92:終演
感謝の詩を歌ったあとは、しばらくサンシャインの見せ場。というか、ほとんどサンシャインの見せ場なんだけど……大きく踊って、立ち位置が入れ替わったり、いろんなことをして感謝の気持ちと、これからも応援してという気持ちの府たちを全力でパフォーマンスに詰め込み、曲は終わり。このあとは、私と林さんを除いた4人でのフリートーク。
橋詰さんが話し始めると同時に、長くなりそうと悟った私は、簡易更衣室にさっきはずした膝サポーターをとりに行く。
どうも、さっきの曲で側転をする場面があったんだけど、そこで膝にまた痛みが走った。それですめばよかったんだけど、痛みが続いて、ちょっと辛い。幸い、あと1曲で終わるけど、最後の1曲が一番酷。サンバのリズムに近い感じで膝の曲げ伸ばしが何十回とある。こんなの耐えられるわけがない。最初に比べて、痛みがひどく長引いているって言うのに。
しっかりと患部を固定して、もう一度ステージ袖にスタンバイ。タイミングを見て、ステージインする。けど、なかなかステージインするタイミングがつかめない。というのも、おしゃべり好きの橋爪さんが昔のムーンライトスターの話に花を咲かせているから。
お願い。誰か橋爪さんのおしゃべりをとめて~。とか思いながら。
ようやく話が終わりかけていると思ったのは、舞台袖でスタンバイしてから2分ほどが過ぎたあと。
橋爪さんの話をさえぎるように話題をさっとすり替え、ようやくステージインできる状態に。
怪我をしているのにもかかわらず、再登場の際に調子に乗って側転を連続でやってステージイン。案の定、着地したときに、ズキッと痛みが来る。
やるんじゃなかったと静かに後悔。だけど、顔には出さない。ばれたくないし、心配をかけたくないから。
「またすごい登場の仕方をするだろ。後半というか、最後なのに、本当に奈緒美ちゃんは元気だよ。おじさんはもうついていけないよ~。だって、最後にまた側転の連続を見せてくれるんだろ?」
うわっ、竹田さんからものすごい挑発が。ここは、挑発で返してみても面白いか。
「そういうユウタさんも負けてないですよね?このあとは連続バク転をしてくれますもんね」
勝ち誇った顔で私を見ていた竹田さんに対して、私もしっかりと無茶振りで対応。そうすると、竹田さんの顔が『しまった』といわんばかりの顔になった。
アドリブ合戦では私の勝ち。当たり前っちゃ当たり前か。アドリブでは負けない自信があるし。
でも、私だって側転くらいはしようか。せっかく期待してくれているんだしさ。そこでハンドスプリングをはさんで挑戦してみようか。
「最後だからって、負ける気はありませんからね。それじゃあ行きましょう。本当に最後の曲です。ムーンライトスター最後のシングルから〈We never stop dancing〉!最後まで皆さん楽しみましょう!」
言い切ったあとに、竹田さんのほうを見たあとニッと笑って、前を向きなおし、手拍子で観客をあおる。最後まで楽しませるのが私の仕事だと思ってるし。
サンバに似た曲調が場内に響き、最後とは思わせない盛り上がりで時間を忘れさせる。あとは、1回もやったことのない、ハンドスプリングと側転の連続技を成功させれば、ライブは完全成功だろう。……よし、行ける。行ってやろう。
2サビが過ぎて、間奏に入るタイミング。先に前に出て、上手から下手にむけて助走を少しつけてからハンドスプリング!からの、連続側転!
……よし、どうよ!といいたげにドヤ顔で首を傾け、竹田さんを指差す。
私は何とか言って一安心。先攻をもらったぶん、プレッシャーなく遂行できたかな。
対する竹田さんは、下手から上手に向かって助走をつけたあと、私がやったハンドスプリングよりも少し難しいタッチダウンライズからバク転を5回、そのあとにバク宙を決めて着地。これはすごい。完全にお手上げだ。
バク転からのバク宙はずるい。そんなの、出来るわけがないのにさ。でも、これは認めないとね。
苦笑いをして手を小さく横に広げて、完敗を認めるジェスチャーをすると、竹田さんは、威厳を守ったといわんばかりに少し小さくガッツポーズ。これには少し悔しかったかな。でもいい思い出だ。満足した。さぁ。あとはラストスパート。自分の立ち位置に戻って、最後の振り付け。
橋爪さんと林さんの声がだんだんと大きくなる。まるで最後の力を振り絞る勢い。
私のバックボーカルは声量が変わらないけど、そのうち、2人の声量に負けて聞こえなくなるんじゃないかと不安になるくらい。まぁ、私の声は聞こえなくても別に問題はないんだけど……。
「さぁ~、ラスト行きますよ~!ラスト!……」
もう止められない橋爪さんだけど、もうここで終わり。ヒートアップしすぎたのか、肩で息をしている。でも、その顔はだいぶ満足そう。最後に一言付け足そうとしている。
「今日は本当にありがとうございました!復活したムーンライトスターは、これから皆さんに応援してもらえるグループになること、また、突然、皆さんの元から消えないグループであり続けます!どうぞ、この先も暖かい応援をよろしくお願いします!」
「今日は本当に楽しかったです。皆さんはどうだったでしょうか?私たちと一緒で楽しんでもらえていたら幸いです。これからもずっとこのメンバーで活動を続けるつもりです。薫と同じ事を言うようですけど、これからもムーンライトスターを、また、サンシャインを温かく見守っていただけたら幸いです。今日は本当にムーンライトスターのリバイバルコンサートに起こしいただきありがとうございました。みなさん、気をつけて帰ってくださいね。おうちに帰るまでがコンサートだからね~!」
林さんはお茶目だ。おうちに帰るまでが遠足じゃなくて、ライブか。このフレーズ、ミアシスでも借りようかな。
「それじゃあ、みんな、ばいば~い!」
橋爪さんがそういって、下手に足を進めていく。それに続いて、私たちも。みんな場内のいたるところに手を振って歓声に応えている。私も応えておくか。そう思うと、手を胸の前で組み、軽く膝を折って首を少し折り、感謝の意を伝える。
ただ、Tシャツにショートパンツ姿でこんなことをしても、きれいに映らない。これは、ワンピースドレスだから映えるのか。そう思うと、心の中で舌を出し、しばし反省。そのあとは、しっかりと手を振り、歓声に応えて舞台袖に消える。




