて、

 母さんが無駄死にされた理由がどうにもならないかもしれないかもって、思って、辛いんだ。



 ずいぶん形式的な、情報の確認作業に時間がかかった。

 それだけだった。

 全員に書面が行き渡って、枢機卿が連れてきた何人かの神殿騎士と、何故か僕の信奉者のような発言をする軍人たちが議員の質問に答え、満場一致で解任決議が通り、議会中の議員の不逮捕特権が失効された。

 それからも定例議会の一日目は続くのに、僕はかえって、帰る場所が思いつかなくて、


 ◆ ◆


「誰もいない」

 訓練所になっている教会の食堂で僕はクランベリージャムの詰まった瓶を開いて昔の僕でも硬くて食べたがらないかもしれないような不味い非常食のパンにかけてかぶりつく。

「誰も」

 訓練はもう殆ど終わっている。

 一部、座学や作法の勉強を続ける騎士もいるが、聖騎士隊とその予備隊員の選定は済んでいて、食堂も稼働していないから外から食べ物を持ち込んで食べるしかない。

 もさもさもさもさ、モサモサモサモサ、意味などない。味は味だ。不味くても、栄養が合って毒じゃないなら不快か不快じゃないか、それが全部でいい。

 食事だって本当は面倒で、楽しくないし、食べたくない。でも、お腹は空くから、できれば美味しいものを食べたいし、楽しく食事を済ませたい。だから、気に食わない奴とはあんまり食べない方が快適なんだと、僕はこの数年で学ばせてもらった。

 好きだったはずのクランベリーの甘いジャムもあんまり美味しくない。

「あら、ルイスじゃない。大変だったわね。お疲れ様」

 ナプキン代わりの紙から、パンくずをこぼして振り返ってまだ歩く彼女の姿に少し安堵した。

「フェルメイア? なんでここに」

「いや、いまは誰も使っていない食堂に向かう貴方が見えたから声をかけようかと」

「いや、そうじゃなくて、なんでこの……訓練してたのか?」

「えぇ、そうよ」

「忙しいだろうに……別に、わざわざ声をかけるってそんなことしなくても」

「そう言わずに、見かけさせたんだから挨拶くらいさせなさいよ」

「そうだな……」

 それも必要だろう。彼女にはたくさんの仕事を押し付けて、面倒を任せてしまって僕は議会に顔を出していたのだからな。

「それに大仕事の後始末がまだ残っているんだから、訓練できる時間は少しでも貴重だから」

「あぁ、そう、だった。あの……あぁ、なんていうか、その、すま……ありがとう」

「どういたしまして、だけど、なんのこと?」

「騎士と軍人を集めて、まとめて、そういうのから指示出しまでの全部。やらせてしまったから、ごめん、僕にはできないことばかりだったから」

「いいのよ? 私達は私達の正義に従っただけなの。だから、感謝するのは私達有志連隊の方、代表して感謝の言葉を述べさせてもらうわ」

 一歩引くように足を折り曲げて片膝をつく。

「ありがとう」

「そんな! 僕じゃ……、人を動かして、命令して、調べることなんてなにもできなかったのに、立ってくれっ!」

「そうかしら? 貴方の命令がなければ、私達は誰も誰かに命令なんてこともお願いも何もできなかったんじゃいないかしら?」

 立ち上がった彼女の自信満々な笑顔に、そんな表情を僕にはもうできそうになくて、怖くてしょうがなくなる。

「それは、僕に権力があったから?」

「うーん、少しだけかな。ちょっと違うわ。権力は力でも、武力に基づいた権力だけでは力が足りなかった。権力の力にするための正しさという力が必要だったわ。その正しさが貴方のためになったのでしょう?」

「あぁ、そうだろうけど、どうだろうか、僕には確信できない」

「貴方の命令一つがなければ私達は有志に協力をお願いして回れなかったわ」

「お願い、そうか。お願いねぇ……、『お願い』なんてのは今回の騒動で僕がした唯一のことみいたいなものだよ……。僕は、……もしも、議会でもしも、どうしようも無いと思ったら、殺すことしかできなかったと思う。そういう邪心を抱いていたんだ。暴力を考えていた僕には、もし、僕が権力に思い至ってもあの議員たちを裁判にかけようとは思えなかったと思う」

「そうかもしれないけど、それでも、貴方の正しさを私達は支持したわ。だから動けた。もし、最悪が起きたら、そうね。一案としてクーデターも計画しないとならないかと思っていたけど、そうならなくてよかったわ」

 雑に出たそのセンシティブな単語に僕は、一瞬、焦りと反射的な怒りで言葉を失いかけて、また思い出して確認する。

「ミリアはっ、は!? お前、そんなことまで考えた……、考えていたのか!? 真面目な案として」

「虐殺行為なんてされちゃあね」

 あぁ、そうか。逆だ。フェルメイアがクーデターを軽々しく口に出したんじゃない。僕が、虐殺を軽く考えていたからクーデターほどのことを全く……、予想していなかったんだ!

「でも、クーデターなんてしたら、それはそれで結局何人も…………死ぬだろう? また」

「わかっていたわ。その覚悟もあった。でも、そんな事はできればしたくなかったから、議会に貴方の弓と剣の例え話だけで、脅しが効いてよかったわ。ほら、根回しする時間もなかったじゃない」

「脅しもなにも……国の他全部集めた武力より僕一人が暴れた方が強かったらそうなるしかないだろ」

「それを理解できない者珍しくないわ」

 ……どういう比喩表現だ?

「そうなのか?」

「マシンと戦った者の多くは死ぬのよ? それは常識なのだけど、マシンの被害を見る前に貴方はその常識を文字通りに想像できた?」

「あんなもので……、…………。すまん……なにも」

「いいのよ。貴方は、特別だから」

 特別だと! それは免罪符じゃないぞ。

「貴方は強いから」

「……でも、僕は」

「だから、正しく居て、正しく在り続けて」

「え?」

「正しいなら、私達はいくらでも貴方の味方でいられるし、もしものことがあっても、正しいと思える貴方のためなら私はルイスの味方で居続けるいるわ」

「どういう意味だ」

「誓おう」

 僕の手を取って彼女は騎士流の挨拶のように、ちょっとだけ違う。跪いて掴んだ僕の手に口づけをする。

「貴方に自身が無いなら、誰よりも正しい貴方のために私が貴方の正しさを証明し続けよう」

「ミリア…………――――」

 その言葉の意味を、意図を、僕にはまるで理解できない。彼女の内心も、真意も、僕が正しくなくなってしまった時、彼女はどうするのかも、質問できそうになかった。


 ◆ ◆


 少しして、指名手配したカヴァデイルが遠方の船に乗ったと聞いた。


 ◆ ◆ ◆



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