1年目、9月
美味しいというのを感じないわけじゃない。ギルベルトがじっとみつめる僕の指先を見て、顎ね手をやり、吟味しているのか発言の内容を考えているのか……。
「ぐぉ、ごえ、ぐわ……」
「ナイフを動かすたびに変な声をあげないように」
「うぅむ」
だが食事が窮屈では美味しい不味いもなく無味乾燥な味わい以外はなにもない。
「もう、動かし方は問題なそうに見えるけど、フォークを右手で持つ癖は直そう」
「すまない……ぅあ……へけぐぅ」
「いや、表情と声の割にそんな苦労してないよな? 普通に動かせているのになんでそんな辛そうな声を出すの?」
そう言われても力を抜いて丁寧に動かそうとするのも必死なんだよ。
「食事って意識しないでやるもんじゃん。こんなの体で覚えさせて使うような技術だろ? お前の実家で意識してテーブルマナーをするようなやつがいたのか?」
「いや……デーブルマナーは意識して守る魔のだろ」
「そうなのか、わからないな」
こいつらって騎士の家系だったり幼少期から英才教育とかうけるもんだろ。旧貴族とか金持ちなんだから、金かけてちゃんとした戦闘訓練とか受けるもんなんじゃないのか?
「やっと、食べ終わったっ! もういい」
「置き方!」
万感の想いを込めた手のひらが作法を間違えさせる! いや、クソ、あぁ! 覚えたての知識が上手く引き出せない。
「ぁぁ! ぐぅ……」
だまって、薄い色の髪をした女がだまってギルベルトと僕の座るテーブルの側面に座る。
「誰!? ギルベルトの知り合い?」
「いや……この方は」
「同窓の友の酷いなぁ。名前は聞いているでしょう? コエルレミアでーす。私がコエルレミアよ……」
「そうか、君が…………」
誰だ?
「コエルレミア様、お久しぶりです」
「あいよー! ギルベルトくん、ちっすちーす! っていうの? あはは」
ギルベルトに軽く上げたハイタッチをあわせて、安い火酒で悪酔いをした客のような同年代の女性にどうも、軽い違和感を覚えながらも普遍的な態度で応対する。
「はじめまして、ごきげんなお嬢様」
「本当はもっと早めにねぇ。顔出すべきだったんだけどねー。あのね。はは、招集蹴って怒られちゃったから一応きたって感じ」
「別にいいのではないのか? 聖騎士になるのは義理であって義務ではないのだから」
「だよねー。それはそう、流石に断るとか無理だと思って抵抗しただけだったけど、私より過激に改革してくれた人がいたから、様子くらいは見にこようかなって」
「手伝っているだけですよ。改革の主導は枢機卿と法皇猊下で、商工会組合と三者皆、仲がいいだけですよ」
「あっははは、あんな痛快な事態起こして手伝ってるだけはないでしょう」
「評価するべきものを若手議員と執政官に見せて評価させただけですよ。降格になったのは、本当に仕事ができていなかった中間管理職だけですよ」
「へぇー」
「…………いや、本当に、なんであんなクビになったのかな」
「え、まじで?」
「マジ」
僕の表情でやっとわかってくれたのか? 上機嫌な彼女は冷水を浴びせられたように真顔になって、声も落ち着く。
「そんなに腐敗してたの?」
「国防がいわゆる騎士ってやつ。旧貴族の所有する土地の守護者任せになってるから回っているだけで、今は終わったばかりだから誤魔化しとして僕のわがままってことで噂を流しているだけで、割と一部以外は僕は関係ない大事件……もうすぐ、明るみになるよ」
「それ、なんで!?」
「ルッツスター家に属する身としてはギルベルトはどう考える? 俺等よりよっぼど専門だろう?」
「仕事ができる人間が軍に入って兵士を志さない可能性が有力かな。だって給料悪いし、組織全体として実力が実力が無いから、自分の腕に自信があったら目指さない。だけど、腐敗していたのは結果としても、原因はわからない。だがな、これからは旧貴族と騎士の地位が上がるだろうと思われて……俺はここに居るだけだが、実家は大変な騒ぎだよ」
マナー講座を終えてお盆に食器を収めて下げにいける状態にしてカバンを置いたまま一旦、席を立とうとしたら、思い出したことを上機嫌だった酔いが覚めた彼女が手を上げて質問する。
「でも、貴方って言ったら、この神山麓大聖堂の職員半分取っ替えて左遷させたんでしょ? ついでにロセウス様の降格人事」
「それはッ、いや……それに関して俺は提案した。決断したのは枢機卿様ですよ」
「よくやるよ。お陰で教会と議会のいい役持ちのおっさんどもが私にも気を使ってくれる」
「なんか、事情があるの?」
耳打ちするとギルベルトは声を抑えもせずに怪訝な顔をする。
「コエルレミア・ニミーブ様ですよ?」
「……あぁ…………、刀匠だよね? 会ったことなかったけど」
「えぇ!? 君以外で唯一の聖騎士候補生で就任確定している枠ですよ」
「そうだったのか!?」
「うん、そうだね初めましただね! 聖剣の管理修繕のために新しい聖騎士隊に呼ばれた可哀想な非戦闘員ですよ」
「聖剣、あぁ、あの斬撃を飛ばすやつ?」
「ん? ま、そう見えるのか、あの魔法を照射するやつだね」
「……マシンの膝を折ったやつか」
「……その話はここじゃちょっとね。私も聞いてはいるけど、隠し事だよねぇ。『まだ』戦果に関する情報は」
「そうか、そうだった。ありがとう。漏らしてしまうところだった!」
すると彼女は身を乗り出して他の離れた位置のテーブルにいる職員に声が聞こえない程度に声を絞って口元に音を遮る壁のよに手を添えて質問する。
「じゃあ、ついでに聞くけど、クロヴィス君が枢機卿の隠し子って噂でてるけど、マジなん?」
「……」
「おい! そういうことは気になっても口にするものじゃないですよ!」
「……? クロヴィス? 誰のことだ」
「え?」
「ん?」
何だ。ふたりとも、変な……あぁ、そうだった。
「そういえば、名乗ってなかったな。俺はルイスって言うんだ」
「え、クロヴィス・カンビオンって」
「……? ぁ、それは形式上の名前だ。名乗ったことは一度しかない」
「!?」
「ルイス……え!? クロヴィスって名前でルイスが愛称なんじゃなかったっけ!?」
「そんなこと言ったっけ? いや、言ったような……ごめん。ギルベルト、別にクロヴィスは名前じゃなくて、素性を隠すために用意した署名につかっているだけの文字で……あぁ、名前ではあるんだけど、普段使いはしない」
しっかり謝るべきだな。これは、
「ごめん、もともと偽名のつもりだったんだ。名乗ってなかった。俺の名前はルイスなんだ」
◆
ビィィイビィィビビィィイイビィビィイ――――――。
弦が同じ座標の空気とともに振動して出来の悪い弦楽器のようなビヨビヨした音が訓練場に何度も鳴り響く。
「最近は貴方も選定訓練にくるものね」
「あぁ、給料形態が変わったんだ」
「は?」
攻撃的な態度でも狙いは性格で手元のボウガンから撃たれた矢は正面の的へ当たる。
「少ししただ」
「はい、8点」
「うるさい」
「前は一回来るたびに給料が払われてたから代行の仕事以外で来てほしい時には、呼ぶたびに商工会組合事務所で契約書を交してからじゃないとくるわけにはいけなかったから」
僕がビヨンとうるさい弦から撃たれた矢は正面の彼女が狙った的の隣の10点を貰えるゾーンへ当たる。
「あなたが招致されている立場とは聞いているけどそういうのって一括で支払われるのじゃないの?」
「本当はそうなんだけど」
専用のめちゃくちゃ硬いボウガンの装填機構を引くために発射口を足元へ向けて、全身で矢を装填する。
隣で的を狙うフェルメイア嬢はすでに装填し終えて矢を的に当てる練習に戻る。
「前にいきなり不当な契約をかわそうとした奴がいたから商工会事務所組合員の会計役員と執政官の立会がないと契約の一つもできなくなってね。契約以外でここにきたら、給料を踏む倒されると判断した。だから、自分の意志でくるのは報酬が決定するまではできないものだった」
「厄介だな」
「あぁ、七面倒だ」
「そもそも今回の選定の儀は、このボウガンの発射訓練もそうだが、アレでしょう? 聖騎士を排出しているリック家の秘蔵っ子の開発した新技術を用いた魔剣が聖剣に繰り上げされることも想定した訓練ということになっているが、それよりもお前に合わせた技術に関する訓練というか、お前という聖騎士になることが確定している人材に合わせられる者を選ぶための試験なのだろう?」
「その視点は無かった。そうか、そうだな。……確認することが増えたな」
「……誰にきくつもりなのやら、まぁ、君がここに初めてきた時の態度を思えば、正義に反するような行いではないと思うがね」
「……? なんで、ボウガンが僕に合わせることって気づけたんだ!? 僕でもその発想は無かったから、なんで僕の魔術を見たことがないのにそのことに気付けたんっだ!?」
「例の魔弓の構造を考えてから、貴方の専門とする魔術は、もしかしたら魔法かも知れない何らかの技術は、あの弓と愛称の良い何かを発射する魔術、少なくともあのボウガン型の魔剣と相性の良い質量かいや、エネルギーを発射する魔術とみた。そうでないとしたら、第二の貴方を探しいている……そういうところじゃないかしら?」
「……そうなのかな? にしても、的あての上手さで僕の手札がバレるとは思わなかった」
フェルメイアが僕の的を指さして苦笑する。
「7点より外に当てないってことは、専門の魔術に弓術は近い技術って予想しやすい」
「…………いや、他にもなんか知っているだろ」
バタン――――――。叩きつけるような音。
奥の方で訓練をしていた青年が訓練を終え、ボウガンを分解して専用の入れ物に収納する。そのカバンを叩くようにしまったのだ。訓練のノルマ終了が早かったのだろう。
「といっても、全体では2位ねぇ。専門は魔術戦闘とは聞いているけど、貴方の魔術ってどんなものなの?」
「適当なことを言われているね。僕の専門は……護身術、じゃないな、えっと、なんというか殺さずに嬲って縛り上げる技術? 魔術はたぶん金属系の魔術のことをいろいろ言われているんだ」
「そうね……金属の打ち出し?」
「なんで分かるんだよ! あぁ、比較的シンプルな魔力を擬似的な金属にして打ち出す。加えて推力を、あれ、これって説明して良かったかな? 大丈夫だと思うが自信がないから今はやめておく」
先に訓練を終えた彼が不機嫌そうに扉をしめて音を立てるが、訓練場の騒々しい弦の音からしたら気にするような音じゃない。
「そうね。機密情報じゃないことにびっくりすることろだったわ」
「機密ってそんなわけが……教官、すみません、お手洗いにいきます」
「いってらっしゃい。私はあなたがもどってくるまでにあなたのスコアまで追い上げを目指すは」
「おい、ジャレッド!」
「なんだ? 追いかけてきたのか?」
「その、俺はまた、お前を怒らせてしまったのか?」
ため息。落ち着いているのに、ひどく苛立った息遣い。
「そういうのはいいから、周囲に他に誰もいないんだから、正直に言えばいいんじゃないか?」
「なにを……」
高名な聖堂らしく廊下に壁に至るまで豪奢な模様を刻み込まれた掃除の行き届いたこの廊下で他に誰もいない。二人だけで向き合えた初めての時間かもしれない。
「お前、父さんの隠し子なんだろ?」
「……わからない」
「なんだよ。わからないって」
「本当にわからないんだ。枢機卿はお母さんのことを覚えていなかった」
「『覚えていなかった』とかさぁ。……お前自信は自分が隠し子だって思っているって肯定しているような無いようなのに『そうじゃないですよ』みたいな言い方されるとさ、本当に不愉快なんだよ……」
「いや、そんなつもりは」
「だったらすりよるな!!」
「……僕は、……本当はどうなのか、本当にわからないんだ」
「俺が邪魔なんじゃないか?」
「え……」
なにを言っている? まさか、枢機卿の息子になろうとしていると思われているのか!
「すまん。それを決めるのは俺じゃない……だけど、俺はお前を認めない」
「違う。そんなつもりはない」
「だったら!」
怒り、……そんな目は見飽きているはずだった。なのに、何故、彼から向けられるその目に恐怖を抑えられないのは、もしかしたら本当に彼が僕の兄なのかも知れないと思っているからなのか……。
「だったら、父さんはどうしてお前に目をかける! 腹心のヴァルトをお前に専念させる! あの人は聖騎士隊所属にして、父さんが信頼する最も優秀な部下だ! なぜ、ヴァルト・リックがお前のために働いているんだ!」
それは…………、なぜなんだ。僕も、内心は、期待しているから、
「………………――――――」
ジャレッド・エリュトロ・ジ・ヤ゙・エクサルが見えなくなるまで、黙るしか無かった。
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