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2年目、7月 前編

 人払いがされた地下室でわざわざ堂々と見張りまでつけて密会など、かえってひけらかすような行為だと思ったが、これは兄さんなりにひけらかしていると思うと、表立って言うつもりもないが、もう隠すことじゃないってことか

「おひさしぶりですヴァルト兄さん」

「その……元気そうでよかった。お前も」

「えぇ、お父様にはたまに手紙を送れていますが、暗号にすると大した内容は送れないし、その父さんは……兄さんも、元気でしたか?」

「父様は兄様達の継承問題も解決して領地の守護からは半分隠居してお前が残した事業に精を出しているよ。俺の方は……ここ最近ではずいぶん、良くなったところだ」

「その……彼は、兄さんのお子さんというか、誰との……?」

「お前がリック家に来る前、俺はある女性と駆け落ちをしようとしたんだ」

「そう、なんですか、人に歴史ありってものですかね?」

「いろいろあったんだ。……お前はまだ生まれてないかな。いや、それで、いろいろあって合流できなくて、いや、エリュトロ、ウチの教会の枢機卿をしているアイツが……知っていたんだが、時間が経ってから娼婦をしているフルプランカを見つけてくれていたんだが拒まれて」

「え!?」

「本当なら、強引にでも、持てるものを捨てて責任をとるべきだったんだ。ただ、責任から逃げようとした結果、彼女と彼に、苦労をかけてしまった。だから……彼女と和解できたけど、あの子にどうしたらいいか分からないんだ……」

「それって、…………俺が何か言ったらまずいやつです?」

「そんなことはない。これに関しては全面的に俺が悪いことばかりしたから、この件に関しては知ってしまえばお前も俺をなじるだけのことを言えるようなことをしてしまったんだ。最初から、死んでしまえば良かったんだ」

「死、それは!」

「あ、いや、そういう意味じゃない。名前を捨てないといけない事情がある貴族では書類上は死んだことにして隠居するなんてよくあることんなんだ。例えば、継承権が高いけど年もとって継ごうとすると争いになるから隠れるとかで」

「そう、いうものなんですか?」

「だから、貴族が死んだ時に隠れるって言い方をするだろう? つまり、本当に死んだかどうかなんて当人たちしかしらない話だって暗に濁しているんだよ」

 地下室のかび臭さよりも辛気臭い顔で、話をそらそうとしているような気がしてきた。

「あの、兄さん!」

「なんだ。ラルス」

「迷ってるなら、話した方がいいと思う。不幸が起きて、後になってから後悔するよりも特に命をはる仕事をしているうちは、なおさら」

「…………」

「俺は、後悔してるんだ! アルビオン父さんの下でちょっと、いや、かなりセンシティブな状況だった。俺に良くしてくれたヴァルト兄さんには、特に後悔はしてほしくないから……なんて言えばいいのか……その」

「いや、気持ちは伝わった。そうだな……話すべきなんだろうけど……今は、少しだけ待ってくれ」

「後回しにしたら」

「違う、アイツはいま、辛い状況だろうから……俺から何を言えばいいのか」

「……? なおさら声をかけるべきじゃないのか?」

「だといいんだが」

 なんでそんな辛気臭さで心配できるのに声をかけられないのか、無理にでもケツを叩いて押し出すのも家族としての愛の形を返すことなんじゃないのか?

 でも、様子くらいは自分の目でも見とくべきか、


 ◆


 再生術の処置が終わって、他の緑の魔術の処置をしようとしてくるけど、くすぐったくて反射的に逃げてしまって、部屋をでようとしてしまった。

「すみません」

「歩けるようならもう処置は必要なさそうですな。流石は、唯一の正当なる聖騎士クロヴィス様です」

「あー、前に嫌味でいったその発言で呼ばれるのはちょっと、身から出た(さび)とは言え、むず痒いです」

「それは、失礼しました」

「いえいえ、自分で言ったことですから、とはいえ、裏でそう呼ばれているの? 僕は」

「いえいえ、表立って教会の広報誌に法皇陛下の発言として書かれてます」

「そう、なんですか、それはまぁ、現状はそうなんですけど、持ち上げられ過ぎでは……」

 おじいちゃんの緑と水の魔術の医者とそんな話をして、守衛のにーちゃんに頭を下げて、軽く会釈して医務室を出て他の病棟を確認しようと出ると、恩人が遠くから声をかけてきてくれた。

「あ、やあ! 聖騎士様、少しお話が」

「どうも……! 聖騎士様なんて、貴方に助けられた立場なのにそんな呼ばれ方はしたくないですよ」

 いたたまれなくなって頭を下げそうになるが手で上げるように肩に手を添えられて、頭を下げれなかった。

「その、えーっとじゃあ確か、ヴァルト兄さんのお子さんなん……ですよね。えっと、クロヴィスって呼んでいいんでしょうか?」

「……そうなんだよ、ね。僕は、ヴァルトの子供なんだよな……。えっと、僕のことはクロヴィスじゃなくて、ルイスって呼んでください。クロヴィスは形式的な名前なので」

「そうか、わかったルイスさんと呼べば……俺はラルス・クローズって言います。少し前までルッツ家で――」

「ルイス! そうか、君がミリアの手紙にあって在野の天才って呼ばれていた人か」

「あんたは諜報員の?」

 その場にいた騎士が、確か、諜報員の……。フェルメイア・ディープシーの親戚でアンビー・リンドレイクとか名乗ってたよね?

「いま、どこにいた?」

「捕囚を拘束して衛生兵に引き渡してた」

 諜報員として仕事のあとか、何人もの兵士を魔術でぐるぐるまきに拘束していく作業をしていたのは見ていたけど、ずいぶん気さくに話しかけてくれる。

 ラルスに諌めるように睨まれてるけど、俺としては彼女の態度の方が楽だ。

「そうなんですか、お疲れ様です」

「うん、あ、ごめん、話の邪魔をしてしまって、本家のあの子がすごいと話す人がどんな人か気になってしまって……」

「いいんですよ。どうせ、元々気を使われる立場じゃありませんし」

「ところで、ヴァルト兄さんの子供ってことは、血の繋がりはないけど俺は伯父さんってことか! 年齢は……――あれ? 俺のほうが少し年下じゃね?」

 確認したらわずかにラルスさんより僕のほうが年上だった。

 ざわがしく怒声が飛び交う医療の鉄火場の壁のそばで背中をもたれて、気をかけてくれたフェルメイアが運んできてくれたオレンジジュースが入った水筒から水分をとって、様子をみて軽く引きつった笑いというか、苦笑されてしまう。

「腕、というかもう歩けるのか? 戦闘で脚がもげてなかった?」

「切断されても再生したらそりゃ、腕も脚も動くでしょう? というか、血の繋がり? 伯父って言うのにラルスさんとヴァルトは兄弟じゃないの?」

「脚も、……いや、もう歩けるのね? 流石、聖騎士様と言うべきことなのかしら」

 緑の魔術で治療してすぐ動けるのは、気さくなアンビーでも敬ってしまう言い方をしたくなるほど、変なことらしい。

「あぁ、俺は養子というか、家族が……ね。みんな殺されて、短い時間だが面倒を見てもらってたんだ。だから、そういう関係ではあるけど俺は客人だったんだよ」

「ごめんなさい。リック家の事情にはあんまり、踏み入れるつもりはないんです。……その、恥ずかしながら、実の父親のこと恨んでいた気持ちがあったはずなのに枢機卿と誤解で揉めて、毒気が抜けてから、どうすればいいのか」

「毒気が抜けた?」

「……俺の知らないうちに母と和解が済んでたみたいで、どうしたらいいのか、いや、気がつくと母とも向き合えなくなっていってくんです。俺が怒るような資格はないんです。母に愛された自覚も、面倒をかけた自覚もあるので、あまり口を挟みたくないんです」

「……? 文句を言えはいいんじゃないのか?」

 首を横に振ってしまう。どういう表情をしてしまったのか、苦々しい顔で返事されてしまう。

「それよりも、脚を切断されてまるごと再生処置にしたのよ? なんで、そんなケロッとしてるの!」

「……、あぁ……そうか、一応、確認だけど」

 アンビーはなんでそんなこと気にし続けるんだよ!

「じゃあ、普通は脚を丸ごと再生しても無事じゃすまないの?」

「あぁ、結構きついリハビリが必要だ。人によっては二度と立てない」

「立てない?」

 悪影響がでるとかかな? ちょっと、走れない感じの、

「いくら訓練してもどうにもならない時もある……。ルイスみたいに直した瞬間動けるような人がいるのと同じで、人によって二度と動かない時があるとしか」

 ……? よくわからない。そんなわけがないだろう。傷が治っているんだぞ? なにを言っているんだ?

「じゃあ、ギルベルトは腕が切断されけど、どうなるんだ?」

「刺し傷とか、軽い骨折とかなら俺は仕事柄未熟な時は多かったからわかるが……、関節ごと治療するようなことは、一度もないから想像でしかないが、そんな治療をしたらしばらくはリハビリが必要じゃないですかね」

 ……え、ギルベルト……俺のせいで、腕をしかも

「あっ! ルイスさん!? どこに」

 え、いま僕はどこに、そうだ。

「ギルベルトはどこで治療を受けている!?」

「え?」

「ギルベルトはいまどこでどうしているって聞いたんだ!」

「領主館だ。地元だぞ!? そこじゃなかったとしても、少なくとも軍庁舎や病院の方じゃない」

「いかなきゃ」

「ちょっと、いきなり行ったら迷惑になりますよ」

 走り出そうとする僕を抑えて、ラルスが抑えるから

 意図せず殴ってしまう。 

「ちょっ!?」

 殴った威力が自分でも想像以上の威力だったのか、その衝撃と音で鉄火場が静まり返って、一斉にこっちに振り返る。

「いってぇなてめ、下手に出てれば」

「ごめんなさい」

 体感は崩れず、頬を痛そうさすっているラルスが怒りに満ちた感情で態度で崩したので、謝るしかない。

「まずは、面会の許可がいるって話だ。その脚で行って会うんじゃない。せめて、先触れは出せ、保安上の都合で止められるぞ。馬鹿なのか? アイツらは簡単に通してたら人質とられまくるんだぞ? 特に、緩衝地帯のルッツ領じゃな」

「……すみません」

「まぁ、いいです。貴方、魔術はともかく殴り合いと切り合いではそんな強くないですよね?」

「え!? なにを言い出しているのラルス、というか首は大丈夫なの?」

「魔術と比較した話だ。アンビー・リンドレイク、それと当然だが、首も痛いよ。今も気合で立っている」


 ◆

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