88:進むライブ
そんなことをしながら残り五人。はっきりしたことがある。ムーンライトスターよりもサンシャインのほうが人気があることに。とくに、萌奈ちゃんが演じる益田ユカリが一番の人気だった。
私?私は鬱陶しいキャラだということはわかってるみたいだから、人気は低いよ。それに、私、人気なんて興味ないしね。下支えができたらそれでいい。まぁ、ほとんど変わらないようなものだったけどね。
「さぁ、メンバーの人気度もわかったところですけど、ユウタさん、傷ついてませんか?」
調子に乗って、バックヤードにいる竹田さんにトークを振ってみる。すると、マイクを通してちゃんと返してきてくれた。
『ぜんぜん大丈夫だよ。むしろ、光栄ですね。ここまで人気があるとは思いませんでしたから。ありがたいお話ですね』
話を聞きながら、舞台袖を見ると、橋爪さんが復活して、ステージに出てこようとしていた。
「橋爪さんはどうですか?」
「えっ?何の話?」
「いや、なんでもないです。さぁ、お話も長くなってしまいましたね。そろそろ次の曲に行かなきゃ怒られちゃいそうですね。続いての曲も、このツアーに合わせて橋爪さんが書き下ろした曲になります」
今までいなかったメンバーが戻ってきた瞬間に話を振るというのは、ミアシスに入ってから身につけた業。こういうのは今までなかったか。混乱した頭で整理するのは難しい話か。
「あっ、はい。えっと、次に初披露となる曲は、当時、残された私たちムーンライトスターに必要だったんじゃなったのかと、書いた後に思いました。どん底にいた私たちを、この曲で見えない底から救い出してほしかったと思っています。曲名がずらずらと長くなりますが、これは私のこだわりです。みんなと少しでも長い時間を一緒にいたい。というわがままからです。聞いてください。〈脆く険しい道を越えた先に新しい世界が広がる〉」
ひらがなで30文字に迫る文字数の曲。この曲から、サンシャインもステージに戻りパフォーマンスを披露。私もしばらく出ずっぱりになる。
ただ、ここからの私はあわただしい。人格を変えなきゃいけないアッセが近づいてきていることに気づいたから。
この曲が終わったら、決められていないけど、しばらくはエアリーのままパフォーマンスして、すぐにアッセにキャラ変。……うん。やっぱり忙しくなるね。でも、時間はある程度とってくれているからありがたい。
ちょっと浮き沈みの激しいセットリストで私であたふた。このまま行けば情緒不安定になりそう……。
そんなことを思うのは最小限にしてパフォーマンスを続ける。
セットリストの中にある〈ロード〉という曲は、私にもソロがあり、イントロの終わりからサビ前まで。結構広い範囲を任せてもらえる。まぁ、この一箇所だったりするんだけど。あとはほとんどバックコーラスとかバックボーカルよね。
ただ、この曲も、前を振り向かせてくれる曲になっていて、私は、奈緒美のまま歌う。
振り付けをこなしながらでもいいかなと思ったけど、しっかりと想いを伝えられるように、振り付けをなくして歌う。
それに、そっちのほうが、声も伸びるし、最初からフォルテの曲で、ミアシスのときと同じように歌うほうが声量もでる。ということで、もともとの振り付けはあったけど、あえて振り付けはせずに歌って、バトンタッチするサビから振り付けを始める。
ただ、サビに入っても、私はバックコーラスで歌唱を継続中。
これがね、ちょっとしんどいんだよね。サビに入ると、メインボーカルもバックコーラスがフォルテッシモになるし、振り付けはさらに激しさを増すし。ミアシスで言えば、〈フラトゥ〉状態よね。まぁ、ミアシスよりは振り付けは楽なんだけど。
このサビが抜ければ、次のメロディーは竹田さんのパート。
言ってみれば、この曲は、ボーカルを少し休ませるようなイメージの曲。もっといえば、林さんと橋爪さんの負担を軽減させる目的の曲だから、私と竹田さんのパートがあるわけ。ただ、それをするなら、私も休ませてほしいところなんだけど。とか思ったり……。
アクシデントがあったのに加え、ほとんど出ずっぱりなんだから。膝の痛みも少なからず抱えながらのパフォーマンスだし。まぁ、仕方ないんだけどね。
さぁ、もう一息。このサビを抜けると、Cメロとラストサビ。落ち着いた曲調に変わる。まぁ、それもほんの15秒ほどだったりするんだけどね。気分はそれだけでもやっぱり変わる。
弱いところが抜けると、世界一周の旅の始まり。といっても、対したほどではなく、ターンをするようになでるだけ。
それも終わってしまえば、また優雅な舞でステージを回り踊る。あと、この曲はDメロで竹田さんとの掛け合いも合って、ラストサビではバックコーラスでメインボーカルのクエスチョンに対するアンサーがあったりする。
さっきまでの曲よりも少しファンタジー間が顔を覗かせている。そんな曲も終わると、いよいよ私の中での正念場。ここの出来一つでステージの雰囲気が変わると思ってる。
ただ、とりあえず、目の前のことに集中。
今はMCなしで〈アイムオッケー〉に。妖精のように魅了できるように優雅に。
この曲は、序盤のグループわけで進めて、エレンとエアリーだけメインステージに。あとの4人は、一番だけサブステージに、あとはメインステージに戻ってきてパフォーマンス。
そして、エレンとエアリーは最初のメロディーから楽しそうな雰囲気で。2サビからはステージにくる4人を警戒するそぶり。そして、ラストサビで4人の周りを動き回るようなイメージ。
久々の広いステージだから、いろいろと感覚が鈍ってるところはあるにしろ、今は楽しめたらいいか。
全体的に明るい感じで進んでいく曲。きづけば、2サビも抜けかけている。ここからエアリーとエレンの掛け合いが始まる。最初は竹田さんから。
『仕方ないから』
「これが最後だよ」
『これを聞いたら』
『また歩き出すんだよ』
さぁ、ラストサビ。さらに明るくなった曲ガラスとスパートを意味する。
『たしかに耳元ではっきりと聞いたことのある声』
ここがバックコーラスに入る直前の歌詞。この直後に私のコーラスを挟む。
「それは私たちの声」
よし、完璧。あとは、流れに任せて、しっかり踊るだけ。
最後は橋爪さんと林さんのデュエットで曲を締めて、ちょっと長いMCに入る。この間に私が着替えとキャラ変。
「なんだろう、このにおい」
そういって、においにつられるようにして上手側に消えて行く私。独り言のようにいったから、もちろん、みんな気づいていない振り。ここからは、早着替えを敢行。ミアシスで何回かしているから大丈夫だと思うけど、今回はメークも変えるからね。どうだろう。時間内に収まってくれたらいいんだけど……。
そんなことを思いながらカチューシャをとり、髪をおろす。そして、簡易更衣室でワンピースドレスから、黒と赤のトップスにショートパンツと編み上げブーツという、なかなかミアシスでも着ないような衣装に着替える。そして、お団子を作ったり、巻いたりしてうねったヘアをストレートに戻す。
「香川さん、手伝いますね。どんな形にしましょう?」
「えっと、ストレートに戻すだけで大丈夫です。ヘアバンドを巻くだけなんで。とりあえず、型のついちゃった髪をストレートにしてもらっていいですか?」
「それだけでいいんですか?飾らなくても」
私の中ではすでにアッセの姿像が出来ている。下手に飾って崩すよりも、シンプルな像のまま次に行くほうがいい。それに、すぐにエアリーにも戻るし、奈緒美にも戻る。ゴテゴテしすぎると、ただでさえ時間が足りないのに、どうにもならなくなる。
「どうせまたお団子に戻す上に、メークチェンジする時間が限られてますし」
そんなことをいいながら、描いた眉を落として、目尻を上げる。そして、付けまつげで目力を強くさせる。
「すごいですね。メークひとつでここまで変わっちゃうんですね」
ほめられてるのか、どういわれているのかわからない。だけど、ここは、このあとに集中する。




