87:代役MC
「あら千佳。いらっしゃい。久しぶりじゃないの」
ステージイン早々に梅田さんと間違えられる私。これがわざとなのか、本気なのか、この曲の後だと、なおさらわからない。
「林さん、私、梅田さんじゃないです。香川奈緒美です」
「あら、失礼。どうやったら見間違えちゃうのかな。とりあえず、若かれしころの千佳にそっくりの奈緒美さんから自己紹介をしてもらおうかしら」
とりあえず、時間を使うためならある程度の無茶ぶりだってする。経験のいちばん浅い私にはそれしかできないんだから。
「はい、わかりました。それでは、皆さんご存知のとおり、香川奈緒美と申します。そうですね、サンシャインの中での特徴といえば頭の上のカチューシャですかね。なので、サンシャインのメンバーが覚えられない。という方は、『カチューシャのお姉さん』と覚えていただけたら幸いです。趣味は、スポーツ観戦とカチューシャ集めです。リバイバルライブでは、皆さんに楽しんでいただける時間を、忘れられない空間を作ることができたらなぁと思っています。短い時間ではございますが、どうぞ盛大にお楽しみください」
ミアシスのときでは絶対にすることはない最年少キャラで偽りの自分を演じ続ける。多少、キャラがキツイのは、由佳の影響が少なからずあるだろう。
「はい、ありがとう。さぁ、それじゃあ、気になったところからひとつずつ聞いていこうかしら。そうね。最初に言っていたカチューシャ集めの趣味だけどさ、まずなんで、カチューシャを集めるようになったの?」
「正直に言って、皆さんからは見えないかもしれないですけど、私、面倒くさがりやなんです。で、学生時代に部活動でヘアピンで髪の毛を留めるのが面倒で、カチューシャを使い始めたのが最初ですね」
「そんなときから……。あれって、メークするときとかに使うものでしょ?奈緒美ちゃんの中では、派手に動きときに使うものなんだ」
「きづけばそうなってましたね」
「さぁ、次ですけど、スポーツ観戦も趣味って言ってたわよね。何のスポーツを見に行くの?」
「多いのは、野球や競泳、バレーボールが多いですね。やっぱりね、スポーツはいいですよ。わくわくしますから。野球は球場全体の一体感、競泳は浮かび上がる肉体美に記録更新がかかりそうなレースのハラハラ感。バレーボールは、テレビでは感じられないリアルを感じられますからね」
「思ったよりアクティブね。普段はおとなしいから、てっきり、インドア派と思っていたけど。競泳は、自身がやっていたし、野球も一般的にわかるけど、バレーボールってそんなにはまるものなの?」
「バレーボールの代表戦はあまり行かないですよ。『差』というのと『技術』というのを見せ付けられますし、こんなこといっていいのかな。野球の一体感は好きなんですけど、バレーボールの会場の一体感は意図的に作り出されたものなんで、あんまり好きじゃないんですよね。私が行くのはあくまでも国内リーグで、もちろん、ここにもずば抜けている選手はいますけど、どのチームも戦力が拮抗していい試合をするんですよね~。これがまたたまらなくて……」
「奈緒美ちゃん、顔がとろけてきてるわよ。力説するのはよくわかるけど。で、それぞれの分野で好きな選手っているの?」
「もちろんですよ。そうじゃなかったら、楽しみがないですよ。まず、野球だと、『才能と闘志あふれる』というキャッチフレーズがあるアイアンブラックスの古川マサヒロさんでしょ。競泳では、『スプリント超特急』の大神遊菜選手と、『新星エース』の原田直哉選手。あと、バレーボールでは、潮江科学クイーンズオーラに所属している『沖縄から来た守り神』島袋結衣乃さんと神戸アステルズの中村望さんを応援してますね」
「……どうしよう、私、ひとりとしてわからない。スポーツニュースもあまり見てないし、年をとったからかな。ついていけないわ」
「大丈夫です。私は多忙で観戦もいけてませんから。たぶん、このツアーが終わるまではいけないかなぁなんて思ったりしてるんですけど」
本当にそうなのよね。興奮する試合はいくらでもあるのに、試合とかコンサートとか、振り合わせでいつもいけない。そこさえ何とかなれば、いつでもいけるんだけどなぁ。なんて静かに思いながら。
「逆に、林さんは普段何されてるんですか?私、ものすごい気になるんですけど」
一度、私への質問が途切れたようで、まだまだ時間を稼ぎたい私は、林さんに質問をなげかけた。
「私?私の話なんか聞いて楽しいの?」
「いやいや、みなさん気になりますよね?少なくとも、私は気になるんですけど」
「そうね……。まぁいいか。隠さなきゃいけない事実なんて何一つもないんだし。 最近こそは、薫やサンシャインのみんなに会えて楽しい時間を過ごしているけど、それまではずっと専業主婦で家事ばっかり。たまに外に出ても、買い物とかしか行かなかったからね。周りの世界についていけなかったりとかね、まぁ、ある程度テレビは見ていたから、何とかなったけど」
「林さん、専業主婦だったんですか!?私、初耳なんですけど」
「なんで、そんなこと言わなきゃいけないのよ。ここには関係ないじゃない」
「えっと、旦那さんは活動を再開するって言われたときはどういう反応だったんですか?」
「そうね。どうだったかしら。まず、私がムーンライトスターのメンバーって言うことをあの人は知らなかったから、打ち明けたときは本気でびっくりしてたよね。でも、動転せずに『我慢してやってきてくれたんだから、今からはお前の番だ』って言われて背中を押されたわ」
「うわぁ。ロマンチックじゃないですか。まさにおしどり夫婦って言う感じ。で、活動を再開させてからの楽しみは、やっぱり、みんなと振り合わせをしたり、おしゃべりをすることですか?」
「そうね。奈緒美ちゃんと話すときなんかさ、奈緒美ちゃん、まだ未成年じゃない。まるで孫と話しているようで楽しいのよ。もちろん、ほかのサンシャインのみんなもそうなんだけど」
「私も、ムーンライトスターさんの歴史を知れるので楽しいです。これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくね」
さぁ、話は一度フェードアウトさせるけど、まだもう少し時間を稼がないといけないかな?
そう思って後ろをちらっと振り返る。すると、インカム越しに竹田さんの声で『もう少し頑張って』と一言。
それなら、恒例になりつつある“あれ”をやるか。
「さぁさぁさぁ、みなさん、しんみりしてしまう曲がありましたが、楽しんでいただけていますでしょうか。楽しんでるよ~って人、クラップハーンズ!」
いつも以上にしっかりと聞こえる拍手。やっぱり、衣類で音を吸収するより、壁の跳ね返りが強い。盛り上がりは十分だね。
「さぁ、いい盛り上がりですね~。奈緒美さん、少し遊びたくなっちゃいましたんで、ちょっとだけ皆さんと遊ぼうかと思ってるんですけど、いいでしょうか?」
「ほんと、奈緒美さんは猫みたいで自由気ままね。台本にないことを次々に入れてくるじゃないの。まぁ、私も楽しいから別にいいんだけど」
まぁ、トークに台本はいらないと常に思っているタイプだから、たぶん、違和感が大きいんだろうね。少し首をかしげながら「まっ、いっか」というような表情をする。
「そしたらね、このあとのパフォーマンスに影響が出るかもしれませんが、一応、やっちゃいましょう。まずはじめに、われら、ムーンライトスターが一番の目的だ!という人、クラップハーンズ!」
これだけで十分に盛り上がってくれる場内。数は、まぁまぁって感じかな。もちろん、全員が、この公演を楽しみにしてましたって言うのが一番なはずで、楽しみにしていない人なんていない。そんなことはわかってるけど、盛り上げるためにね。ひとつ言っておかないと。
「いいですね~。じゃあ続いて、サポートグループのサンシャインがお目当てだって言う人、クラップハーンズ!」
……うん。やっぱり、盛り上がりは一緒くらいか。やっぱそうよね。それが当たり前だよね。両方とも見に来てるに決まってるよね。
「それとも、今日は両方を見に来たって言わない人、クラップハーンズ!」
もうね。これをやると、うれしくなるくらいご丁寧に引っかかってくれる。
「ほんと、みんな大好き。ご丁寧に皆さんに引っかかっていただいて。人の話しは最後まで聞いてもらわないと。って言いたくなるところですけど、気を取り直していってみましょうか。われらのリーダー、橋爪薫が好きだ!っていうひとクラップハーンズ!」
……まぁまぁって感じか。ここからどうなるかな。たぶん、益田ユカリが一番多そうな気がするけど。まっ、順当に言ってみるか。




