2年目、4月
ゴチャゴチャになって頭がまとまらず肝心なことを口に出せずにいて、それでも話を聞いて、僕自信がどういう感情で臨めばいいのか、答えを導き出せないまま乱れた心を殺したように、、静めた嵐の前の静寂のような内心で、枢機卿の妻から受けた頼みで、彼女の産んだ兄妹に魔術の訓練をつける。
「魔力を引き出す感覚を反覆で覚えるためだ」
「そんなことはわかるけど……!」
彼と彼女の片手の甲に貫手を添えるように重ねて自分の魔力の操作の延長で二人の奥から、土と炎の規則的な魔力から鋼属性の魔力因子を生成して引き出す補助をする。
「痛みを感じたら言え」
「もう、痛いが」
「わかった」
「痛い痛い痛い! 急に痛くなった! 私も痛いわ!」
「わかった」
「止めるわけじゃないのか!?」
「抑えた。ゆっくりと、基礎的な魔術訓練でしかないが、これを繰り返して魔力の因子の密度を上げることで魔力の消費した量に対して高い魔術の出力を出せる。と言っても、密度を上げる行為そのものに慣れないと、今みたいに痛いし、魔力を結構消費する行為だけど、威力の変化それに見合う」
「……痛みに成れたもう少し強くしてくれ」
「いいのか? ジャレッド」
「ん兄さん!? 無理、痛い! 私はっ、……すみません、先生」
ヴィヴィアナベルが自分の中から出る魔力の痛みに耐えかねて僕の手を振り払う。
「痛いだけなら大丈夫、痛みが引くまで休憩して」
「はい、クロヴィス先生……」
「先生?」
「今は教師として雇われてここにいるんでしょう? なら、形式手には正しい敬称は先生よ」
「そう、だね」
「ジャレッド、痛みはどうだ?」
「耐えられるが、結構痛い」
「そうか、じゃあ、魔力を一度引っ込める。それから僕が引き出した時の感覚を反復して真似して生成を繰り返そう」
「そんな基礎的な方法なのか?」
「あぁ、僕の実力は技術とかじゃなくて感覚的なものだから、俺だけじゃ教えるのにも限界がある。だから技術的なことはそこにいる魔道師の先生に頼むことになっている」
ややこしいことに、少し前の僕と彼と彼女は僕が枢機卿の不倫相手の子供だと勘違いしていた。
実際は、枢機卿の乳兄弟の兄の側仕えの聖騎士隊の男の子供で、枢機卿は最初から暗に僕が彼の息子であることを示すために彼の父親の名のアルビオンに因んだ『カンビオン』という姓を作ったそうだ。
わかるか! そんな暗号!?
そういうのは事情を知らない人に伝わらずに事情の知っているものに伝わるようにする試し行為のようなものだっていうのに、事情の知らない人はともかく、事情の知っている誰にも伝わらずに間違って伝わっているのが酷すぎる。こんなんで本当に政治ができるのか? あの人、
どうやって事情を説明するべきか、いや、説明するにしても間接的に説明するより自分の父が枢機卿でない説明はそもそも必要なくて……――考えが煮詰まってきて頭が痛くなってきた。
「なんだ。その顔は」
「……すまない。今すぐ必要なわけじゃないことを考えてしまっただけだ。集中し直す」
「飽きるほど俺の面倒はみられないって?」
「兄さん!」
「違うよ。そもそも魔術といっても今までの僕は本当に術を使うだけで師範役なんて初めてだ。僕も、自分の訓練と勝手が違うことが初めてなんだ。気が抜けていたことには僕の否があることは確かだよ」
「なら、何を考えていた?」
「母さんとのこと、枢機卿に確認したいことがあってね」
彼らの父への不満を考えていたともいえずに、枢機卿と言ってしまう。そうだった。枢機卿は父ではなく、というのを頃合いを見て彼らにも伝えないとならないのかもしれない。だが、人目がある。
外国に出て流浪の魔道学者をしているセシリアと、フェルメイアだ。彼女も訓練に立ち会うと言い出して常に目がある状態であるために重要なことを説明しがたい。
「……続けろ。止めるな」
「痛みはいいの?」
「問題ないに決まっている。こんな基礎訓練で音を上げているようじゃ……お前に」
「そうか、まぁ、一応言っておくけど、これは無理やり魔力を引き出す補助をされているから痛いでけで、肉体的にはそこまで負担はないからな。やけどのような症状が出たら……止めるが」
「知っているよ。みんなガキの頃にやったことだ」
「…………そうなのか、へぇ、そうなんだ?」
「あぁ? 何に引っかかっている」
「いや、ダウンタウンでみんながそうっていうことはないからな」
「…………」
「皮肉のつもりじゃない。自衛以外で魔術なんて覚えないから年取ってから誰かに手伝ってもらう。文字と同じで必要になるまでは覚えることもない。そんなもんだ」
「文字も?」
「あぁ」
「そうか、なら、……俺等が、……まともな教育受けて自分より弱い奴全員が、怠けているように見えるわけか」
「正直、少し前までそうだと思ってた。本気で」
睨んでいるのに、少し声はいつもよりも柔らかくて、攻撃的な視線と後ろに見える彼の妹の不安で仕方がない顔が驚嘆を上げる。
「ぇ、そういう意味だったの? クロヴィスがいつも無茶ぶりや意味のない攻撃してるのって、てっきり、立場的にあまり友好的じゃない商工会組合からの聖騎士に出向だから馴れ合わない表明とか、そういう政治的な意味だと思ってたし、そんなこと前に話してたような……」
「…………あぁ、それも、否定できないし、そういう要素もあるが、嘘ではないが本心じゃなかった」
「……お前」
「…………」
「…………魔力を一旦引っ込める」
「…………」
「…………」
「魔力を引っ張る」
静寂が、耳に残ってキンキンと耳鳴りが響いて、感情と伴って叫びだす。うるさい。静かなほど、耳の奥で高い金切音のような不快な音が頭蓋に響き渡る。
「ヴァルトさんだった」
「あ? 何が?」
「いや……いい、違う……そう……なんと、言えば」
頭が痛みではないが痛む時のような鈍痛を受けているにもよく似た衝撃が奥に響き続けて、クラクラとしてきそうなのに簡単な説明がうまくできない。
「クロヴィス、セシリア女史が呼んでいる」
「あ、あぁ? フェルメイア……さん、あぁ、書き起こしが終わったのかな?」
「さん付けはいらない。お前の方が格上だ。あぁ、そうだ。確認作業のためにこいってさ、フェルメイアも4音の発話は長いから鉄火場を共にする予定もあるからミリアの方がいいよ」
「わかった。ジャレッドも一旦休憩していて……あと、なら僕もルイスでいいよ。普段はそう呼ばれている」
「ルイス? ……? ……あぁ、そうか。クロヴィスと語源が同じ方の綴りか」
「うん!」
頬が上に引っ張られるように歯が浮く感覚を覚えると、フェルメイアに少し驚いているのか、困惑しているのか、微妙な顔を向けられる。
「意外だ。笑えるんだなお前」
「え?」
「いや、作った攻撃の顔じゃないそういう、楽しそうなク、ルイスの笑顔を初めてみたから」
「……そうか、笑ってなかったのか。いままでずっとあんまり笑える状況じゃなかったからな」
その事実の全てを受け止めきれずにほうけながら預言者が率いるとされる教導会なる新興宗教組織に与する魔道師の座る簡易的な作業台のところへ行くと、何枚も大きく赤いインクで☓印を付けられた雑に押しのけられたそれらに囲まれるような一に数枚の式が記された紙があった。
「分析と実験の結果がこれだ」
面倒くさそうに彼女にそう言われて3枚の紙を差し向けられるがよく……わからなかった。
だが、一枚だけは内容が理解できる。
「えーっと、これが僕が言った粒子化した金属を使った熱攻撃のやつですよね?」
「お前の杭打ちの魔術の元になった術だからこれがわからないことには、いろいろ調べるのも難しかったからな。これの鋼の魔術の変換を省力して出力の数値をいじった式が……こっちの紙だ」
「……?」
指を刺されたもう一枚の紙を見て、困ったのでフェルメイアに意見を求めざるを得なかった。
「ミリア……これ、同じものに見える?」
「……複雑に見えて、個別の式を順番に並べているだけで、その中に同じ式がある……といったところじゃないかな?」
「……これは……なになんですか?」
「クロヴィス様が使っている式を特定したんですが……クロヴィスさんが自分がどういう魔術を使っているかわからないからなんとかいろいろ実験して文字起こししたんですよ!」
「そう、なんですか。すみません。手間を掛けさせてもらいました」
「えっ!? でもこれ、この式の通りに魔術を使ったら、……その、疲れません?」
「疲れる?」
「疲れるっていうか、魔力が枯れて死ぬんじゃないかしら?」
魔道師の先生は頷く。
「あぁ、だから本人の説明や、実物の稼働を観測しても式の特定と文字起こしに数日かかった」
「そう、で、この3枚目は?」
「……頼まれていた鋼属性を金属製に変換した魔剣用の式、貴方にはあんまり関係ないよ」
「ちょっと借りて良い?」
「いや、ダメだけど」
「ジャレッドに見せて」
「……? あぁ、それは良い案だ! いや、そのためにジャレッドの訓練を?」
「あの二人の母方のララン様はどうなのかは僕はよくわからないけど、コエルレミアは確実にそうするつもりみたいで、本気で計画してる。だからジャレッドが聖騎士候補から落選したのを不服申し立てみたいなこともしているけど……僕やコエルレミアみたいに別枠で聖騎士にするつもりになりそうだよ。あの女がやりたいことをしようとしたら」
「……わかった。私が見せて説明する」
お願いします。
彼女は数枚の紙束をまとめて、休憩中のジャレッドの下へ僕らと一緒に向かい、ある計画に関する重要な魔術式の説明を受ける。




