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Go high Go! We are MiASYS!  作者: 黒龍
2年目
83/558

81:いよいよ本番

「さぁ、みんなそろってるわね。本番に向かう前に少しいいかしら?」


 楽しんでいた表情から一転、かなり真剣な顔をした橋爪さん。さっきまでの表情を知っているから、この差が少し怖い。


「とりあえず、立ち話もなんだから座りましょうか」


 言葉は優しいんだけど、目がぜんぜん笑っていない。


「本番直前で本当に申し訳ないんだけど、優香さんと少し相談してフォーメーションを変えることにします。 序盤の〈エスコート〉だけど、萌奈ちゃんがどうしてもバックコーラスの美桜ちゃんに釣られること、美桜ちゃんが痛めている膝の状態が気になること。この2つの点で、今回のツアーの〈エスコート〉は美桜ちゃんをはずして、竹田さん、市原さん、矢島さんの三人でお願いします。これに伴う振り付けの変更や、パートの変更は一切ありません」


 唐突に告げられた言葉。私は別に構いませんが、問題はユカリさんのほうではないでしょうか?顔がすでに不安そうです。


「今日の状況次第では、元に戻すことはありえますか?」

「もちろんそこは。ただ、美桜ちゃんに20分も踊りっぱなしにさせるというのもさすがに酷かなと思って。竹田さんも20分以上も躍ったことはないでしょう?」

「そうですね。頑張っても15分未満には収まりますね。その前に振り付けを覚えられないですし」

「私も、優香さんと相談して驚かれました。彼女自身も10分が最長でしたので。それと、彼女は気づいていて、私ははじめて知ったのですが、美桜ちゃん、膝を怪我してるの?」


 この一言で、私も何も隠せなくなる。……。本当のことはやっぱり言わないといけないものか。


「……隠しててすいません。実は、膝の状態は思ったよりよくないです。調子や、こなす振り付けの度合いによって痛みは変わりますけど、専門の先生に診てもらうと、神経痛らしいです。だからといって、今まで手は抜いていません。全力でこなしてきたと思ってます。だからこそ、膝が痛くなっても、やりぬく。迷惑はかけないと心に決めていて、言い出すことができませんでした。たぶん、明石さんが気づいたのは、休憩時間だと思います。日が経つにつれて、控え室に戻ることが多くなったと思いますが、そのときに、痛み止めを飲んだりとか、膝の痛みを和らげるマッサージをしたりとかしてたんで。その場面を少し見られたんじゃないかと思います」


 気づかれているのは知っていた。彼女から視線が更衣室にむくことだってあったから。


「美桜ちゃんが言うとおり。優香さんが気づいたのは、水分補給のために控え室に入ったとき、美桜ちゃんが辛そうな顔で膝を押さえているのを見たからです。それを告げられて、美桜ちゃんに確認したのですが、やんわりと逃げられてしまって。そこでもう少しつめられたら、こういったことのなかったのかもしれないですが……」

「本当にすいません。私も隠したままいけると思ってましたので。でも、告白したからといって、甘えるつもりはありません。このツアーだけは絶対に成功させる強い気持ちで望みます」


 それだけ言って、深く腰を折る。ちょっと泣きたくなったし、涙を見せるのは恥ずかしいと思い下を向いたままにする。


「美桜ちゃん、相談してくれたら僕たちも一緒に考えたのに。やっぱり美桜ちゃんは一匹狼だね。協調するだけ協調して、自分のことは自分で抱え込む。そういうところが美桜ちゃんだよね」


 竹田さんはそういうと、私の頭を少しだけやさしくなでた。


「萌奈ちゃん、いけるよね?」

「もちろんです!やるしかないです。やらなきゃいけないときですし」

「ほら、美桜ちゃん、顔を上げて。みんなで笑うんだろう?こういうときって。ミアシスのライブ前は神妙な顔をしないんだろ?」


 竹田さんに促されて顔を上げる。そこにいたのは、不安そうな表情から一転、目の色を変えた萌奈ちゃん。ここまで来たら大丈夫だと思う。やってくれると信じてみよう。


「美桜ちゃん、お2人にはお茶を出さなくていいの?」


 あっ、そうでした。入ってきていきなりお話をされたのですっかり忘れていました。

 ……。あら、一瞬、美桜さんに戻った気がしたのですが、また戻ってきましたか?まぁ、それならライブに向かいやすいので、ユウタさんのお気遣いはありがたかったです。


「オリエンタルライムからの差し入れです。皆さんもそうなんですけど、変り種のハーブティーをご用意させてもらってます」

「あら、いい香りね。何の種類のハーブティーなのかしら?」

「ペパーミントです。思った以上にすっきりするんで、緊張もほぐれるかなって言うことで、ミアシスのマネージャーが持たせてくれました。うちのマネージャー、変り種のハーブティーを集めるのが趣味で、事務所には50種類も常備しているんですよ」

「なかなかいいマネージャーさんじゃない。私もあってみたいわ。そんなおしゃれなマネージャーさんに」


 それだけ言うと、橋爪さんはティーカップを傾けてお茶をすすった。


「林さん、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと冷ましてますから」


 やっぱり、猫舌は治らないものなんだね。まぁ、人の好みはわかってるつもりだからそれにあわせて用意してるけど。


「さぁ、これを飲んだらいよいよね」


 それだけいうと、にっこりする橋爪さん。それを見て、周りの私たちの空気が一瞬だけピンと張り詰める。だけど、笑顔を浮かべる橋爪さんは、本当に緊張しているんだと感じてしまう。感情を抑えきれない橋爪さんだから、いろいろあると思うけど、無理はしてほしくない。

 唯一心配なところは、林さんとのデュエット曲〈あなた〉。ここであまり感情的にならないでほしいと願うけど、初演では難しすぎるか。もうそろそろ本番だけど、念のために歌詞を確認しておくか。無理に断った曲ではあるけど。

 万が一、どちらかが歌うことが難しくなったとしても、似た声を出せる自身はある。歌詞もある程度覚えている。万が一があっても大丈夫だろう。


「さぁ、移動しましょうか。あと30分で本番だしね」


 ハーブティーを飲み終えた橋爪さんがにこやかな表情を崩さずにいった。緊張した面持ちは和らいだけど、体に入っている固さはあまり取れていない。かとか行って、私自身も、こういった場面では何もできない。何かできたら一番いいんだけど……。


「美桜ちゃん、あなたはいつもどおり暴れ倒して大丈夫だからね。いつもどおりのあなたでグループを引っ張ってちょうだい」


 移動しながら言う橋爪さん。必死に表情を悟られないように前を見たまま言う。

 暴れていいという許可は出たけど、最年少の私がグループを引っ張る力なんてあるのだろうか。まぁ、私は私らしく楽しんだらいいか。楽しんだもん勝ちというのが私のポリシーなんだし。

 あっという間にステージ袖。あと少しで本当に本番なんだということをしっかりと突きつけられる。

 上手、下手、それぞれの壁際には、あとどれくらいで自分の出番なのかわかるようにモニターがおいてある。そのモニターを見ると、アリーナ席はかなり埋まってきている。これだと、スタンドもやっぱり埋まってきてるのかな。なんとなくそんな気はするけど……。

 やばいな。モニターなんか見なきゃよかった。余計に緊張してきた。

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