83:エスコート
しばらくして、イヤモニターから先に鳥のさえずりが、わずかに遅れてモニターをはずしている左耳にも鳥のさえずりが聞こえてきた。それと同時に、被っていた黒い布を取り、会場に私の姿をさらけ出す。
始まった。と思ったのは一瞬だけ。そこからは何かに取り付かれたように踊りだす。無意識なのかわからないけど、序盤の記憶が少しだけない。
ただ、はっきりしてきたのは、誰も私を見て、いつもの奈緒美だということに気づかないこと。
序盤のソロを終えたところで少し記憶も戻ってきた。すでに曲で言うところのサビ部分にあたるところ。ここから逃げ回ったあとで少し息切れを感じるけど、側転が入る。そして、台形を描くようにして、メインステージを動き回る。
ここは逃げ回る妖精をイメージ。そして、音が小さくなったころにまた優雅に踊りだす。これを何回か繰り返し、曲を進める。
さぁ、また優雅に踊った。またここからダイナミックに動いていくよ。
飛んで跳ねてからの大車輪!
ここのタイミングがばっちりだとなおさら気持ちがいい。
シンバルを叩く音と私が側転をしたタイミングにあわせて特効の大きなクラッカーが鳴る。
このクラッカーのなかには、ハートの形や丸い紙ふぶきや紙テープが入っていて、一発ずつ発射される。
もう6発が鳴ったか。あと2回。しっかりと決めきりたいところ。
……よし、いけっ!あっ!
反動をつけるところまではよかった。問題はそこからだった。何を思ったのか、反動をつけたあと、飛ぶことよりも先に、手が前に伸び、前のめりになって、練習でも成功したことがないハンドスプリングの体制に入っていた。
まずい!と思うと同時に、決めきらないと!と思うのが精一杯だった。
一瞬の出来事だったけど、1秒が長く感じた。ただ、もちろん、振り付けは続く。ここだけアドリブで一回転して足をそろえて側転に移る。
気がつけば、そんなことをしていた。
なんとか、ハンドスプリングを成功させて失敗を回避できたものの、別の問題が私を襲う。
最後の一回はなんとか振り付けどおりにいったものの、側転をした瞬間、ずっと気にしている右ひざに痛みが走った。
でも、こんなところで負けていられない。痛みをこらえてポーカーフェイスを貫き、何もないように振り付けを続ける。気持ちもぶれさせず、エアリーを貫く。
……よし、大サビは抜けた。あとは、エアリーが逃げ回るけど、捕まってしまう。そこまで行けば、急遽できたブレイクタイム。ここで痛み止めを飲めるだろう。
この曲のラストスパートをかけるか。
少し曲があわただしくなり、私の動きも大きく。そして、萌奈ちゃんが演じるユカリがステージ上手に、私が下手にそろったとき、ようやく出番が終わると思った。
対角線上に並んだエアリーとユカリ。私が曲を聴き、タイミングを計り、そのままおびえた表情で後ずさりしたあと、下手袖に逃げる。そのタイミングで、ユカリが持っている模型のバズーカ砲を発射。これで妖精はいったん終了。まあ、またこのあとが残ってるんだけど。
よし、このタイミング!
エアリーが下手に逃げたタイミングで、ユカリがバズーカ砲を発射。このタイミングでちょうど曲の章が終わる。
よかった。タイミングはばっちりだ。さぁ、今のうちにこのあとの演目に備えてケアに努めよう。
ステージ上では、曲が変わり、ユカリ、ユウタ、オサムの3人が〈エスコート〉を披露中。
ユカリを誘う男性陣2人に対して、華麗にかわしながら高圧的な態度をとるユカリ。本来なら、私もおびえた表情でいたはずなんだけどな。
その私は、ステージ袖でこそこそ。
痛み止めを飲んで、塗り薬を膝に塗って、いつものドリンクを飲み、はずしたサポーターをもう一度きつく巻く。これだけしないと次のステージにいけないほと満身創痍になるとは……。ほんと、情けなくなる。
気づけば、すでに〈エスコート〉は終盤に。次は、エアリーとオサムの番。
あっと、このコンサートの序盤の設定だけ軽く話しておくね。
最初の〈ダッタン人の踊り〉は森に隠れた妖精(私・エアリー)を萌奈ちゃんが演じる少女につかまる。それがさっきの必死に逃げたりとかなわけで、その次の『エスコート』には、エアリーのお友達という設定の竹田さん(エレン)が妖精から人間の姿に変わり、市原さんが演じるオサムとともにユカリを誘い、エアリーが捕まっているユカリの館で小さなダンスパーティーを開催。そこまでが〈エスコート〉。そのあとは、〈幸せの蒼い鳥〉に移り、ダンスパーティーが終わった館をオサムがエアリーを探してさまよい、見つけて、外に逃がす。そして、エレンが締めのセリフを言って、ライブは本編に入る。
というのが流れかな。
さぁ、そろそろ私も再び出番だ。もう一度、優雅な妖精で羽ばたく。
男性陣のデュエットで〈エスコート〉が終わり、3人が一度ステージ上手に。そして、私が目立たないように、下手からステージイン。すでに、鳥かごに見立てた大型の模型の中に入り、曲が鳴り出すのを待つ。
曲が鳴り出して歌いだすのはオサム。ここはオサムのソロといっても過言ではない。実際に歌うのはオサムだけだしね。
ステージ上は、スポットライトでオサムを照らすだけ。私は真っ暗の中、ひたすら出番を待つだけ。
曲の中盤までは、私に動きはない。動き出すのは、間奏に入った後からになる。
丁寧にやさしくAメロとサビを歌い上げて間奏に入る。
曲に合わせたハスキーボイスは、さっき歌った〈エスコート〉とはまったく違う歌声。やっぱり、本番になっても、ものすごくきれい。
私もこんな声が出せたらなぁ、いいんだけどなぁ。さっ、とりあえず、ここは蒼い鳥になろう。
間奏を抜けて、再び歌いだすオサム。さっきと違うのは歌詞だけじゃない。私を照らすスポットライトが増えた。薄く蒼いライトが私を幻想的に映し出す。
サビに移るまでは、必死に鳥かごから逃げ出そうとして少し暴れる。サビに入ると、オサムが鳥かごに近づいてきて、そのまま鳥かごを開ける。けど、そこまでの私はおびえて、遠ざかるばかり。だけど、開けられてオサムが少し遠くなると同時に、思い切って飛び出す様子を表現する。
ここからは、バレリーナばりの振り付けで優雅に舞う。……けどね、いっておくけど、私は、バレリーナでなければ、ダンサーでもない。ほぼダンス初心者のボーカルなんだからね。
まぁ、そんなこといっても、ライブが止まらないから吹っ切ってやるけどね。
そして、曲の終わりで上手に引っ込み、本編にチャージをかける。
『ありがとう、オサム。これで世界は救われる』
エレンのセリフが静かに場内に響く。
そして、それと同時に前座は終了。違う世界に連れて行った人たちが一瞬だけ元の世界に戻ってくる。ただ、それも一瞬。また新しい世界に連れて行く。
まだ実は、サンシャインによるオープニングパフォーマンスでした。
ここから。ようやく本編ですw。
さて、美桜さんはどのように暴れてくれるのでしょうか?
楽しみなところです。
そんな〖Go high Go! We are MiASYS!〗はPVを2000超えました。
まだまだ続くこのお話。どうぞお楽しみください




