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2年目、7月 中編

 ラルスとの暴力沙汰で形式的なだけの懲罰として半日の室内謹慎を司令官から受け、部屋を出た先でまっずラルスがわざわざ「先触れの時間だからもう謹慎は終わりだぞ」ともう根に持っていないアピールのためだけに堂々と行動を共にする。

「気を強く持てよ? 伯父さん」

「ギルベルトの怪我はどういう……」

「箝口令が敷かれている。少なくとも箝口令がバレる程度の情報封鎖ってことを考えると、無事ではないんだろうとしかわからないな。それ以上はなにも知らない」

「…………」

 馬車に乗って案内されたはずなのに、そこまでどうやって……歩いてきたのか? いや、城内は歩くだろ? いや、少し前のことがまるで思い出せない。


 ひどい火傷、傷を塞ぐばかりの再生の魔術で、治癒で時間をかけて肌を癒やしているがまるで治っちゃいない。

 爛れた肌が焼けて黒く、赤い汗のようなものが滴った腕を……これは、

「この怪我じゃ、しばらくは剣も振るえないだろう。だから、もう同僚にはなれなさそうだな」

 ベッドでもたれて数名の医者と従者に囲まれていた人のまとまりが割れて、僕と体面させてくれる。

 立てない。膝が、勝手に折れる。感情が身体を奪って意識で四肢を制御できない。

「そんな、ごめん……なさい……僕が」

「落ち着け! ルイス!」

「え?」

 気がつくと、手が首元をかきむしって、ベッドから身を乗り出したギルベルトに腕を掴まれて周囲の人が息を飲んで、驚くか、警戒しているか……。

「いま、なにをしていた?」

「?」

「お前は今自分で自分の肩を魔力で焼こうとしたいただろう!?」

 そうだ。

 ギルベルトの肩が焼けているのを見て、その原因が俺がギルベルトに当ててしまった金属棒の熱が原因だとわかって……

「落ち着け。深呼吸、まずはゆっくり息を吐いて、吸ってもっとゆっくり……吐いて、ゆっくり、吸って……吐いて……落ち着いたか?」

「いや、えっと、うん、あぁ、すまない。僕が敵の術中に嵌ったせいで」

「あれは近くにいた俺が悪いんだ。逃げればよかったはずなのに」

「それは……、お前の父ちゃんが人質にされていたから!」

「……それは、少し違うが、そうだな。あの状況で俺は人質になってしまうことだってあった。俺の判断ミスだ。この腕も」

 傷ができたってんなら、治せばいいだろう? もう! 仕事のできに不満で医者のおっさんい顔を寄せて抑えきれず叫び声をあげてしまう。

「そうだ、すぐに再生しろよ! こんな火傷(やけど)!」

「いえ……それは」

「意味のない恥をさらすなルイス!」

 なんで、その傷を放置されてるルイスが医者を庇うんだ!

「できないこともないだろ!? そんな傷は!」

「落ち着けって言っているだろッ!」

 怒っているルイスを初めて見たかもしれない。目を、合わせられない。でも、合わせないとならないのだから、怒られるために目を合わせて頭を下げる。

「……すまない」

「いいんだ。……お前は、どうやら良く分かっていないみたいだが、治癒の魔術ってのは体力を使うんだ。治癒を受けた側が弱っていたら、簡単に命を奪える。繊細な魔術なんだよ」

「それがなんだ?」

「医師の先生が困ったのは、欠損した腕や焼けた肌を治すのは簡単でも無事に治すのは簡単じゃないってことだからだ。わかるか?」

「わからない……そんなこと、俺は脚を治してすぐに」「それはお前だからだって!」

 張り詰めた声が、視線で僕の目を貫く、テーブルマナーの覚えが悪かった時にも笑って済ませてくれたギルベルトが、本当に呆れたようにため息を吐かれる。

「お前だけだ。自力で再生して魔力を保って疲れない身体なのは、傷で機能を失った身体がせ、一度に正常になったら、臓器から血管からめちゃくちゃに疲れる。それこそ、全力でずぅっと走った後みたいにな」

 僕はずっと走っても疲れたりしないぞ!

「そもそも、ギルベルトが傷を負ったのも」

「何?」

 淡緑色の騎士(ペイルライダー)と会話せずに【問答無用で殺していたら】……!

「俺が……僕の……僕がためらったから腕を……」

「名誉の負傷ってやつだ。仕方がない」

 仕方がいない!? なにを、僕の無様をそんな言葉で許すんじゃない! それが優しさじゃないぞ!? 侮辱だ、僕に、始めから期待していなかったみたいだろうが……!

「違う! なんで僕なんかを庇った。ソレにそんな話じゃない!」

「いや、だって、仲間だろ? だが、確かにこの脚じゃもう俺は、聖騎士候補はおりなきゃいけなさそうだが」

「僕が判断を間違えなければ、あんな奴は殺すチャンスはいくらでもあった! 僕が馬鹿な真似をしなければそんな傷は追う必要のない負傷だったはずなんだ! わかるか!? 自分の不甲斐なさで……頭が痛くなる。お前は、僕に言うべきことがあるだろう? 怒っていいだろう!? なんで、そんな優しくしてくれるんだよ!!」

 ぐちゃぐちゃに歪んで、涙と鼻水があふれる顔面を両手で抑えてこんなものでギルベルトの傷口が汚されないように後ろに歩いて引いて、医療従事者と軽くぶつかって体液を垂れ流しながら目があい会釈した。

 ため息を吐いたギルベルトにびっくりして、腰が抜けそうになるが僕は立っている。

「そうだ。だから、特別なんだ。お前は」

「え? なにがだ」

「お前にはたった一度の判断で、他人の運命を左右できる。左右せざるをえないだけの強大な力を生まれつき持っている。だから、その判断を誤らないように心構えが必要なんだ」

「知らないよそんなのは! いままでダウンタウンで生活してて何も無かっただろうが! いまさらそんな期待を押し付けてくるな!! やめてくれよぉ!」

「でも、気づいてしまったんだ。みんな、それがどれだけ強大か、知ってしまったから、もう戻れない。期待する余地もなかった過去には進めないんだ」

「でも、僕が…………しっかりしていたら、ギルベルトの腕は」

「どっちみちだ。今ここでダメになようならいつかどこかの戦場で負傷して限界がきていて運が悪ければ死んでいたんだろう。そんなことよりも」

「『そんなこと』!? 『そんなことよりも』重要なことなんてないだろ!!」

「ある」

「ない!」

 また呆れられた目を向けられて、立てなくなる。

「あるんだよ」

「知らないんだよ……!」

 呆れから少し、微笑むんだ? なぜだ、諦めたとでも言いたいのか!?

「どうこうしろとまでは俺は言わない。だけど、自覚してくれ、良く考えてほしい。お前の、その、強すぎる力が人と違うってことと、他の市民がお前ほど強くなくて、お前はその市民を守るために呼ばれたんだ」

「ダウンタウンの娼婦の子に市民権なんてないよ」

「市民とは市民権を持つものだけの話じゃないっ!!」

 なに言ってんだ?

「市民とは、その大地で営みをこなす人の全てだ。それが有害でも、有益でも、無害でも、無益でも、騎士がその地を守る義務がある。そして、その地を守るとはその血を流してでも、武器を持たない市民を護ることだ!」

「……そんなの……しらない……知るつもりもない……僕が知る意味がない」

「大切なことだ」

 なんで、微笑むんだ。僕なんかに!!

「うぅ…………」

「俺がペイルライダーの交渉に応じたのは父さんが人質にされていたからじゃない」

「……」

「俺と父さんが死んだら、バルカン王国からの攻撃でルッツ領を攻め落とすと言われたからだ。もし、そうなったら、市民が死ぬ。最悪、連邦の助けも望めないと判断した。だから、最悪の時を想定して交渉の席についた。無論、お前がいたから、いや、お前がいなくても時間稼げさえすれば淡緑色の騎士(ペイルライダー)は敗北していたことを考えると、時間稼ぎをしたことは無駄じゃなかったが、判断は間違いに満ちていた」

「そんなの、結果論だろ」

「あぁ、その結果こそが力をもつ者にとって大切なものなんだ」

 腰を上げ、立ち上がってベチャベチャになった手に平を気を使ってくれた小間使いが手ぬぐいを添えてくれてつかわせてもらった。

「落ち着いた時からでもいいんだ。自覚するだけじゃなくて、よく……考えてくれ」

 折りたたみ方を替えて、顔も拭って、やっと澄んでた視界に小間使いの気の利く方がそれもトレイに下げてくれて、まだ、向き合うだけで辛い焼き爛れた肌をさらしているギルベルトと視線を合わせて、やっぱりそらしてしまう。

「力はそこにあるだけで、責任が伴うんだ。そして、守るだけじゃ何も守れない時がある。お前は、人を壊さないと行けない時の……決断をするべきだ。それは決して、殺せということじゃない。そういうことをしたくないなら、するな」

「うん……後で、考えておく」


 ◆


 「ルイス、大丈夫か? お前、……酷い顔をしているぞ」

 普段自分がするような仕事じゃないから、無理やりフェルメイアに同行して見回りに行かせてもらった街は、活気がもう戻っていた。

「そうか、……うん、ごめん、ミリア……」

 怒声や、罵声も漫然と聞こえて、遠くで僕らとは違う様式の別の制服を着た兵士が取っ組み合いを制したようなのも見えるし、ソレ以上に俯いているような暗い顔で正面を向いている人も見えるし、大工の手伝いで大工じゃない仕事を大工としてる荷物運び屋、大工の真似事で、扉の(かすがい)を取り付けるだけの作業で悪戦苦闘する青年や、何もかも、僕よりも忙しそうだ。

「どこにいくんだ?」

「どこに居ればいいんだろ? 城内は戦闘の後始末で混乱しているし、司令部は割と無事だけどみんな忙しそうだし」

 フェルメイアについていかせてもらって歩いているだけだから、何か目的地があるわけじゃなかったのに、勘違いさせてしまっていたようだ。

「……少し、歩こうか」

 また、気を使わせてもらったかな。

「みんな忙しそうだ。だけど、みんな、俯いていない」

 本当は無理そうな人もみんな同じだ。ダウンタウンで必死に生きていた時の自分と、なのに今の自分はどうだろうか?

「あぁ、戦闘があったんだ。人死(ひとじに)も出た。だからこそ、忙しくてそれどころじゃないし。生活があるからみんな何か」

「僕は……何ができたか?」

 言わなければいい余計なことを自分で言って、心が挫けそうになる。

「僕は騎士としてなにかできたか……!?」

「命を張って戦って結果的に勝った。それだけじゃ不満か?」

「……邪魔をしただけじゃないのか? 僕ができたことなんて、ギルベルトの時間稼ぎを邪魔しただけなんじゃないか?」

「そんなことないって……ちょっと、そこの屋台で昼食でももらおうか行こうか」

 半分買い食いみたいな店先に置かれたベンチとゴミ捨て場だけ横位された焼串の店を見て、フェルメイアには屋台に見えたってことは、横の建物が家に見えないんだろうか?

 流石に、彼女の出自を考えれば町民の家がどの程度なのかなど想像できないのは仕方がないんだろう。

「……以外だな。ミリアもこういう食事を取っても大丈夫なんだな」

「なんで?」

「前に見た生臭騎士は屋台料理ってだけで不快そうだった」

「そう、でも騎士は普通ある程度高貴な身分でも実家かなにかで野営訓練とかなんかして、泥水すすっても生きていけるようになってから志願するもんじゃないか?」

「そうなのか?」

「いや、……私の実家が太いから、昔から騎士をしているし生まれた時から鍛えられているところはあるし、実際他の家はどうなんだろうな」

 実家が太くて立場があると、出願する前に鍛え抜くものなのだな。

「なぁ、ミリア‥…」

「なに?」

「僕は人を殺せない。傷つけて追い払ってどこで野垂れ死んでもどうでもいいと思うような乾いた感覚がないわけじゃないんだ。だけど、自分でトドメをさすのが…………作戦で人が死ぬ姿を見て…………」

 城に入る前に頭を潰してしまった。あの死体は、本当に死んでいたのだろうか?

「そうなの? でも、貴方は超大巨大浮遊型マシン討伐を評価されて強制的に聖騎士にさせられている、お願いされている立場なのだから最初の頃みたいにわがままを言って断っても許されるでしょうに」

「アレはっ……!」

「嫌がらせや無理難題を振ったり、手順は踏み倒させてもらったが、約束に反したり卑怯な真似をした相手しか処罰として罰してないし、罰せられる権限は貰ってない! それに、実際に罰を受けたのは教会と組合関連の議員が決めたから、思った以上の罰とか与えられたのは僕は知らないところだよ!」

「そうなの?」

「そりゃ、商工組合からはお金を貰っていろいろしたし、教会は勝手に身内同士で争っているところに僕が法皇猊下と枢機卿と関係が深かったとかでなんか変なパワーバランスが生まれたので……なんか変な状況になったのを利用したけど」

 焼串を美味しそうに頬張るフェルメイアに、自分より美味しそうにする彼女の純粋さに僕の方が味にうるさいような気がして、なにもかも自分の鬱陶しさを嫌悪させる。

「前の教会を任されていた司祭長とロセウスは僕を追い出そうとして、教会の立場を悪くしたから懲戒処分になっただけだよ」

「マシン討伐の成果って実際は、あの時の針を連射したのよね?」

「あぁ、あの時は兵士と聖騎士たちが不甲斐ないだけだと思っていた」

 ――グ、ゲホ! 咳き込んだフェルメイアにどうしたものかと驚いて、あわてて何もできずに手が空を斬っていると、飲み込んだフェメイアが笑う。

「ハハッ、ははははは! 君が言うと事実になるのは言うことが違うねぇ!」

「笑い事じゃないぞ! 僕は、あの状況で何もできなかったんだ!」

 店の奥から焼き串の屋台料理を振る舞ってくれた女将さんが僕らの前まで来て、暗い顔をする。

「……君は……兵士か」

「えぇ、すみません、うるさくしてしまって、すぐに出ていきます」

「……ほら」

 頭を下げて出ていこうとすると女将さんは僕になんか包まれた棒を差し出す。

「これは?」

「サービスだよ。話はあんまり聞こえてたわけじゃないけど、お高く止まった首都からくる騎士の中でもずいぶん葛藤しているんだなって」

 表情だけでも、心配させてしまったのか、彼女から焼いたチキンの刺さった焼串が包み紙からでてくる。

「アタシだってあの霧の魔術で意識を失わされて、操られていたってきく。霧で死んだ人もいた。それを後悔する帰したちも多かった。だけど、騎士たちが私たちを必死で抑え込んでくれなければ、アタシたちの手で家族を殺してしまったかもしれないんだ」

「…………それで、貴女の家族は」

「無事だったよ。聖騎士クロヴィス様が領主を人質にしていた敵国の魔術師を締め上げたからすぐに治まったって!」

「……ッ! そう、か…………っ」

「えぇ、そんな人のお陰で人の死や破壊があっても、夜が明けて半日でもう作業に入れるもんで、ウチの店だって取ったてが壊れた程度の被害で、運が良かったんだ」

「えっと……ルイスは」

 何も言わなくていい。フェルメイア、

「騎士のあんただって運が悪かったからどうしようもないところにいたんだろう? 私は運が良かったから、この焼串は程度で済んだんだ。だから、私は兵士たちのみなさんが頑張ってくれたから運が良かった分」

「あぁ、そうだ。そうなんです」

「アタシも運が良くなければどうしようもなかった。アンタ達兵士はいつも運が悪い位置に突っ込むんだろう? …………その、なんていうかさ」

「いえ、いいんです!」

 勢いよく口いっぱいに串にささった食材を頬張って、無理して咀嚼して飲み込む。

「ぐ、ぐふ……ぅぅ、……あ……がっ……!」

「そんながっつかなくても、串が刺さるぞ!」

「あぁ、はい。うん……ありがとうごさいました。お代は払います」

「いや、サービスだから、おい」

 数枚の本来の値段より銅貨を押し付けて僕はフラフラと店を出る。この時の焼串の悔しさの味は二度と忘れられないだろう。


 ――バキ!!

 ぐああうおおおおぃ痛いぃぃ!

 兵舎にもどって渡された部屋に入る前に我慢できす廊下で壊れなさそうな壁を殴って想像していない勝ったような音でなんか割れた音がして血が出る。壊れないと分かったのでついでに2発、合わせて3連打!

「うああああああああっ、ぐっがああああああああ!」

「ルイス!? いきなり」

「僕は……僕は……どうすれば……なにをすれば!!」

 上級士官はいるような場所だが、周囲の兵士の目が少なくて運が良かったと思って、殴る時に錬気しなかっただけまぁ、いいかと治癒の魔術を自分にかけて、まるで感じない疲労感を全身の感覚の中に探す。

「貴方が剣を取るのは仕事なんでしょう? お金のために戦っているんだから、仕事と割り切ってできることだけすればいいだろう!?」

「そういう話じゃないだろう? 僕には……できることがあって、サボるわけにはいかない。サボったらどうなるか知ってしまった今、できないわけじゃないんだから、できることを全部やっていたら、なにもかも、戦わなくちゃ……!」

「だったら、貴方は【なんのために戦っている】のよ!?」

「そんなの自分の……ため……だった、ような気がしたけど、……違う、どうだっけ、僕は」

 金を稼いで、市民権と、家を買って、貯金であとは母さんに楽をさせるために、それは僕のせいで苦労させたからで、でも母さんはヴァルトと……僕より、そうだ。母さんともヴァルトとも、話すのを逃げたのは僕じゃないか! ……僕は

「ちょっと! なにをやっているの?」

「四発目の痛みだ。この拳の砕けた自分への戒めにして、忘れないように心がける」

「そう言いながら、治すのね、魔術で」

「何事です? なんで、こんなバンバン砕けた音がするの」

「アンタは……たしか?」

「しっかりと挨拶するのはこれが初めてになるわね? 私はバドリ! バドリ・ケドシム・ハッダード、聖女エリンに仕える三姉妹の一人! ……って今は亡命したからそういうのじゃないっけ? えっと、聖女と一緒に亡命した4きょうだいの一人?」

「3姉妹なの? 4兄妹なの?」

「姉さんとの間の私より一つ上に長男のカリムがいるけど、地元では三姉妹として扱われることが多くってね」

「そう、……」

「聖騎士クロヴィス様には私の妹が仕事で世話になったことがあるそうね」

「……誰だ?」

「サリヤのことよ? 知らない?」

「サリヤか、彼女姉なんだ。貴女、そうですね……。彼女の空間移動魔術は……すごい……ん、だよね? あれは、誰にでもできることじゃないんだよね……?」

「どうしたの? そんな当たり前のことに震えて」

「あぁ、今日だけで、自分の価値観があっているのかどうなのかわからなくなってきてもう、何を信じればいいのかわからなくなっていくんだ」

「なにかあったの?」

「うん、いろいろ」

「私達も亡命であんまり自由に階段も使えない状況ではあるけど、戦闘あの後で混乱していてどこもかしこもそんなもんなのかしら?」

「亡命したんだっけ、良くわからないけど……サリヤも亡命したの?」

「前もってね。何事も無ければ今日の午後の内にここにくる予定だけど」

「あぁ、そういう手順なんだ。……ん?」

 サリヤって少なくとも移動するだけならかなり高精度の空間移動魔術を仕えるんだよな?

「空間転移を使えば亡命とか一瞬じゃないのか?」

 サリヤの姉ににがそうな顔で笑われて、頬を書かれる。

「彼にはどこまで話していいのかしら?」

 フェルメイアは腕を組んで自信満々に答える。

「全部話してもいいぞ」

「えぇ、そうなのね? っとその、聖女と貴方のお仲間の方には使ったけど、私達はカリム、あぁ、私の兄ね? 私の兄に埋め込まれた魔術装置を手術をして切り取らないと自由に動けない状況だったから、協力者が現れるまで、逃げ出すことができなかった状況ね」

「自爆でも?」

「自爆装置……!」

「いや、違うけど、いえ、確かに埋め込まれていた物はそういう使い方もできたでしょうね」

「バルカン王国と手術道具の輸出とかって話があったのはまさか!」

「えぇ、そうなのね? おそらく手術するための口実という考えはあっているでしょうね」

「その、術後は……、無事なのかしら」

「あそこにいるわ。前も会わなかったかしら?」

「あ、どうも」

 廊下で窓の先を見ていた彼がフェルメイアが敬礼で送ったので、僕も敬礼で送る。

「あぁ、失礼しましたカリム・アーザム・ハッダードと申します。いまはどこの何者でもない亡命者といいますか……」

 言いながら彼も瞬間的な速さで敬礼を返す。

 後頭部の髪を剃られて包帯を撒いているが、まさか、埋め込まれた位置って……いや、流石にそんなことは無いと思いたい。術後の昏倒中に怪我でもしたんだろう。

「その怪我、大丈夫なのか?」

「えぇ、無事に済んでいます」

「そうか……そうだ。その」

 僕は、向かい合わないとならないんだ。この拳の痛みが薄れる前に、

「あぁ、そうだ。ヴァルト・リック聖騎士がどこにいるか知っているか?」

「知りませんが、え、これはどういう質問で?」

 彼はどうも事情を知っているようだったが、フェルメイアが代わりに答えてくれた。

「ヴァルト様は彼らの協力者から盗難に遭っていた魔剣を受け取って護送任務についたはずよ」

「そうか、どこへ」

「正確な情報は開示されてないけど、リック領主の関係か、連邦首都のどこかじゃないかしら?」

「……今から追いかければ、間に合うかな」

「当然のことだけど軍事的に重要な魔剣の護送とか、護衛の道順は極秘事項よ?」

「そうなんだ……」

「えっと、その、首都に帰ったら話すといいわ」

「…………うん」

 ほっとしている自分に、激甚の煩わしさを覚えて息が震えていたのがバレなかったか、凄く心配になったけど、フェルメイアは何も言ってくれないから、きっと大丈夫だったんだろう。


 ◆

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