ギルベルト・ルッツスターの最後 前編
気分が悪い。ひどく、ひどく、目眩? 耳鳴? 頭痛? なんなんだこの感覚の正体は!?
反吐が出る。実際吐いた。気軽に乗りで潰したしたも、焼けてひどい腫れからで血管が広葉樹の葉脈の用に張り巡らされて苦しむ、死にぞこないも、なにもかも、気持ちが悪い。たぶん、頭が痛くてしょうがない。目が回っているようだ。
枢機卿から賜わった『クロヴィス・カンビオン』の名は不毛大陸のマシン討伐で名を上げたビックネームということになっているので、客室と使用人、医者も控えてもらって吐き気がおさまるまでということで付き添って朝食にお粥まで用意してくれた。
こう、看病とはいえ何人もぞろぞろと見張られていると、なんとなく監視されているような気分になるから、『吐き気も収まった』と昼食からは普通の食事をするように頼んで昼寝していたら、領主に顔を通すようにあとから来たフェルメイアに促された。
「あぁ、そういうときって、どういう服を、いや、用意できないからまかせるか、作法とかできると思っているの?」
「たぶんできないと思っているから領主が会いたがっていると聞いて参謀殿は私を連絡係に頼んだみたいよ?」
「そうだね。ミリアはそういうの、半分仕事だからね」
「それで、吐いたって聞いたけど。貴方が隊長を崩すってことで『どんな毒が使われたのか?』って大騒ぎになっているわ」
「毒? そんなんじゃないよ」
「だったらどうして?」
「人を殺したのは、初めてだ」
「は?」
「気分が悪い。どんなに身体が無事でも、精神がグズグズになれば体調も崩れておかしくなるよ」
「……そういえば、貴方の武功ってマシン討伐だけだったわね。いえ、しかし」
「自分が殺人にこんな忌避感……強い拒絶感を持っているとは」
「なら、いままで聖騎士代行の任務を任されていた時はどうしていたの!?」
「殺す必要のある敵なんていままで一度だってなかった。だいたい、少数の相手に手加減してボコボコにしてから拘束するだけど、簡単な仕事だったんだ」
「いままでの状況では気づけなかったってこと?」
「あぁ、人の死に顔を見たのが初めてってわけじゃないから、大丈夫だと思っていたんだ」
ベッドから降りて良く考えたら作戦用の泥まみれの普通の服でベッドに寝かされていたことに気づいて少し申し訳なくなる。
「この服で寝ちゃまずかったかな」
「領主様のはからいだからいいのよ。そのために選択をする使用人だって雇っている。貴方が気にすることじゃないわ」
「そう、なの?」
「軍宿舎に行くわよ。一応、友人の父親とはいえ領主様に会うからには騎士制服を身に着けなきゃ」
「あぁ、ありがたい」
◆
「……! お疲れ様でした」
「あぁ、はい。お疲れ様です。簡易的に済ませた報告をしなおしますよ」
「そうか! ……そうですね!」
指揮を任されていたおっさんの騎士官が勢いよく迫ってくるのか錯覚するほど食い気味に挨拶をするので、気圧されながら不格好な敬礼ですませてしまう。
淡緑色の騎士、ベラト・カヤとの戦闘内容をできるだけ記憶に残っている限り詳細に伝えた。あまり、上手く説明できた自信はないが、時間をかけて説明できるだけの現象を説明した。
「進言願います」
「いいですよ。お客人」
頭に包帯を巻いて毛髪の一部後頭部を剃った男性が手を上げて意見の許可を受けた。
「ペイルライダーが、あぁ、ベラトのことです。やつが魔剣の力で不死でも脚を止めるだけなら、バドリかサリヤに移植された勇者因子の特性を用いればいくら魔術を無効化されるとしても不可能ではありません」
「カリム、君自信は無理なのか?」
「魔術が通らなければ私に移植された力など誤差ですよ」
「そうなの?」
「ですが、合流予定のラルスが対策を用意して移動している予定です。が、最悪、間に合わなかった時の対処は我々が説明可能な魔術の仕組みを説明するので、お願いしたいのです」
「許可しよう。アンビー頼むよ」
見知らぬ四人。その一番下座側にサリヤが立っててなにか、サリヤは隣の女性に親しげに視線を混じ合わせる。
「そちらの方々はどちら様で?」
「えっと、貴方は誰なんでしょう……?」
「アンビー、彼はクロヴィス様だよ」
僕のすこし後ろに立っていたフェルメイアが知らない女性に警告する。
「その方が? さっき、ルイスって呼んでなかった?」
「仕事ではクロヴィス・カンビオンの名で通しているんです」
「あ、あぁ、そうなのか!」
「私はアンビー・リンドレイク、つい先日まで諜報員を努めていました。フェルメイア様が名を連ねるディープシー家の分家に籍を置かせてもらっています。騎士であります。以後お見知りおきを」
「あぁ、はい」
すると彼女より上座にいる諜報員が敬礼して簡易的に名乗る。
「お初にお目にかかります。クロヴィス・カンビオン様、諜報員故仔細を省くことをご容赦させていただくカヴァデイルと申します」
「あ、はい。はじめまして」
形式的な敬礼をこんどはちゃんとできた。
指揮官のおっさんが微笑んで説明してくれる。このほほえみは少なくとも敵対してないことの表明でもあるんだろうが、含みを感じない本当にやさしそうな感じがする。
「彼ら三人はある人物との契約で身柄を我が国で保護している。カリムは治療を受けたばかりだからまだ動けないが、バドリは感覚操作、サリヤは空間操作の魔術に長けている」
「それって」
フェルメイアが後ろから耳打ちする。
「安心しろ、アンビーから逃げるやつはアンビーを殺せるやつだけだ」
「それは」
「大丈夫ですよ。俺をガチガチに魔術で縛って自由に逃げられないようにしている以上、俺らは裏切れないし、俺等はあんたらを信頼している」
「えっと……」
「まぁ、クロヴィス様は受け持ちじゃないので気にしなくていいということです。報告もまとまりましたし、お昼もお呼ばれしていることですしご一緒に領主様の下へ参りましょうか」
「あぁ、うん、そうだ。その、フェルメイアも一緒についていってもいいかな? あの、作法とか……その」
「えぇ、必要です」
食事してもかしこまっていると味を感じない。
仕事で食事をするような時はだいたい神に操を捧げている男性僧侶が教義に反するkとおがないように性的な体験を受けるサービスの延長だったので、隠れ潜んだ部屋で体力補給のためだけの食事と水分をとるようなやりとりだったから、それで苦労することはまるでなかった。
「まだ仮とはいえ貴殿が聖騎士隊に就任していこう箔付けとして利用されていた下品な騎士未満たちは執政官という在るべき仕事につき、それすらできない者は除名され綱紀粛正を守れられ、真の意味で聖い隊に生まれ変わったというべきか、ずいぶん、風紀もよくなったそうですね」
「そうなんですか」
「えぇそうですとも、それまでの聖騎士隊はひどいありさまでストック様以外まともに仕事をしていないとまで言われる玉石混交における石の束のようでした。あれでは、あの中に宝石があってもその宝石の価値も石と共に失われてしまうのは必然でしたでしょう。だから、クロヴィス様が聖騎士隊に加わって以降、聖騎士隊の働きぶりには感謝しています」
「……あぁ、その際にこちらに来た時は、挨拶もせず……えっと」
フェルメイアに助けを求めるために視線を送るが、彼女からの反応より先にルッツスター領主の言葉が勝った。
「いいのですよ。クロヴィス様が裏に表に多忙なことはある程度事情に通じていればよく分かることです」
「そうですね」
「それにバルカン王国から連邦に鞍替えしたこの土地の正当なる王族の末裔としては、連邦への貢献は国土を共に守ることでしかできないのですから、足並みを」
「え、あのっ…………!」
「なんです?」
あ、余計なことを言おうとしているな。と自覚した。たぶん、特定の聖騎士の身分で貴族に肩入れするような発言をしたとかで後で怒られるけど、まぁ、いいか。
「それは、違うと……思います」
「え、っと、我々では共に戦うには力不足と……?」
「いえ、そっちじゃなくて」
「ルイス?」
作法のことは怒らないでくれ! 机を叩いた音じゃない、膝が机にあたったんだ。
「貴方は一度も鞍替えしてませんよね……?」
「………………」
「………………」
「と、言うと?」
「貴方はバルカンに帰属している時も、メディテュラニスに帰属している時も領地を戦禍に
巻き込まないために動いただけで、……ただ強いだけの聖騎士なんかよりも、ずっと……市民のために戦っているというか……正しい力を使っていると思っています。だから」
「おい、それは」
「………………」
フェルメイアが語気が強くポーズにしかなっていない耳打ちの抑えた息でもうほぼ怒鳴る。
「(ルイスゥ! 教会所属の聖騎士が『聖騎士なんか』はまずい! 訂正しときなさい)」
「だって事実じゃないか! 僕がいないと体面すら保てない象徴に何の名誉がある!?」
「おいおい、この人……!」
頭を抱える文官の方を見て、名誉がない旨の発言は本気でダメなものだと気づく。訂正の言葉を探そうにも、心からの本心なので自分では反論をみつけられない。
「クロヴィス様が強いならば、それこそ貴方に続こうとする志を持ったものを後押しするためのシンボルは私は必要だと思いますよ」
「そうかもだ。だが、ギルベルトのお父さんにはその必要がないんでしょう」
わざわざフォローしてくれたのに食って掛かってしまったせいか、流石に困った顔をされしまう。不味いという自覚はあるが、ルッツスター家を民草の目線で評価していると同時に聖騎士が存在する価値のない役職だと思っている僕には、引き下がるのが精神的に難しかった。
「そうだな。ギルベルトの父には、結果的に必要なかったな。私は錦の御旗に唾吐く行為もためらわなかった」
「あ、すみません! ルッツスター伯」
「いや、いいんだ。そうだな君にとって私は」
「えっと、失礼な物言いでしたね、謝罪し」
「必要ない! 君は私の息子の友人だったな。あまり、そういう関係では、気を使うのもよくないかもしれないな」
これなら頷ける。
「えぇ、それは、そう思いますね」
どうも僕が聖騎士関連の話題が引き下がれないことを察した? それともある程度は判断するための情報が国境付近まで出回っているのか、頷きやすい話題にそらしてくれたのだろう。
正直、本当に助かった。もう感情的でないと椅子に座れる。
「ギルベルト様もあと数日したらルッツスター領に任務でよりますゆえ、その際は」
「む、ギルベルトが? 議会はそれでいいと思っているのか?」
「えっと、ギルベルトもくる予定なの? ミリア」
「えぇ、議会はすでにルッツスター家の方針を理解し、信頼していますので、これはその表明の意味を含んでいるのかもしれません」
「だがな、うーむ、わざわざここへ?」
「状況で任務は選べませんが任務は状況から選ばざるを得ないので、現状聖騎士隊かた派遣できる戦力の多くは候補生の肩書きが最上位となりますので悪しざまに思われることのないよう」
「そうか、できれば、ギルベルトはトンボ返りで王都に送り返してくれないか?」
「え!?」
追い返すの?
「承りました。司令官部へ伝えておきます」
え、なんで!?
質問するより先に何人か勝手口から慌ただしく出入りする。
「食事中失礼いたします! 領主様、火急の……」
別の勝手口から数名の騎士官が僕とフェルメイアの間でひざまずき、最もくらいの高いおっさんが息を抑えて話す。
「聖騎士様、緊急事態です」
「なんだ?」
「所属不明の……大隊規模の武装集団が水源のダムへ攻撃を開始しました。力添えを」
「分かりやすいな」
「クロヴィス様、水源地の防衛を頼みます」
「無論、最善を尽くします。君達、このまま現場に案内できるな? このまま戦場に向かう。魔剣はアウラントかメリアが使え!」
「はい!」




