1年目、2月のある長い1日2/3
場所を変えて話し合うためだけの部屋のようなきれいに整っているけど飾り下が抑えている場所で彼女は楽しそうにお金の話を一方的に提案する。
条件は魅力的だ。だが、一旦持ち帰ってから判断するべきだろう。額が大きすぎる。保険は要るだろう。
「契約に不備がないか、後で商工会の方の手を借りで結ばせてもらいますよ」
「ふむ、ビジネスライクなものね。広い意味では家族みたいなものなのに……」
「は!? アナタが僕に話しかけてくるなんて思ってなかったです。そんな事を言ってもいいんですか?」
「……? 何の話なのかしら」
「え、いや、何と言われましても……っ、どう言えば」
本気で気にしていない? まじで!? お前の旦那の不義の子って今自分で言ったようなものだぞ!?
「理解しがたいです。貴方のこと」
「えぇ、なんで!?」
「僕を殺したくないんですか」
「思うわけないでしょう……何を言っているの?」
表情はその通りにみえるが、そんなわけがない。油断したらいつクビを刎ねられる全く予想できない。というか、感情もまったく測れない。
「そう」
怖いよぉ。枢機卿の奥さん何言ってんの、寿命引き伸ばした魔法使い特有の特殊感覚?
「なんなの……一体。じゃあ、本題に入るけど君があのボンクラをクビにしてくれたのは、結果的に感謝するべきなんだろうけど、……そのために起きる問題にお願いがあるんだ」
耳打ち
「やっかみで言ってたらあのボンクラ、本当にスパイ疑惑出てきた」
「え!?」
「うん、それが君に、ヴィヴィアナベルとジャレッドの魔術を用いた戦闘の教師でもしてもらおうかなって」
「なんですかそれ?」
「今のは、冗談だよ」
周囲を見渡す。あんまり生活感のないきれいな部屋だ。
「一応だよ。常に盗み聞きには気をつけているのさ」
「そういうものなんですか? まぁ、良いけど、教師っていうのはいろんな魔術を覚えている頭のいい人にやらせるべきではないんですか?」
これは、表の理由で別の仕事があるって言いたいんだろう。その意図は感情が読めないせいで全くわからん。
「……鋼の魔術に関する実力は君より上手い人は見たことがない。仮に君の教え方が下手でも、君の教え方の中から新たな発見だってできる可能性だってある。そういうのはやってみきゃ、わからないよ」
「おいおい……、いや、だとしてもやっぱり、感情的に不味いでしょう?」
「何が?」
「いや、何がって、外聞とか」
「なにか、不味いことが有るの?」
この女、全部理解して知らないふりをして……何故、お前の旦那の隠し子の僕を自分の子に近づけるような狂った真似を……、暗殺する気なんじゃないか? 何を……何を企んでいるんだ!?
「娼婦の子であることなんて魔道師からしたら気にするようなものじゃないのに……」
「娼館生まれに学があるわけが無い方が問題なんですよ! 魔術なんて俺が戦闘で使っているのはせいぜいニ、三種類で戦闘以外で常用するのも大したものは、……火消しの魔術を使ったりすることがあるだけですよ」
「じゃあ、どんな魔術を使うの?」
「……金属を形成する魔術と熱を金属から熱を出す魔術、基本は1つの魔術をこの2つに分けたコレらだけです」
「あぁ、あの金属棒を出す技?」
「えぇ、棒しか出せませんね」
「というと?」
「えーっと……あぁ、見てみてください」
魔力を擬似的な金属に変換してそのまま横向きに棒にして手に持つ。
「これ、変形しにくい金属なんですよ」
「どれ」
片手から手渡すと沈むように彼女に両手がゆっくりわずかに落ちる。
「重っ、おっもいわね。これ、圧縮した!?」
「これの中は空洞ですよ……こんな場所で詰まった奴は出しません」
「そうなの、これは、タングステン?」
「らしいです。わかるんですか? 自分でもわかんないんですけど、魔道師なら」
「……一応、正確な分析をしてみないと自信はないけど、専門じゃないからアテにされても」
「昔相手した気の良いお客さんに教えてもらいましたよ」
驚いて、いや、困惑? 怒ってる? いや、そうでもないけど、目を向いて興奮しだす。
「相手って……そういう女性と」
「いえ?」
首を横に往復させ、自慢げな声で言ってみる。
「俺の主な客は貞淑の教義のある宗派の神官と男色家だけですよ」
「え、え?」
「……安心してください。もうお年なので死んでます」
「え、でもさっき元気だったって」
「嘘に決まっているでしょう? 客の話なんてしませんよ」
パチクリしてんだ。この女。お前、枢機卿に嫁入りしてんだろうが!
「つまり……? えっと」
「えぇ、少なくとも客の身分につながる情報で真実は話していないことを保証しますよ」
「え、どこから……神父が男色家だらけなのはマジなの!?」
「いや、……常識でしょう。騎士と神父の男所帯に男色家が多いのなんて」
「マジで!! あの人はそんなこと一度も」
「そりゃ、枢機卿の宗派は子供作っていいし、女の神官も多いですし」
「そういうことなの!? 本当に!?」
何に、興奮しているの。この1000歳超え、
「同好の志にネタ教えとこっと……」
◆
入場の遅い段階でヴィヴィアナベルをエスコートさせられることになったが
「いや、気まずいでしょう? アンタもお母さんの言うことだからって変だって言って良いんですよ!?」
「いえ、母さんが連れて来る貴人よりはずいぶん理性的な方ですので不快ではありませんよ。それに、貴方が私達と仲良くしたくない理由も、お母様が無理にでも仲良くさせようとする気持ちも理解できますもの」
それは、本当なのか? 後ろにいるアンタの兄貴は本当にそうなのか!?
(クスクスっ)
お前っ、聞こえたぞ! ジャレッドにエスコートしてもらうその女性、僕を見て笑うんじゃない! なんで、せめて馬鹿にするような笑い方にしろ! なんで、和やかなんだ!
「楽しいいとこですね」
「本当にそう思うのか?」
ほら、ジャレッドも不満そうだ!
「――」
なにか、嫌味でも言ってやろうかと思ったら幕が開いたので正面のヴィヴィアナベルを目立たせるように位置取りに気をつけてエスコートして、彼女の感謝の挨拶と何人かの祝辞の言葉を聞いたら、音楽がなってダンスとなった。
予定通り一曲目でジャレッドと今日の誕生会の主役のヴィヴィアナベルが踊り、それに合わせてあらかじめ決まっていたメンバーが踊る。それから、何度か往復して、踊りたい人同士が合わせておどる。
まか、ここはそういう場所ではあるが、ダンス会場となると女性のドレスは艶めかしいものからヴィヴィアナベルを立てるために派手でない中で華やかなものまで色とりどりだ。
さっきのジャレッドにエスコートされていた方は、なんか上の世代の人と踊ってたけど、たぶん、父親だな。男の方の性的な部分に不満そうな目線でわかる。
「一曲、いかがですか?」
「えぇ、よろしくってよ」
お互いの一曲目をフェルメイアに申し込み、決闘を申し込むような本気の思いで、練習の成果を見せる。
うおぉぉおっ! 見ててくれ、ギルベルト! この場に居ないコエルレミア! お前たちの特訓の成果を……!
「……まぁ、……ずいぶん、マシには……なっているけど、うん、もとが形にならなかったってことを考えるとダンスになっただけ及第点ね! ……そうよね?」
斜め後ろにいた誰かに聞くが、フェルメイアに聞かれた男も微妙な顔だ。
「ふふ、成れないダンスもそのリソースの全てを脚を踏まないことに集中したらこの通りさ」
「リスムとれないのは判ったけど、すり足とわざわざ自分の脚を踏ませにいくのはやめて、頭おかしいから」
「だが、これなら、確実に踏まれない」
「すごいな、お前……一周回って動きをすべて読まれて動きにくいわ」
まぁ、もう踊らないからいいんだけど、フェルメイアは口では呆れた発言と困惑を述べるが苦笑している表情は少し楽しそうだ。なた、道化を演じる価値はある。いや、本気なんだけどね?
「これで、誰とでも踊れるさ」
「やめろ、もう殆ど犯罪みたいなものだから、武人以外には申し込むな! 転んでないのは私が鍛えているかだぞ? 危険だ」
「冗談だよ。流石にここまで醜態さらしたら、まぁ、流石に踊りを申し込む人もいないでしょう?」
「普通はそうだな」
スーツの女?
「じゃあ私と一曲どうです?」
訓練生だろうとこれでも騎士を務めているフェルメイアですらドレスを着ているというのに、彼女はスーツを着用してぼくの前に立った。
「お初にお目にかかります。バルカン王国コーカサス正教の神殿兵の一人、サリヤ・アーレフ・ハッダードと申します。どうぞお見知りおきを、クロヴィス・カンビオン聖騎士代行様」
「どうも、はじめまして」
なんというか、ちぎれんばかりに張り詰めているのにちぎれずに、触れるものを引き裂いてしまいそうな目というか、隙がない。全身に僅かな力が加わっているというか、常時警戒している? まぁ、仮想敵国にもなることのある最近まで小競り合いをしていた国の重鎮の娘の誕生会となると、命がけの覚悟も必要なのだろう。
「おひさしぶりです。サリヤ様、聖女様はご息災で?」
「無論、万事、なにごともなく学業に励んでおられます」
「それは良かったな」
フェルメイアは彼女に挨拶を終えると、彼女の少し後ろによってきたドレスの女性に声をかける。
「おひさしぶりです。ベラト様」
「やぁ、久しぶりだね。……ソレが、君たちの最強戦力なのかい? そんなんじゃ」
「えぇ、こちらが我らの新たなる正道を示す武人、クロヴィス様です」
(ルイスだよ!)
(そっちの名前は対外的に通じないからクロヴィスなだけだ!)
「えぇ、本当に久しいな。我が国と一時紛争状態になりかけた時ならいざ知れず、ディープシーのお嬢様、貴方が騎士を志すと聞いた時は驚いたものだが、……良い騎士になったものだ。これからも仲良くしていただきたいものです」
「えぇ、四騎士の栄光はかねがね我々の耳にも伝え聞いています。その栄光の4人がバルカン王国にいる限り我々もあやかりたいものです」
「……そうだな。本当に良い騎士になったものだ。全く、隙がない。いや、あっても容易く潰される。ただ歩いて立っている場所が動く、それだけでその力は測れるものも有る」
「一端に触れて全てを知った気にならなようにしてください。特に、クロヴィス様においては、我々では何もかも測りかねています」
「え、急に俺!?」
曲が切り替わる。
「……では、ご一緒に」
「えぇ、よろしく」
踊るなか細めた声で、手を取ったサリヤと名乗った彼女は語る。
「君、何度か殺されそうになってたのをフェルメイアがかばってたって言われてたよ」
「?」
「だから、あの二人、あんな感じに険悪なの。バレないように殺しあいているのよ。あの二人、怖いったらありゃしないわ。私もフェルメイアに近寄らないから、貴方も、ベラト様に近寄らないようにして、命が惜しいからお願い」
「はぁ、……近寄らないだけでいいのか? というか、君から近寄ったんじゃん」
「えぇ、そうよ。私だって本当なら命が惜しいけど、従わざるを得ないことってたくさんあるじゃない?」
「そうか……わかった。近寄らないことを約束しよう」
「助かるわ。それと」
踊りつつ、あまり、踏まてないことに気づき、彼女がため息を吐く。
「あなた、踏まれるのが怖くないの?」
「なんで? 少し痛いだけだろう?」
「暗殺で靴の裏に仕込んだ毒針なんてのは常套手段よ?」
「そんなんで人が死ぬの?」
「そりゃ、死ぬような毒を使っていればね。これからは注意しなさい」
「いや、でも、毒針くらいで」
「今貴方に死なれると、いろんな人が困るって話、私達もあなた達も」
「そうはいっても」
「踊ろうとするより、相手に合わせることに注力して、貴方がどれだけリズムが取れなくてもこういう場所で踊る相手は貴方よりリズムがとれるんだから、貴方が踊るのではなく、相手の踊りに合わせることを意識しなさい」
「あ、あぁ」
不思議と、力強い彼女の踊りに『リードさせられている』ように感じて、ソレを言われてから全く彼女に脚を踏まれないし、彼女の脚も踏まないで、なんだか楽しかった。
「楽しいひとときをありがとうございました、では、失礼します」
「……あ、はい。ありがとうごさいまず。楽しかった」
この楽しかったという本心が融ける前に、走ってきた騎士の緊急の知らせにより僕は駆り出された。
「そんなに大変なの?」
状況をよくわからないまま、馬車の中で騎士制服に着替えて会議室のような場所に連れてこられて、その場所にはなぜか、先程楽しい時を過ごしたサリヤさんがベラトという上司らしい人を伴わずに座っていた。
「交渉成立と見て良いのか?」
サリヤの言葉にウチの国の軍事の将軍が頷く、枢機卿が「断る理由はもはやない」と言う。
「じゃ、この盟約文書を立会人としての私、ジェネジオが所属する教導会と当事者同士の3枚、保管していただきます」
何もわからないので同じ会場から緊急で連れ出されたフェルメイアに声をかける。
「どういう状況?」
「私もさっぱりだ」
「そう」
となると、サリヤは書類を高度な魔術を施されているのかよくわからないけど、薄っぺらい棺のうような手持ちの箱に入れて立ち上がる。
「目標地点は?」




