守るべき正義
向かい、走り始めてすぐの場所で婦女子の集まりが人の輪を五段重ねで作り込み、困惑する兵士たちを前に叫んでいた。
「この子たちも連れていくって!? 冗談じゃない! 聖騎士がなにさ! 私達が毎日の生活に苦しんでも金を払ってくれるわけでもなしに拘束するなんて勝手言い放ってさ! 連れて行きたきゃ私達を殺してつれていきな!」
「彼は列車転覆に関わった実行犯の一人の家族なんです! 捕まえて取って食うわけでもないのにそんな抵抗をしないでくださいよ!」
「信じないねそんなお勉強ばりした兵士のお坊ちゃんたちの言葉なんか!」
「彼を引き渡してください! でなければ、奥さん達も罪に問われますよ!」
「上等だ! 罪に問うってんならここで殺しな! そうじゃなきゃ、施してくれたエドワード様に合わせる顔もねぇ!」
「ならば、全員拘束させてもらう」
「クロヴィスさ」
魔力製の金属棒を振り回し、先端を拘束するために次々に変形させて30人くらい拘束する。
「全員……、君たちは虐殺に関わった容疑があるのではなく、虐殺に関わった犯罪者の調査のための捕縛の邪魔をした。故に、君たちも情報を持った可能性のある参考人として捕縛させてもらった皆、容疑者の家族と同様に事情を知っていないかの調査を受けてもらう」
既に暗くなっている空の下、冷たい金属の棒を指でなぞってため息を吐く。
「そこの騎士、ちゃんと捕まえろ。彼女たちも虐殺者ではない市民だ。いかに罪を犯しても、人権のある市民として罪を重ねさせるような甘い対応をしていては、彼女たちも虐殺者の一味になってしまうことだってある。我々の市民を守る仕事は、厳しい判断だとしても市民に罪を重ねさせないことも仕事の一部だと思うんだがね」
「それは……そう、ですが……でも」
「この金属は半日もすれば魔力になって自然に帰る。それまでに全員留置所に」
「市民だと? あぁ、そうか、お偉い騎士のあんちゃんは市民権のあるやつしか救わないってことかい? あぁ、そうか! お前は税金でしか人をみないってのかよ!」
「市民権? おばさん、何の話をしているんだい?」
「『市民だけ守る』っていうのはお前が言い出したことだろうよ」
罵声をあげられているというのに、心には波一つ立たないどころか、心の風が止まったような静けさを胸の中に感じる。
怒りが湧くどころか収まっていく。そうか、まるで見当違いの非難や誹りは時として心を穏やかにしてしまうものなのだと初めて知ったよ。
「あぁ、言い方が悪かったかな? 市民って言っても俺の言う市民は、市民権のある人って意味じゃない。人殺しを生業とする人間以外全ての人々のことだよ」
「小難しい言い方をして、馬鹿にしているのか?」
「つまり……政治家と兵士とか……今回みたいな虐殺者を除いたありとあらゆる、全における統治という恩恵を受けるもの全てが人権を認められる人として、戦う意思の持たない全ての人を俺は市民とすると決めているんだ。その統治における市民権ってのはただの居住権を持っている市民の持つ権利のことを言っているだけで、そういうシステムチックな話じゃないんだ」
「聖騎士は兵士は守ってくれないので?」
「戦うと決めて仕事をしているのなら自分と自分の仲間は自分で守るべきだろう?」
広角が上がってしまう。おばさんが拘束されて横たわったままそれを見て不快そうにする。
「つまり、だね……なんと言えば、いいのかな? えぇっと」
「なんだ、薄ら笑いを浮かべて、馬鹿にいているんだろう! お前らエリートはどうせ!」
「虐殺者に与する者を俺は市民とは思いたくない。おばさん、アンタも今すぐこの場で殺してやりたい。だが、俺が守らなければならない正義はそういう行為を認めないから、俺はアンタらを拘束して、……拘束して、拘束しただけなんだ。……っわからないのか!? お前らは悪党になっているんだぞ!!」
上がった広角のまま眉間に眉がよってシワがよる。怒りだ。僕は、このおばさんに、怒りがこみ上げてきたんだ。その、頭の悪さに、考えなさに、
「クロヴィス様!?」
兵士が腕を僕の前に広げ、おばさんが恐怖で失禁している。
「そんなに、ひどい顔をしていたのか?」
「えぇ、とっても、怒っているように見えました」
兵士は怯えて片腕を僕の前に広げて至近距離で僕を見つめているが、少し涙目だ。だが、彼は勇気のある人だ。僕が殺すんじゃないかって、ビビってしまったというのにおばさんをかばおうとしたんだから、
「そうか、ありがとう。気を使ってくれて以後気をつけるように心がけるよ。この場は任せた。僕は向かう場所があるんだ」
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