90:スタンドアップ
「ハァハァ。さすがだよ、エルベ。この森の、ナンバーワンを、名乗る、資格が、ようやく、わかったよ。あんたには、勝てない。この森を、しっかり、守ってくれよ。さぁ、最後さ。一思いに、アタイを、殺しな」
「悪いけど、殺す前にまだやることが残っているだろう。奈緒美ちゃんを開放してもらおうか」
「ふん、無駄に、こだわる、男だ。檻の、扉は、開けた。直に、戻って、くるだろう」
「本当のことだろうな。うそはついてないな?」
「あぁ。神に、誓ってな。アタイは、約束を、守らない、女じゃ、ない。さぁ、早く、アタイを、ころしな、エルベ」
「悪いが、僕にはそんな趣味はない。死ぬなら勝手に死んでくれ」
「……。ふん。いつまでも、わがままな、男だ。こうやって、アタイから、命を、くれてやると、言ってるのにな……」
ここで、力尽きて、完全に突っ伏すアタイ。そういったところで、メインステージはライトダウン。この間に、アタイはステージから消え、ナオミにキャラを戻す。
15分ほど前に施したメークをふき取って、またナオミのメークを施す。そして、衣装にしっかりと着替えて、ナオミとしてステージに戻る。
よいしょ。さぁ、ここからまた奈緒美さんとしてステージインしなきゃいけない。メークも落として、付けまつげもはずして、うっすらとメーク。あと、目尻もちゃんと落として。
さぁ、また戻ってきたわね。ここからもう一度暴れ倒すわよ。
えっと、次のセリフはなんでしたっけ?……あっ、そうそう。私が『みんなどこ言ってたんですか?』とぼける番だった。
それだけは決まってて、後はまたフリートークだったわね。それじゃあ、気兼ねなく行きましょうか。
「奈緒美さん、ヘアースタイルが」
えっ?と思い、頭の上のお団子を触る。けど、ない。作ってなかった?なんて思いながら、鏡を見て、あわてて頭の上にお団子を作る。
……うん。大丈夫そうね。今から激しい振り付けがあるから、少し固く作っておかないと。
鏡でスタイルを確認して、違和感がないことを確認。そして、そのままステージに出る。
「あっ、やっと見つけたよ~。みんなどこに行ってたんですか。どこ探してもいないし、私、ものすごい不安だったんですけど」
「それはこっちのセリフだよ。奈緒美ちゃんこそ、どこに行ってたんだい?いない間に知らない人に絡まれるし、生きるか死ぬかの戦いになるし、いろいろと大変だったんだから」
「はいはい。その話はもう終わり。みんなちゃんとそろったんだから。 さぁ、続いての曲は〈Stand up〉です。この曲には皆さんにもご参加していただきましょうか。しばらく、不思議な世界を堪能しておなかいっぱいだと思うんで、少し動きましょうか。皆さんに参加していただきたいところは、ずばり、サビです」
橋爪さんは、まだまだ元気だ。
そして、ここから私たちも聞いていた話の内容に移る。
「薫ったら、また大胆なことをするわね。私たち、もう動けないわよ」
「そんなことないわよ。昔みたいにするだけなんだから。言うことはいたって簡単です。私たちが歌う『スタンド・アップ・ボーイ・スタンド・アップ・ガール』っていうかしにあわせて、男性と女性に分かれてジャンプ!……いたって簡単だと思うんだけど」
「また懐かしいことをするわね。これで昭雄さんは、その日のライブに男性が多いのか、女性が多いのか。量ってたしね」
橋爪さんと林さんの昔話を聞いていたユウタさんとオサムさんが「やったらいいじゃないですか」と声を上げて、一瞬のうちに決まってしまった。
「さすがに今日は比率は一緒でしょ。とりあえず、練習でやってみましょうか。サンシャインの皆さんもお願いしますね。それじゃあ、行きましょうか」
音楽なしで、林さんと橋爪さんが簡単に歌う。私たちサンシャインはその場で簡単に飛び跳ねたりして、一緒になってレクチャー。
というものの、私たちも聞いてなかったということもあり、少し戸惑った。けど、私も萌奈ちゃんも、みんな、持ち前の対応力で難なくクリア。
このレクチャーを2回繰り返したあと、曲に移る。
頭サビに入ることを知らせる合図のようにイントロが短く入った後に、橋爪さんと林さんのデュエットが響く。
サンシャインは一歩引いたところで振り付けに従事。この曲は、サビであおらなくても、間奏で簡単に煽れる。そこで派手に入れるつもりでいる。
実際に、この曲を9月のとあるライブで披露したところ、予想以上のコールがあり、私をびっくりさせた。それを今回も会場全体でしたいと思ってる。
「さぁ、飛ぶだけがこの曲じゃありませんよ!声も出してください!オィ!オィ!」
頭サビの終わりで、タイミングを図り、叫ぶように言う。
こういったパフォーマンスは私が得意にしているから、所々で任されていたりする。逆に萌奈ちゃんは苦手にしているところがあったりしてね。
コールの煽りは、市原さんも竹田さんも乗ってくれるところがある。萌奈ちゃんも、ホワイトマーガレット時代のやり方を思い出しながらコールをしている。
ミアシスのときとの違いは、私の中でコールをしようとしているところは全員に共有しているところ。じゃないと、ほかの人たちが混乱するからだって。ついでにいうと、レトロフェスのサードステージで、緊張が取れた瞬間にいきなり派手にやりすぎて怒られたくらい。それ以降は、セットリストを見て、コールを入れたいところは全員に共有することになった。
しっかりとコールを入れた後は、萌奈ちゃんと橋爪さんのデュエットでメロディーの半分を、後の半分は、林さんと市原さんのデュエットで進み、私はサビだけバックボーカルで入り、またコールで煽る。
この曲の間奏は煽ることしか考えてない。それほど乗れる曲になっているから。それに、不思議な世界から帰ってきてすぐに。さめた雰囲気でライブはしたくない。だから、こうやって、場内をヒートアップさせて盛り上がりを高めていく。
楽しい時間は本当にあっという間。気づけばアンコール前ラストまできている。
アンコール前ラストの曲は、終わりを実感させる〈テイクオフ〉。
この曲は、ただ終わらせるだけじゃなく、次に歩みを進められるように空を飛んだり、大きく羽ばたいていく描写が入れられている。
最後まで来ても、私の役目はかわらない。バックコーラスオンリーだったりだけど、そのぶん、振り付けが派手になってる。
何回転するんだろうって言うくらい、連続ターンが待ち構えている。
この曲に関しては、エアリーが出てくるわけには行かず、奈緒美さんのまま振り付けを進めていく。
なんていうんだろう。またバレエダンサーみたいな振り付け。
たぶん、私にはこれが似合ってるんだろうな。印象の話になるだろうけど。
何とかというような感じで踊りきったライブは終了。あとは、アンコールを待つだけ。もちろん、その間に着替えはあるけど、さすがに、ミアシスでなれたもの。
ミアシスは早いときなんか、翔稀が1分くらいで出て行くこともあるし、私も3分ほどで着替えて出ることもあるしね。そんな私だけど、今日に関しては難しい。
というのも、ワンピースドレスから、このツアー限定のオリジナルTシャツにショートパンツスタイルに大変身だから。
あっ、そうだった。膝にサポーターを巻いていることと、湿布を貼っていることを忘れてた。一瞬1秒がものすごく必死で楽しかったから忘れていた。
この時間は、アンコールがあった後ステージ上でムーンライトスターの昔の映像や、私たちサンシャインの練習風景が流されている。もちろん、ともにふざけあってる映像もあわせて。




