84:ダンスフロア
ムーンライトスターの〈ダンスフロア〉のイントロがかかると、私のテンションは一瞬でマックスに。
マックスにならなかったら林さんをエスコートしようかと思っていたけど、先に全力で飛び出していったから、一直線にサブステージまで。もちろん、あおりを入れながら。
サブステージの端のぎりぎりまで行って、頭上で手拍子をあおる。
ただ、このままここに居座るわけにも行かないから、タイミングを計って、元の立ち位置に戻ろう。頭サビを抜けて、ラップスタイルに移るところ。ここで私が一瞬だけバックボーカルで歌うところがあるから、歌いながら戻って振り付けをこなそうかなと。ほとんどアドリブで、最初から暴れちゃってるけど、いいよね?
そんなことを思いながら、サビを抜けて、最初のラップパートに。最初のフレーズだけ私もバックボーカルで入り、その後はしばらく休符。また歌いだすのは1サビから。
基本的に、サンシャインでの私の立ち位置はダンサーで、メインを歌うのは萌奈ちゃんと市原さんの二人。もちろん、私はミアシスで、竹田さんはミュージカル舞台でそれぞれ歌うことはあり、メインで歌うパートももちろん用意されている。
だけど、やっぱりね。そこははっきり分けておかないと、何のためにパート割りをしたのかわからなくなるから、形だけでもってこと。
ここからのサビは少しイレギュラーなパートを振られている。ミアシスでは絶対にやらないような感じ。
さっきも言ったけど、私の役割は基本的にバックコーラスやバックボーカルが多い。だけど、サビはみんな歌えるようにパートを振られていて、デュエットで歌っていくコンビは毎回変わる。だけど、私がバックコーラスを歌うのに変わりはない。だから、メインで歌ったあと、すぐにコーラスとかという、ものすごく忙しいパート振りになっている。
さらに、忙しいのはラストのサビの連続。
ここは、竹田さんもコーラスで参戦し、最初からコーラス→コーラス→メイン→全員、そのあと、全員でワンブロックという休みなしのサビが待っている。そういう私は、休み、コーラス→メイン→全員、そのあと全員でワンブロックというパート振りになっている。
別に歌うことに苦はない。だけど、それはメインでいるときの話であって、コーラスを挟むと、声を変えなきゃいけないから、しんどいのよね。
コーラスで高いところから音楽に合わせておろしてきて、メインコーラスでまた高いところからアルファベットの『U』を描く形で歌わなきゃいけないんだから。
最初のころは少し苦労したよね。下ろしてくるのはいいんだけど、あげるときに上がりすぎて声が裏返ったりとかすることが多かったから。今は、ちょうどいいとは自分で思ってるけど。
さぁ、私のパートだ。先にメインでそのすぐあとにコーラス。ワンフレーズ休憩のオール。
『高く手を掲げ叩け エンドレスナイトに 華を添えるように Uh-uh……』
ここはね、音がそろってるからまだやりやすい。問題は次のブロックになってくるけど、気にせずに突っ込んでいくか。
そんなことを思いながらテンションのバロメーターを吹っ切るようにして曲を披露。さっきの不安げな顔はどこに言ったんだといわんばかりに。
さぁ、気づけばそろそろラスト。私もコーラスをはさんだ後に、メイン、コーラスの順にパートが進んでいく。
そして、次のラストサビ前にあるBメロで、ステージの構想を見たときから考えていたある行動を起こすつもり。
サンシャインボーカルの2人が歌い終わった瞬間、右隣をチラッと見て、マイクスタンドからマイクをはずしている状態で歌っている林さんを確認。それを確認すると、右隣にいる林さんの左腕を引っ張り、ステージを歩き出す。それと同時に、反対側にいる橋爪さんのほうを見て手招き。
ただ、橋爪さんはこっちを見ていない。終わったと思いながら歩いていくけど、ここに救世主が。
萌奈ちゃんだった。萌奈ちゃんは私が林さんと一緒にステージを歩いている姿を見るや否や、橋爪さんの手を引いてステージを歩いてきてくれた。
助かった~。とか思いながら、ステージ中央で合流して、花道を女性4人で歩き、サブステージに。
もちろん、その間も、観客に手を振ったりしてファンサービス。しながらコーラスやメインをうたって行く私。ものすごく忙しいことをしているなぁ。なんて思いながら全力で楽しんでいたりする。
このあとの予定は、サビが終わると同時に、スポットライトは橋爪さんと林さんの2人の状態に。そして、サンシャインは一度ステージ袖に姿を隠し待機。橋爪さんと林さんのトークと告白が終わると、橋爪さんが書き下ろして、初披露のデュエット曲〈あなた〉に。そのあとに、サンシャインも再度登場し、ライブを進めていく。というのが本編の前半。
さぁ、ラストもみんな出揃えて〈ダンスフロア〉はフィニッシュだね。
『キラリ光る汗を 派手に振り乱し 最後まで全力で楽しむ』
ここまできて、一度ステージの照明はスポットライトで橋爪さんと林さんを照らすのみに。私と萌奈ちゃんは、花道の誘導灯を頼りに下手のステージ袖に向かう。
「萌奈ちゃん、さっきはありがと。気づいてくれなかったらどうしようと思っちゃったから」
「萌奈の立ち位置からだと、あおる人があまりいないからね。それに、美桜ちゃんが何か仕掛けてきそうだったから、つい注目しちゃって」
「なんでわかったの?誰にも言わなかったのに」
「だって、美桜ちゃんは盛り上げられそうなところで躊躇せずに突っ込むんだもん。それに、最初以外静かだったもん。いつやってくるかなって思ってたけど」
どうやら、萌奈ちゃんはわかっていたみたい。まぁ、緊張しなかった舞台ではアドリブを挟みまくったからな。行動は読めたんだろう。
「それにしても、よくやるよ。橋爪さんも林さんも困惑した表情だったよ。まんざらでもなさそうだったけど」
「誰にも言わずに暖めていたからね。困惑するのはわかると思うけど」
そういうと、私は自分のドリンクを探し、少しだけ口に含む。そして、ステージを正面から映しているモニターに目をやる。
ステージ上では、橋爪さんが世間話を繰り広げ、林さんは横で「うんうん」と聞いているだけ。ただ、次第に「いついうの?」と言いたげな表情に変わりつつある。
その顔を見た橋爪さんは、「無駄な話はここまでにしましょうか」と、いったん話に区切りをつける。
「今日は私たちムーンライトスターから皆さんに謝らなければいけないことがあります」
橋爪さんがそういうと、場内は少しざわつき、ここから橋爪さんの話が続く。




