狩り心得
目を閉じて、死んだ人のことを思って半分眠っているような状態で次を待っていると、地下室からカツカツとあらっぽい足音が、駆け上がってくる。
「拠点が判明した」
「そう、場所は?」
「街の中だ。今すぐでられるか?」
「……そっか、いいけど。いまから行くとしたら、案内は? 朝までに本隊を待つみたいなことはしなくてもいいのか?」
「あぁ、いい。建物内に30名の幹部と周辺から無理やりつれてきた子女が居るかもしれないだけだ。案内は捕まえた切り込み隊長とそれを縛るアンビー補佐騎士官と、俺が周囲をできるだけ塞ぐ、お前は中に入って全員捕縛してくれ。本隊には死体処理と残党狩りを任せるつもりだ」
「……あぁ。わかった、もしもの際は頼むけど、二人で包囲って無理がない?」
「一人じゃないさ。魔道を探求する芸術家の名品も揃えてる。アンビーは拘束作業に専念してもらうのだから、頭数から外しておきなさい」
「そうか、なんかあったら俺も、退路塞ぐケアに回るべきなのかな」
「心得か。不要だ。もし失敗したら処罰も心得る。だが、聖騎士の坊やも心得ろよ? 捕縛だぞ、炭化死体を片付ける職員の気持ちになってみろ……一体何割の騎士見習いがゲロを吐くと予想できるかということをだ」
保安官の詰所を囲んで全滅した熱で人の体を肉たらしめる水分が全部抜き取られた可哀想な雑兵共の死体。黒々としたその死体の山は、一般的な死体と比べたら随分腐臭も少なく、兵士の作業としては最上級に清潔な現場だろう。
「……人死に慣れるには良い訓練だろ」
「お前なぁ……」
「これでダレるなら血など視てられるもんか、兵士をやめればいいんじゃないかな」
「それは、そうかもしれないが、なんだ、本国でも聖騎士ってのはそんな感じだったのか?」
「そんな感じって?」
「突き放すような口ぶり、スパルタ教育ってやつか、それ」
「ビジネスライクなだけだ。仕事仲間に情を持ち込むのは成人前までにしておけ」
「ビジネスライクっていうか……、なんていうか協調性を取るつもりはハナからが無いですよ。みたいな態度で聖騎士になったのかって……いや、言い過ぎました。すみません」
「いや、別に問題ないよ。それくらい言われるだけのことを普段からしている自覚はあるさ。ここに3人しか兵士がいないのもできるだけ独力で行動するようにしているからだ。その分、優秀な人を工面してもらっている」
こうなっていたのは最初の方だけだ。聖騎士になるころはそういうのは辞めたはずだった。
「だけど、これで死体の山を視てへこたれるようなら、騎士を長く続けるべきじゃないと言うだけの話だと思っているのも本心からくる言葉だ。悪い意味ばかりじゃない」
「厳しいな」
「無理なやつは無理だろう。そういう生まれつきの、死体とか、今回はないけど……血を見ても動けるやつ。腐臭が無理なやつ。そういうの……才能次第で絶対に受け入れられない奴はいくらでもいる問題は……」
貯水タンクから魔術儀式を施す装置を通してコップに注がれるぬるくて清潔な水で口を潤す。
保安所の精鋭と言えど、地方の時間を掛けて実績を溜めた叩き上げのヴィンセントさんとは合わない考えだったかもしれない。
「すまない、ヴィンセントさん、この考えは本国でも確かに目立つ考えだった。だいたいの奴らは努力すればなんとかなるとか言っていた。……別に、無理は無理で諦めるのは悪いことじゃないのにな。克服できないなら別の手段を探すなり、別の道を選ぶべきだ。それができないで無駄な時間を過ごしていた天才を何人か視たこともあるからさ」
保安官のおっさんが困った顔で言葉を探す。しまった、話すは大きく外れてしまったな。
「話を戻そうか。入ってからの行動は好きにしていいのかな?」
「あぁ、そうだ。とりあえずの作戦はシンプルだ。ルイスが突撃すると同時に俺で罠を展開して、ルイスが制圧次第アンビーは内部に突入。俺は、罠にかかったやつを詰める」
「そう、じゃあ、俺は中のゴミどもを殺すべきか?」
「できればやめてほしい。中に街の子女が連れ込まれている可能性もあるから、あまり、威力のある手段は控えてくれ」
「わかった。できるだけ生かす」
「頼むよ」
あぁ、そうだ。結局答えなかったな。
「あと、もう一つ、質問の答え、言いそびれてたけど」
「質問?」
「俺は本国で聖騎士になるまでは聖騎士になることを拒否していたから、突き放すような真似はしなかったけど、徹底的に周囲の担当者をいじめてた。スキャンダルをとにかく弄り回して、契約を果たせなかった者から順に責任を果たしてもらったよ」
「それは……えっと、お前がか?」
「元々商工会の議員からの推薦だからね。俺より戦闘力も権力もない人しか居ない環境で好き勝手させてもらったら。最低限の仕事もできない無能から降格してもらった。教会に嫌がらせするのも仕事だったんだ。つまりはな」
結果は首をかしげたくなる円満解決だったんだんだが、な。あの折り合いが政治というものなのだろうか?
「聖騎士とは本来そういうものではないということだ。結果的にそれが関係のない教会の改革と重なったから有耶無耶になっているけど、俺は議会はともかく教会との関係は枢機卿と猊下以外のそれらとは最悪なのに、ツートップとは仲良しって異常事態で、大変だったんだ」
「それは、暗に俺にも気を引き締めろってことを言いたいのですか?」
「別にそういうわけじゃ、仕事している人に文句は言わないよ。ただ……」
「ただ、なんだ? なにか不満でも」
「いや、この愚痴を流布することで喜ぶお偉いさんがいるんだ。だから、隙があれば言わせてもらっている」
ヴィンセントのおっさんが声を出して笑った。
「! はははっ……そうか、シンプルなことだ」
そうかな……? 僕には、複雑な
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