ギルベルト・ルッツスターの最後 後編
洗脳される兵士が兵士じゃない者とまとまって20人くらい、こういう集団と出会うのは6組目くらいだ。
放たれる魔術を前に動く加速で距離をつめることで最低限の横移動で狙いから外れ、詰めた距離で届くようになったこの手に持った金属棒で脚を払って、棒の先から出る魔力で金属を形成するそれを、息をきらさず2回。棒をありったけ振り回して、各員を一撃でダメージを与えて姿勢を崩したところで拘束する。
自在に金属棒の先から生み出す魔力由来の金属を変形させて板で関節を封じ、腕の筋に細い棒を突き刺して動きを止める。後遺症にならないように突き刺す部位にできるだけ関節や骨に致命的なダメージを与えないことに気を配るだけで後で治癒魔術を使いやすいだろう。本気で動いても洗脳された兵士の姿勢を崩す程度の打撃に拘束を加えるだけで、殺さずに気絶させられる。
「はっ! そうは言っても治療は必要にだろうし」
打突して、金属を変形させる魔術で拘束しながら事態が終わった後に、治療するために……城の外で戦闘音が聞こえた。出張っていた兵士が戻ってきたのだ。
いそいで原因を突き止めないと、戻ってきた兵士も洗脳されかねない。僕が無事でいる以上、ある程度生理的に生まれ持った魔力の量が多いなら洗脳できない可能性が高いが、無事な兵士は外にばっかり出張っているのに、なにか、内部の情報が筒抜けなんじゃないか? みたいな用意の周到さを感じる。
霧が、薄れた。謁見の間に近づいただけで洗脳を媒介していた霧が、いや、霧は洗脳とは関係ない? いや、
男が剣を振り下ろした。
反射的に降ろされた剣を棒で突き、碎いて男の四肢をまとめて拘束するとその顔に気づく。
「領主様!? ギルベルトの父ちゃん!? ……だめだ、てぃや! 正気を失っている!」
白目を向いて薄っすらと聞こえないような声でうめいている領主を殴り、こちらの敗北条件に領主の死は間違いないことを思うと最悪、拘束している金属を操作して、防御することも考えてカゴのような拘束具でルッツスター領主の身体を囲って、かごに脚と車輪をつけて引っ張って霧のなくなっている謁見の間に入る。
部屋の中であまりに長い長テーブルの真ん中で二人、向き合っている知らない男とギルベルトがいた。その背後には数名の意識がなさそうな人々が転がって呻いているようにも見える。
「お前ら、なにをしているの?」
一瞬こちらに驚いてうつむく、ギルベルト、良く見たら少し前にみた騎士がいるじゃないか、
「……」
「おや、もどって来られましたか?」
「お前、前に森で会ったな」
「ルイージさんでしたっけ? すぐに会えて嬉しいですよ。やっぱり連邦の所属だったんですね」
「本名を名乗るわけないだろ」
椅子から弾けたように跳ね飛んで真横に落ちたように加速して大きく回って、加速した影になった男から数本極太の魔力の氷の塊が飛んできたが、炎にすらならない熱の魔術で一瞬で蒸発して、霧にすらならず視界を揺らめかせるように透明になる。
「淡緑色の騎士、お前は……まぁ、敵だからいい。だが、ギルベルト、お前はなにをしている?」
「…………」
「もう一度言う、なにをしている?」
寄ってきた男が後ろの領主を狙ったから金属棒で弾く、と、一瞬止まった。だから、追撃でこの棒を発射して突き立てれば殺せる! 向きもあっている! あと、一瞬! 構成式に魔力を通すだけだ! 死に様がイメージできる。
なんで、こんなにも無防備なんだ。クソ! 距離を取りながら、氷を発射してきがった!
「困りましたね。現領主が殺されずに保護されるとなると、次期領主様との話し合いは白紙にならざるを得ないでしょう」
「あ……?」
今、僕はお前を殺せたんだぞ! 殺せたのになんでそんな危機感がないんだよ!
「クソ色騎士がっ! 近寄るな。一歩も」
一歩、近寄る。僕の言葉を無視して、それで殺すには十分でも僕はためらってしまった。
「生臭聖騎士がよくいえます」
またもや走り出したそいつに一撃、確実に死ぬ一撃を僕は外して、後ろに引っ張って生きた領主に振り返る。ギルベルトも、領主が無事なら交渉にも乗ることはないだろう!
両手両足を縛る拘束以外の魔術製の金属を魔力に再置換して領主を両腕で抱えて背中を向けて走る。
外した衝撃で壁が貫かれ、天井から床からグラグラと反響するが、壁数枚貫通して空が見える程度ならまだ城だから崩れないしまずいいだろう!
背中に突き立てられる。
痛ぇ、なにが突きさせられたのかよくわからないが、気合でそのまま走る!
正気を失ったギルベルトの父ちゃんは白目を剥きながら俺の両腕で暴れるが、腕力でどうにでもなるなら気にする必要もなし、
問題が二本、背中から刺さったなんか剣みたいなものが背中から貫通して腹から二本突き抜けて領主にあたりそうになったことだ。
きついなぁ、すまない。部屋の外の少し下ったところの開けた場所で転がす勢いを殺しきれずに置いて振り返る。
俺が開けた穴に人影が数名、その中にミリアの姿がある!
「領主をこっちに確保した! 援護を頼む!」
魔術なのかどっかから引き出した数本の刀剣が飛んできて、金属棒の先端から排熱の魔術を照射して、金属を昇華させ余波が後ろに届かないように守る。
「あたるかよ!」
また、飛んできた金属片を蒸発させる。一瞬、刀剣の蒸発で視認性が下がった視界から、淡緑色の騎士が跳躍して領主へ肉薄する。と思って、かばおうとしたら一直線に僕を狙って、二本刀剣が突き出たままの胸に更に一本剣と突き立てられる。
今どこから剣を出したんだ? 見えなかった、虚空から剣が握っている状態で現れたように見えたぞ!? だが、腕は動く、金属棒を生成する余裕もある。
迫ったソレが攻撃ではなく攻撃を誘うための魔術によるカウンターへの誘導と見切った。
故に、そのカウンターを金属棒で思いっきり突き、叩けつければまとめてこいつを殺せると理解できてしまった。
――殺す。
「おっと、よく見切ったな! 私の動きを」
殺せた。今、こいつが跳ねるように魔術で浮遊して飛んでいくよりも先に、カウンターごと殺すことは容易かった。だが、殺すことを一瞬、ためらってしまった。
フェルメアイアがほぼ真上方向に魔剣から魔術を発射して、天井と天窓に穴を開ける。
ガチャガチャと落ちてくる破片を錬気でものともせず避けずに寄ってきたフェルメイアのボウガン型魔剣の向きは動き回る淡緑色の騎士に向いたままだ。
殺せない? 俺に、なぜだ。こいつを殺せそうになると、手が緩む!
「ミリア! 領主を頼む!」
「はい!」
「ギルベルト!」
後ろの気絶した臣下をどうするでもなくほうけていたギルベルトに叫ぶ。
「ギルベルト! 人質はもういない! 一緒に戦うぞ!」
「あ、あぁ!」
「そうですか、そう、解釈しましたか」
なんか笑ってくる淡緑色の騎士、そのニヤケ面、気持ちが悪い。殺してやる。
「ギルベルト! フォローを頼む」
「わかった」
風属性の発展型の力属性の魔術で背中に何本も刺さった刃物を引っ張って抜いて、胸に正面から刺さった剣も素手で抜いて、服が血でベチャベチャだしボロボロになっている。
「身体から刃物を抜いて血ができないって、治癒魔術も使っているので?」
ギルベルトに引かれるが、いいだろう。他人はともかく自分に対する治癒ならそんな難しくない。
「止血と再生、その2つできれば十分だろう?」
「大丈夫か? その治癒の仕方じゃ体力がもたないかもしれないぞ」
「体力が尽きるまでにこいつを仕留める!」
豪奢な剣と、今魔術で作ったばかりの金属棒の鍔迫り合いになり、衝撃波がおこって長テーブルが真ん中から粉々に椅子ごと粉砕れる。
「それにしても、そうかぁ、ギルベルトが裏切ったのではなく、人質を抑えるために時間稼ぎをしていたと、ルイージ君は暗にそう言いたいのだね?」
「黙れ!」
衝撃波で動きが止まった! ここで、仕留め、いや、こいつ、体勢を建て直さない!? なぜ、くぞ! 腕が止まる!
「おい、なんでガードしない! 投降するのか!?」
「いいえ、貴方はいま、殺さないように動いていたように見えたので」
「? なにを言っているんだ」
「無意識でしょうか? いいえ、貴方のその眼、怖いのではないのですか?」
「黙れ!」
顎を狙って棒を払う。
「おぉ! いいですね! 今のは避けなければ私は殺されていたでしょう」
「黙れって言っているだろうっ、があ!!」
金属棒を上方向に発射する。が、雑な動きにたやすく避けられて淡緑色の騎士が片手で握った豪奢な剣で左腕を裂かれる。
「民衆を守るために誰かの命を奪う、その責任を負う覚悟ができていないんじゃないんですか?」
「うるさいっ! うるさあああああだまああええええ!!!」
傷は浅い! まだなんとかなる、腕が間合いが届かない! 棒を魔術で形成しながら蹴りの一つでぶっ潰す!
「いかに怪力で天才魔術士でも、そんな大ぶりでは、最強の騎士たるこの私!」
片脚が両断される。そのまま、剣が視界の中で小さな四角形の点になって、突き立てられそうだと分かる。
「淡緑色の騎士 には勝てませんよ」
死ぬ、殺される。覚悟ができなかっから、油断で、違う。言い訳だ。僕は、人と戦う訓練をしたことがなかったんだ。
その剣を持っていた騎士が転がって、ギルベルトの背中が目の前に出た。
「ギルベルト!? なにを」
「いまだ! フェルメイア!」
衝撃波が真正面に、圧搾されるような硬いなにかが混ざってうねるような暴風。僕とギルベルトは淡緑色の騎士を中心に発動した魔術の余波で、気絶して転がったルッツスター領の職員たちと一緒に転がって吹き飛ばされるようだ。
「げほ、がはぁ、はぁ」
「おい、ギルベルト……」
自分の足から流れる血を止血して、浮いていくように錯覚すらする頭の血の気が引く感覚と、ギルベルトを見ると、腕が折れ曲がって……
「ぐ、ぁ、下手でも、止血しないと」
影が立ち上がる。
「おやぁ、私がこの程度で死ぬとお思いで?」
淡緑色の騎士が死んでいない!
爆発的な冷気と、闇の魔力で身体が弱る感覚、眠たい、寒い、動けない。僕の身体が、でも、ギルベルトの止血だけでもしないと、ギルベルトが死んでしまう!
それに、この意識を失わせようとする魔術の範囲、でかいのが分かる。気絶した人たちを操っていた霧よりも大きい範囲だ。領主だけじゃない。このままじゃ、全滅だ。
「ギルベルト……!」
動けないのか、もう死んでしまったのか? いや、生きているが、捨て身の攻撃にこの暗い冷気の重ねがけで死んでしまいそうなのか、……だめだ、お前は、死なないでくれ、これでも、お前のことは友人だと思っているんだ。
お前から見たらよくわからない卑しい身分の下郎が、作法を教えてくれって頼んで、お前は貴族の立場として有望視される戦力に啓蒙してくれていただけだと思うけど、そう思っているけど、お前に死なれたら、俺は……僕は、嫌だ。悲しくて、辛い。
フェルメイアが威力を抑えた魔術の弾丸で、回転するなにかを発射しているが闇の魔力を使った暗い魔術の発生源に近づくと魔力に再置換されて消散する。
「がぁ!」
左手に僕の魔力でできた金属棒を握り地面へ向けて突き立てる!
フェルメイアのかき消された魔術の余波で、切断された脚が転がってるのが視界の奥に見えた。右腕、これだけ動けば良い。殺すには十分だ!
「届きませんよこの聖剣、雲霞のユニコーンの前では!」
淡緑色の騎士は視界の端で僕を見たが、死にたいだからと気にしていないようだ。
いける!
魔力の消費量がそもそも少ない僕の魔術なら、発射する余力が無いと勘違いされるほど弱っていても、マシンを屠るだけの威力だってだせるんだ。こに右手に握ったこれを前につめて、死に体でも、一撃だけ、発射!
「当たった!」
自分の魔術の余波で転がりながら、勝利をつぶやくと、背後から声が
「いいえ、ハズレましたよ」
淡緑色の騎士が背中側から僕を見下ろして、魔術でなにかを引っ張って
「え? ギルベ…………うっ」
僕の発射した棒が、まだ折れ曲がっていない方の肩に突き刺さって焼き爛れさせるギルベルトが、焦げで、ぶくぶくと
「うああああ!? なんで、うわあああああ!? あああああ!! 嫌だ! そんなっ、あ、アアアアアアアアあ!!」
「ちょっとして幻術も見極められないとは見術な騎士だ」
「ギルベルトを盾にして延命か!? この卑怯者めっ!!」
錯乱してまともに息ができなくなって、喉が引っかかってえづくように鳴るだけの僕の側にまでフェルメイアがきて、ボウガン型の魔剣を淡緑色の騎士に向けて、目だけで殺さんばかりの希薄だ怒鳴る。
「その魔剣では私の聖剣の威力を超えらないぞ?」
「試してみるか?」
「お仲間が二人、死ぬことになるかもしれないぞ? それでもいいのか?」
「だったらお前はなんで人質をとっている?」
「いかに最強の私といえど、面倒なものは面倒です」
瓦礫だらけで穴凹となった、大きな部屋に静寂に限りなく近い風の音が響き渡る。遠くで、行われていた戦闘の声も、聞こえない……
「盗人猛々しいとはこのことだ」
落ちてきたそれに、ギルベルトを掴んでいた腕が手首から切り落とされ、聖剣を握っていた片手で顔面へ振り落とされた短剣を、握るその腕で斬りつけようと動きを邪魔して守るが、その腕には浅く、血も出ないで軽く避けた服をの袖も見える。
天井から落ちてきたように見えた僕の知らない青年は淡緑色の騎士に浅く、怒りを感じられる眼で見つめる。
「ラルス・クローズ! 貴様か! 良く来たな」
片腕を切断されたというのに、淡緑色の騎士はその男をみると元気になって興奮するようだ。
「全員動かないでくれ、動かなければあの魔剣で体力を奪われて殺されことは難しいから、あとは任せろ、淡緑色の騎士ベラト・カヤは俺が殺す」
「良く来たなラルス・クローズ! 貴様とは最強をかけて雌雄を決する必要があると思っていたんだ! さあ! 今日だ! 今日この瞬間がその時なのだ!」
「その前に一つ、質問がある」
「なんだぁ! 気分がいい、決着を付ける前に一つくらいなら答えてやらんでもない!」
「俺の家族、その雲霞のユニコーンを作った俺の家族の名前をしっているか?」
「……? いいや」
「《キルコマンド》」
「へ、ぎゃあああああああああああぁぁぁ…………ぁぁああああぁ!?」
質問に答えた瞬間、淡緑色の騎士が剣をにきっていた腕がボコボコと沸騰したお湯のように膨らんで、破裂して血を撒き散らし、腕から胴へ移って腹までボコボコ破裂して体液を撒き散らすと、その顔面もぶくぶくと泡立ち初めて淡緑色の騎士は叫び声も挙げられなくなる。
「貴様あああああ、なにいいいいあああおおおお」
「殺すのは俺でもお前と戦うのはその剣を作った俺の家族だ!」
落ちた聖剣を拾いラルスと呼ばれた僕と同じくらいの年の男は死者へ向ける鎮魂歌のように語り始める。
「この二振り、本来、面倒な客を騙して殺すために作った極めて攻撃的な作品【雲霞のユニコーン】と【砂塵のファフニール】の2つの連作であり、対になる作品だった。はずだったのだ。だが、これもまだ未完成品だった」
豪奢な剣の一方、その反対側の腕に持たれた短剣は黒ずんだ黒曜石のようだが光沢のない、特殊な素材で作られているかもしれない。
「未完成でもユニコーンを使えば素人でもそれなりに戦えるが、魔剣が対応できる魔力が使用者にないとトラップが自動で発動しないし、魔剣が想定した実力者よりも優れた錬気が使える強い実力者は殺せない。だから、そこの女は無傷のままだ」
そうだ! ギルベルト! ギルベルトの止血と、火傷の、治癒を、ダメだ。ギルベルトの体力を使用しない僕の魔力で幹部を全部再生する魔術で治癒させないと……。
「ルイス! そこまでやったらギルベルトはもう大丈夫だ! それよりも自分を」
「しかも、トラップを起動して使用者を殺すには対になる完成したファフニールが無くてはどうにもならない。だから、まだ未完成品のままだった。つまりだね、お前が死んでいるのは……なぜかって言うと、『雑魚が雲霞のユニコーンを使用した』から仕方がないことなんだ」
まだだ、火傷は放置したら悪くなるから、焦げた制服を払って火傷した首を再生させて置き換わった肌のボロボロがギルベルト取れたのを確認して再生の魔術が効いている以上死んでいないことが分かって安心する。
「実力よりも上に力を楽して手に入れたんだ。『ツケ』を払う時がくるのはお前の宗教の教義でもそういう寓話が無いというわけでもないだろう?」
「ルイス! やめろ! 今のお前はソレ以上魔力をつかったら!」
「そんな眼をするなよ。雲霞のユニコーンがなければまともに戦えない最弱の騎士淡緑色の騎士」
瀕死状態の敵を前に恨み言を言っている彼が、僕の心配をしてくれるフェルメイアよりも、印象に強く刻まれる。
「お前のような雑魚のために家族を殺されたんだ。侮辱する理由はある」
意識を失う直前に見たからだろうか? 彼の憎しみのこもった眼が今後一生忘れられない。
「返してもらうぞ。僕の家族の大切な作品を」
「すまん、眠らせるぞ! ルイス!!」
衝撃がきたと思ったら、視界が真っ白になって意識が暗転した。
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