7:美桜さん水泳部に入部?
そして、お開きになって、誰かに水泳部がどこにあるのか聞こうと思ったけど、させてくれなかったのは、好奇心ばかり持つ私と同じ女子高生。
あっという間に私の周りは好奇心の塊に囲まれた。
こういうのって小学生の時にしんどいって聞いたことがあるけど、その気持ち、今よくわかった。ほんとにイライラしてしょうがない。
だけど、ここで逃げ出す勇気、私にはない。関西人って強気に来るところあるし……。正直に言って、怖い。
もちろん、聞かれるのは『何でこっちに来たん?』って言葉ばっかり。もちろん、ミアシスの活動をするために大阪に来たなんて答えられるわけがない。
どう答えて逃げよう。声は徐々に入ってこなくなり、言い訳ばっかり考えるようになる。
まぁいいか。学年集会と同じクールな感じで『親がこっちに来たからついてきた』っていっちゃえば、それで何とか追い払いことはできるでしょ。
「なぁ、中川さんは何でこっちに来たんって」
「言ったら親の都合。1人で生活するのはできないから親についてきたってところかしら」
あえて考え付いたことは全部言わない。突っ込まれたらそれまでだから。
「でもなんでトーモリなん?」
「トーモリ?何それ?」
「東森町の略やん」
「そう。何でって言われてもね。通信制はバカになりそうだし、都会に近い商業高校がいいからと思ったから。と言った方がいいかしら」
「出身はどこなん?」
「埼玉だけど」
「あー、埼玉ね。一回行ったことあるけど、田舎~」
答えた瞬間、誰かの声かはわからないけど、私が住んでたところは結構都会に近かったんだけどなぁ。と思い、少しプツリと何かが切れた音がした。
「大阪もメインストリート外れたら田舎じゃん。十分私の地元のほうが都会ね。大阪?梅田?まだまだね。あんなの横浜よりも廃れてるわ。電車も遅いし、待ってる時間も長いし。関東に比べたらまだまだね」
だけど、事実を言ってるだけ。都会から離れると寂れてるし、実際に少ししか離れてないのに学校に来るだけでものすごい時間がかかるし。なんだかやってられないって気分。だけど、知らない土地だから面白いと思うときがあるのも事実だから悪くはない。
私が言い放った言葉に周りが凍り付く。そりゃそうだよね。自慢の地元をめちゃくちゃに言われるんだから。
気分的に教室からいづらくなったし、居たくなくなった。水泳部の見学にでも行こうかな。まだミアシスの振り合わせの時間まで時間はまだまだあるし。
「それじゃあ私、用事あるから」
冷たく言うと教室を出て、ロッカーのバックをひったくって階段を昇って行った。
なんだか少しすっきりした。たぶん、周りからのストレスが半端じゃなかったんだと思う。でも、口で勝ったし、それはそれでいいか。
なにかと気分が楽になって気持ちよく水泳部の前に来た。
ただ、学校の屋上。こんなところに部室があるのかと思ってしまう。
そんなことを思っていると、下から誰かが上がってくる音が聞こえた。振り返ると、私よりも少し背の高い女子生徒が。よく見れば、視界の隅にうっすらと映った同じクラスの少女だった気がする。
「あれっ?中川さん?用事あるんとちゃかったん?」
やっぱりそうだ。周りを囲まれた教室から出るとき、うっすらとそばを通った気がするけど、若干、塩素系っぽいにおいがした。確か、この少女だった気がする。
ただ、何も感情は出さない。勘付かれたくないから。初めて会った人に対して。
「別に。あの部屋から逃げ出したかっただけ。理由はどうでもいいじゃない。あの場面は嘘つかないと収まらないわ」
なんでだろう。今までよりも冷たい声になってしまっている。
「でも、教室出たんやったらストレートで家に帰ったらええやん。なんでこんなところにおるん?」
「まぁ、水泳に興味があるからといったところかしら。小さいころから水泳をずっとやってるし、前の高校でも水泳部で、やっぱり、水泳バカだから、こういうのって気になるのよね。どんな環境なのかって言うの。で、環境が良かったら入ろうかなって」
「環境ね。ここはビルの谷間とかやけど、めっちゃええで。人が少ないのは寂しいところやけど、それ以外はカンペキ。部長のうちが言うんや。どこのクラブより環境がええんは自信もって言う」
ものすごく熱い。この人、本気で水泳が好きなのかもしれない。いや、泳ぐことが好きなんだ。なんとなく気持ちもわかったりする。
「そう。あなたの熱意はよくわかっかわ。こんな言い方してるけど、私も泳ぐことは好きよ。あなたの熱意に負けないくらい」
「そんなん、最初見た時からわかるわ。ほかの女の子に比べて、背も高いし、肩幅も若干あるし。水泳バカの川島菜乃葉にはお見通しさ」
そう言って、私に人差し指を指してウィンクをする。結構バカなことして表情一つ変えない私を笑わそうとしてるのが必死にわかる。
だけど、何でだろう?私の表情がピクリとしないのが自分でもわかる。
「あれっ?おもんなかった?まぁ、うちの空回りはいつもやから気にせんとって。で、専門は?」
何かと察しがいいな。川島さんって。ここは少し賭けてみようかな。当てられるかどうか。
「じゃあ、何だと思う?いろいろ知っている川島さんだったらすぐにわかると思うんだけど」
と部室に行くまでの間に聞いてみる。
「そうやなぁ……。上着も着とるから一概には言われへんと思うんやけど、腕細そうやし、足も細いから、力のいるバッタ(バタフライ)は消去。今、部室までさりげなく歩いてきたけど、がに股になってへんとこ見ると、ブレ(平泳ぎ)でもない。これで2つに絞られたけど、かいらしい顔しとるから、バック(背泳ぎ)やろ。中川さん、あんたが専門にしとるのって」
最後の推理はどうかとして、お見事。さすが長年水泳しているだけのことはる。ただ、去年だけ個人メドレーに挑戦してたんだよね。それ以外は全部正解。
「さすがね。ずっと水泳してるだけのことはあるわ。まぁ、そこまで速くなかったけど」
「バックかぁ。入ってくれたら新入生を待たんとリレー組めるんやけどなぁ……」
ものすごく入ってほしそうにこっちを見てる。
正直なことを言えば、まだかなり悩んでるんだよね。このままミアシスの活動をしながら水泳を続けるのか、水泳をきっぱりやめてミアシスの活動に専念するのか。
マネージャーには水泳を続けたいって言ったけど、あれもまだかなり悩んでいる時期だった。
強く言ったのは後悔したくなかったから。でも、私自身、ここまで悩むとは思わなかった。ある分、ミアシスの活動をなめていたところがあったのかもしれない。
でも、やらない後悔をするよりも、やってから現実を思い知った方がいい。どこかでそう思えたのかもしれない。
ただ、まだ悩む。
「川島さん、ごめんなさい。今すぐに入るとは言い切れない。一日だけ時間もらってもいいかしら。もちろん、できる限りいい答えを出そうと思ってるわ。だけど、事情によるところもあるから、それをよく考えて、後悔のない答えを出さしてほしい」
「……わかった。今年こそは安泰にって思ってんけどなぁ。まぁ、そこはしゃあないよな。家の事情なんやし。中川さん、うちはええ答え待ってるからな」
「善処するわ」
川島さんには合わせられそうにないけど、楽しそうな部活。ただ、言い方からして、そんなに強い部活ではない。
私にとってこれほど部活のしやすい環境はないかも。川島さんには悪いけど。
話してるときにある程度部室を見た。部室の環境はまずまずといったところかな。プールの環境はカンペキ。
周りに何もないし、とにかく開放感がすごい。
日よけがほとんどないところは気になるけど、ゆったりと自分のペースで泳ぐことができそう。
美桜は新しい学校に馴染めるのでしょうか?
とりあえず、逃げ道として水泳部の見学に行きました。とさ。
※追記12/10
競泳の専門用語が出ていたことに気づきましたので括弧書きしております。




