89:アッセ再来
さぁ、そろそろアタイの出番だね。派手に暴れてやろうじゃないの。
メインステージではエルベをはじめ、5人がトークを繰り広げている。ステージ袖から聞いていると、ムーンライトスターの歴史みたいなことが題材になっているように思える。しばらく聞いていたいところではあるが、ある程度、話がまとまれば、前に出るか。
予定の時間が過ぎたころ、わざとなのか、素だったのかわからないが、オサムが気づいたように「そういえば、奈緒美ちゃんはどこに行った?」といった。
やっと出番だよ。とか思いながら、ステージに出てアドリブを入れながらセリフをいう。
「いったい、アタイをどれだけ待たせれば気が済むんだい?それまで気づかないとはなかなかだよ。あんたたちが探しているのは、この子のことかい?」
リハーサルでは出来なかったが、スクリーンに手を伸ばし、おびえているナオミを映し出す。
「奈緒美ちゃん!」
「へぇ、てっきり容姿が似ていたからエアリーと思っていたけど違うんだ。でも、思ったよりかわいいね、この子。首筋から噛み付いて食べちゃいたいくらい」
少しやりすぎたか。そんなことを思いながら、ユカリのほうを見る。相当おびえている様子だ。まぁ、自分でもアタイがこんなキャラだったかなって思うくらい怖いほうに針が揺れている。
びびっているユカリもかわいいから、アドリブで少しからかうか。
「でも、そっちにいる女もかわいいじゃないの。一緒に食べたいくらいだね」
「君が誰と間違えているのかは知らないけど、関係のない人間を巻き込むなんて、間違ってはいないか?頼むから奈緒美ちゃんを返してくれないか?」
「ふん、弱くなったものだ。いつからそんなに弱くなってしまったんだい?それなら、冷たくしてここにつれてきてあげようか?」
「はぁ、あいにく、そういうのは趣味じゃないんだけど、仲間の生死が関わっているなら、やらないわけには行かないだろう」
「ユウタさん、やめて!闘っても無駄な怪我をするだけよ!」
ここでユカリのささやかな抵抗。だけど、ユウタは聞く耳を持たない。
「ユカリ、平気さ。危ないから離れていてくれないか。仲間を危険な目にさらしたくない」
「……わかったわ。どうかご無事で」
ここでようやく歌に入れる。次の私のセリフが終われれば、イントロが流れ出す。ただ、にやっと笑ったエルベ。嫌な予感がする。
「ほんと、君は口の効き方がよくないようだね。声をかけてきたのなら、そっちが先に名乗るんじゃないのかい?」
最悪だよ。ここでアドリブか。それなら、長々としゃべらせてもらおうか。
「ふん。細かいことを気にする男だ。名乗らなくてもアタイのことくらいは知っているだろう?まぁ、いい。そこにいたかわいいお嬢さんのためにもひとつ自己紹介を入れておこうか。アタイの名はアッセ。この森の住人で、この森で最強になる剣使い(エペイストゥ)さ」
「なるほどね。剣使い(エペイストゥ)のアッセ。なかなかしゃれた名前だ。それなのに、似合わない口調と態度。好きだね」
これ以上は無理。アドリブをはさまれても返せる自信がない。無理やりでも終わらせやる。
「で、どうするんだい。アタイと戦うのかい?まぁ、戦わなかったらエアリーには一生逢えないと思うけどな」
「なるほどね。嫌でも、君と戦わなきゃいけないんだね」
静かに言うと、ユウタは腰に差していた模刀を抜き、静かに構える。
「やっと戦う気になったか。エンジンがかかるのが遅いんじゃないか?」
「やりたくないのが本音だけどね。こんなにも無駄な時間は僕は嫌いだ。だけど、仲間の命がかかっているときこそ、やらなきゃいけないんだ。一番いいのは、無条件で君が降伏して、奈緒美ちゃんを解放してくれることだけど」
「ふん、つまらないことにこだわる男だ。あの子を返してほしければ、アタイの言うことはひとつ。アタイを殺してみな!」
ほんと、無理やりに終わらせた寸劇。ただ、勢いに任せて放ったセリフの最後、思いっきり間違えた。
本来なら、『アタイと決闘しな』って言うところだったんだけど……。まぁ、曲も始まっちゃってるし、このままいっちゃえ!
この曲を歌っていくのは、橋爪さんと林さん、それからオサムの三人。アタイとエルベはこの曲で勝敗を決める。
序盤はイケイケのアタイ。アドレナリンが出すぎている証拠か。
サビが過ぎていくと、またアタイとエルベのセリフの掛け合いがある。
「チッ、強すぎる。女だからってなめすぎていたか。本気は出したくないが仕方がない。ここで負けられないんだ」
「ふん、女と絡んでいるうちにそんなに弱くなったのか。廃れたものだ。次のこの森のナンバーワンはこのアタイかい?アーハッハッハッ!」
「こいつ、狂ってやがる。このままだと勝ち目がない。何とかしなければ」
「さぁ、いつぐらいに決着をつけようかな。いつでもあんたを殺せるよ」
セリフが終わると、振り付けどおりで刀を振り合う。そして、同じようにまたメロディーとサビが抜けて早いけど、ラストに向かう。
ここから力の関係が変わり、サビのあたりから徐々にアタイが押されだす。
「しまった」
刀が飛ばされたと同時に出た言葉。もちろん、素で出たところもあるけど、ちゃんとしたセリフ。
ここからアッセの焦りが見え始めるところ。武器を失って、小刀を取り出す隙を狙うように、エルベが攻撃を仕掛けてくる。その攻撃を振り上げたブーツで受け止め、取り出した小刀で反撃。
隙を見計らって飛ばされた刀を取り戻して、もう一度戦闘体制に。前を向くために、低い姿勢でターンをする。けど……。
「クッ」
ピリッとした痛みが右ひざに走り、一瞬声が漏れ、少しの間だけ立ち上がれなくなった。
ちょっと本気になっているユウタは、遠慮なくアタイに切りかかってくる。ただ、一瞬立ち上がれないというハプニングがありながらも、振り付けどおりに事は進みそう。
打ち合わせどおり、曲が終わる直前に刀を遠くに飛ばし、追おうとして、背中を切られる。
動けなくなり、うずくまっていると、首静に冷たい感覚が。演技だとわかっていても、本当に殺されるんじゃないかと、一瞬ヒヤッとした。
「チェックメイト」
エルベの冷たい声が戦いの終わりを知らせる。あとは、もう一芝居。




